日本酒のペアリング。8種類の料理と店主夫妻のおもてなしに酔う。

お酒は嫌いではない。いや、むしろ好きだ。若い頃はバーボンやカクテル、30代からは芋焼酎をたしなんできた。

そんな中、ずっと避けてきたのが日本酒だった。お付き合いでお猪口2、3杯くらいは飲むことはあっても、自ら注文することはなかった。口当たりの良さからベロベロに酔ってしまうのではと、二の足を踏んでいたのである。

そんな私も五十路となり、日本酒の美味しさを知りたいと思いはじめた。そこで今回訪れたのは、名古屋市西区那古野の円頓寺商店街の外れにたたずむ『酒事と飯事 黄瀬戸』。ここは、小皿料理8品と食事、甘味のコース(6800円・税別)に合わせた日本酒のペアリング(2400円・税別)が楽しめるのだ。

店は2年前にオープン。料理は店主の沼倉徳之さんが、日本酒のセレクトは妻の明美さんが担当している。ペアリングで提供される日本酒は1杯当たり約45ml。8品の料理に8杯なので、約2合を飲むことになる。

私は普段、芋焼酎をロックで4、5杯飲んでいるのだが、はたして大丈夫だろうか!?

「大丈夫でしょう、たぶん」と沼倉さん。たぶんって(笑)。

しかし、結論から言えば、心ゆくまで堪能することができた。では、その中でもとくに印象に残った料理とお酒を紹介しよう。ただ、日本酒はまったくの素人ゆえに、それぞれの味の違いが辛うじてわかる程度である。そのあたりはご容赦いただきたい。

最初にいただいたのは、佐賀県・天吹(あまぶき)酒造の「天吹 バナナ酵母 純米大吟醸」。「その名の通り、バナナの風味をお楽しみください」と、明美さん。

うん、後味にふわっとバナナの香りが広がる。決して甘ったるくはなく、どこまでも上品。しかも、ひと口飲んだだけで食欲が刺激された。食前酒としては最高だ。

この日の前菜は、「じゅんさい」。ひんやりとした口当たりといい、ゼリー状のぬめりのある食感といい、今の時季にぴったり。カニの身もたっぷり入っていて旨い。これを肴にあっという間に「天吹」を飲み干してしまった。

2杯目は、三重県・木屋正商店の「而今(じこん) 純米吟醸 無濾過生 山田錦」(右)。フルーティーな香りが立ち、口に含むとほのかに甘い。二口、三口と飲むほどに美味しくなる。

これはヤバイ(笑)。右側は「而今 純米吟醸 無濾過生 酒未来」。一口だけ試飲させてもらったが、これもまた旨みと甘み、酸味のバランスが秀逸だった。

おしのぎは「枝豆ご飯」。もう、枝豆がゴロゴロ!おしのぎとは、会席料理で空腹を少ししのぐ献立のことだが、しっかりめの味つけで十分に酒の肴になる。とくに甘めの「而今」とよく合う。もう、極上のひととき。この感覚は焼酎やビールでは味わえないだろう。

沼倉さんは店をはじめる前、飲食とは別の仕事をしていて、60歳くらいまでに小さな店をやりたいと思っていたという。もともと食べ歩きが趣味で、これまでジャンルを問わず多くの店を訪れていた。

その中で感じたのは、少しずついろんな種類の料理とお酒が楽しめる店が意外と少なかったこと。それが店のコンセプトとなった。

料理は独学だが、まったくそれを感じさせない。日本酒とのペアリングが前提であれば、味付けをやや濃いめにしてもよさそうである。しかし、どの料理も食材そのものの味が楽しめるギリギリの味加減。

とくにそれを感じたのは、五品目の「しゃこの茶碗蒸し」。贅沢にあしらったウニと、中にたっぷり入るシャコの味が複雑に絡み合い、ハマグリで丁寧にとっただしがまとめ上げている。あまりの旨さに思わず唸ってしまった。

コースも終盤に入り、6品目の焼物「のどぐろ一夜干し」を食べる頃には酔いがまわってきた。しかし、いつもの酔い方とは少し違う。何と言ったらよいのか……。ふわふわとした感覚が何とも心地良い。これまで飲んだのは1合と少し。この量でこれだけ酔うということがわかっただけでも、私にとっては収穫だ。

「のどぐろ一夜干し」に合うお酒として出されたのが、福岡県・高橋酒造の「繁枡(しげます)純米大吟醸 にごり酒」。これが今回飲んだお酒でいちばん美味しかった。フルーティーで芳醇な香りとともに広がるほのかな甘みが最高だった。「のどぐろの一夜干し」もさらに美味しくさせた。

コース序盤では恐る恐る、舐めるように少しずつ飲んでいた日本酒が、いつの間にかキュッと飲めるようになった。そのせいか、かなり酔っ払ってしまった。7杯目以降、日本酒は半分にしてもらった。

料理は7品目に焼物「うなぎの白焼き」、8品目に「煮あなご」が出されて終了。いやぁ、どれも旨かった!

ここからは食事。この日は「土鍋炊き御飯」と「アスパラとオクラの赤だし」、「ちりめん山椒」。

おっ、ご飯は米粒が立っていてち光り輝いている。ちりめん山椒の味付けもよい塩梅。山椒の風味と赤だしがこれまたよく合うのだ。しかも、赤だしは具だくさん。おかずとしても楽しめる。それにしても、アスパラの赤だしなんて初めて食べたけど、意外にイケるのも驚いた。

「私は赤だしに何でも入れてしまうんです(笑)。それと、アロウカナという鶏の青い卵もありますので、卵かけご飯もどうぞ」と、沼倉さん。

お言葉に甘えて卵かけご飯をいただくことに。アロウカナの卵は、白身に対して黄身が大きく、とろみが少ないのが特徴。ゆえに卵かけご飯にすると、その味の違いがよくわかる。うん、たしかに濃厚だ。なんだかパワーをもらったような気がした。

この後、甘味に「プリン」が出てコースは終了。ゆっくりと時間をかけて食べたせいか、お腹がいっぱいになった。何よりも日本酒の美味しかったこと! もっと早く気付くべきだったと後悔したほどである。

今回、料理と日本酒が互いに引き立て合うのを体感して、実に豊かな気持ちになれた。そこに日本酒の醍醐味があるように思えた。

 

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