「誰でもマニアになれる」 片手袋研究を通して気がついたこと

マニアフェスタに出展する筆者

以前DANROの記事でも紹介された「マニアフェスタ」というイベントがあります。このイベントには、ゴムホースに地獄寺、空想地図に歩行者天国など、「え!こんなことに熱中しているマニアがいるの?」と来場者が驚いてしまうようなマニアが集まり、冊子やグッズを販売しています。かくいう私も片手袋(道ばたに落ちている片方だけの手袋)のマニアとして参加しており、他の出展者や来場者との語らいを楽しんでおります。

意外と見つからない熱中できること

去年から始まったこのイベント。これまでに番外編を含め計4回開催され、私は毎回参加しています。イベントでは多くの来場者と話すことになりますが、前から気になっていることがあります。それは来場者から次のような声を頻繁に寄せられることです。

「マニアの皆さんが羨ましいです。私には真剣に打ち込めることが一つもないから」

路上に落ちている片方だけの手袋なんかに人生を捧げている私としては、「何バカなことやってるんだよ!」と嘲笑されてもしょうがないと思っているため、この反応は意外でした。

しかし、何度も何度も同じことを言われるうちに、私は気付きました。食う、寝る、働く。それ以外の部分で熱中できることを探している人は予想以上に多いということに。

定年を迎え仕事から解放されるも、新しい生きがいとなるような趣味を見つけられないシニア世代の話はよく聞きますが、それは若い世代も同じなのかもしれません。「人生をかけてもいい」と思えるような対象と出会うのは、意外と難しいことなのかもしれません。

気になる路上のモノ

私は片手袋研究家を名乗り、町中に落ちている片方だけの手袋を撮影し、「なぜ片手袋が発生するのか? どんな場所に多いのか? 誰が落としていくのか?」などについて考察する研究を続けてきました。13年間で撮影した片手袋の写真は、4000枚を超えています。

そんな私ですが、片手袋を探して路上に目を落としている内に、他にも気になるモノがいくつか出てきて、撮影するようになりました。その一つが、「ガードレールとシュシュ」という現象です。

ガードレールに置かれたシュシュ

落とし物のシュシュを拾いあげた人が、落とし主が気がつくように、シュシュをガードレールに置くという現象です。片手袋も同じように置かれていることが多いので、ガードレールは都会の落し物置き場として重宝されていることが分かります。

そのほかにも、片手袋を探して町中を歩いているうちに、ソフトクリームの置物が気になるようになり、撮影するようになりました。ディスプレイ用に作られたソフトクリームの置物です。片手袋の場合は「見つけたら必ず撮影する」というルールを自分に課していますが、ソフトクリームの置物は、それがあることで何とも言えず良い風景になっている場合にのみ撮影しています。

ソフトクリームのある風景

片手袋を大きな柱として、その他にもいくつか撮影対象を持っておく。すると何の変哲もない町やのっぺりとして取っ掛かりがないように思える景色も魅力的に映るようになります。そして、道に落ちた片手袋やシュシュが生まれる背景にある「人の生活」が見えてくると、自宅から駅までの道ですら知的好奇心をビンビンに刺激してくる宝の山に感じられてくるのです。

マニアの民主主義

もし「マニアフェスタ」に出展しているマニアの人たちが楽しそうに見えて、羨ましいと感じるのならば、それは「当たり前のものを当たり前としておかない視線」に起因しているのかもしれません。「自分には熱中できるものが何もない」と悩んでいる方がいたら、まずは何もないと思っている日常に新たな視線を注いでみてはいかがでしょうか?

路上に限らず、食事や好きな色、ついつい選んでしまう洋服の傾向を客観的に見てみる。すると思いもよらないところに人生を豊かにしてくれるタネがあり、当たり前と思っていたけれどあなたにしか備わっていなかった”マニア性”に気付くかもしれません。

そして、夢中になれそうなテーマを見つけたら、「現象に名前をつける」「独自のルールを設けてみる」「写真撮影などを通じて観察を続ける」「小冊子やグッズを制作する」といったことを実践してください。現象に名前をつけたりルールを設けたりすると「自分だけの楽しみ」という意識が芽生えて活動が長続きしやすくなりますし、写真を撮っておいたり小冊子を作ったりすることは他人の共感を呼び込むきっかけになります。

「他にやっている人がいる」、「まだまだ知識が足りない」、「長年続けなければマニアと名乗れない」ということを気にする必要はありません。なぜならあなたが見ている世界は、あなたにしか見えていない世界だからです。あなたにしか見えていない世界の見え方を何らかの形で表現できれば、それはもう立派なマニアだと思うのです。

フランスの映画監督、ジャック・タチが提唱した「喜劇の民主主義」という考えがあります。「笑い」は特殊な技能を持っていたり特徴的な容姿をしていたりする喜劇役者だけに宿るものではなく、人間であれば誰にでも等しく備わっているもの、とする考えです。

この考えを踏まえて、私はこう言いたい。「マニアの民主主義」と。人生を豊かにしてくれるものは、あなたのすぐ目の前に転がっているかもしれません。

 

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