京王線をひたすら西へ、高幡不動で出会ったジブリ映画の原風景〜大都会の「黙考スポット」

丘の上からの景色、日本の原風景

ふだん東京のネットベンチャーの慌ただしい現場に身を置いている筆者が、大都会の喧噪から離れ、ゆっくりと物思いにふけることができる「黙考スポット」を探索するこのコラム。今回は、京王線を西に向かってみた。

人の流れに逆走する快感

都心の黙考スポットでは満足できずに「そうだ、西へ行こう」の精神は続く。前々回、西方遠征のため利用したJR中央線は意外と朝は混んでいて疲れたので、違うルートで西を目指してみたい。そういえば東京の西に住んでいる知人もいるはずだ。朝イチでその近くで打ち合わせなんてしてみたら、都心のスタバで会うよりも、何かいい仕事に繋がるかもしれない。

待ち合わせ場所は京王線の「高幡不動駅」だった。昔、部下が仙川駅(調布市)の近くに住んでいて、よく泊まりに行った記憶があるが、深夜残業で泥のように疲れ果ててのタクシー移動だったため、京王線を西に向かって乗った記憶はほぼない。

都営新宿線で新宿駅まで行って乗り換える。新宿駅は早朝でも人混みでごった返している。
「ああ、またやっぱり朝から人混みか…。中央線で西に向かった時と同じように、結局朝から疲れちゃうのか…」

うなだれ気味に人混みをかき分けて、京王線の下り列車に乗り込む。車内は閑散としている。人がいない。朝の通勤列車とは思えないほど、空いている。

朝から「空いた車両」に座れる幸せ。都会ではなかなか感じることのできない小さな幸せ。

人の流れに反して、西に向かって列車は走り出す。静かな車内で「人の流れと逆走する」ことが愉悦を感じる。途中すれ違う上りの京王線は満員列車だが、僕を乗せたこの逆走列車は一体どこへ向かっているのか。スタンドバイミー風なワクワク感。野島伸司のドラマ「未成年」で、いしだ壱成と桜井幸子が乗り込んだ列車のような厭世感。

準急に乗って新宿から30分ほどで「高幡不動駅」に到着した。まだ朝の8時だ。駅のロータリー近くのマックで知人との打ち合わせを済ませる。「時間はあるし、せっかくなので、一緒に黙考スポットでも探索しませんか?」

同世代のオトコには「一人になりたい黙考スポット探し」というネタは意外と刺さる。やはり、都心労働を20年近くやっていると、心も体も確実に錆びているのだ。まずは駅名にもなっている「高幡不動」に向かう。

小高い丘陵からスタジオジブリの森を感じる

住所でいうと「東京都日野市」。東京都だけど、多摩川を渡って降りたこの地は、まず空気の澄み具合が違う。高幡不動尊金剛寺の境内に一歩足を踏み入れると、東京23区内の寺院とは明らかに異なる空気のみずみずしさを感じる。思わず胸いっぱいの深呼吸をしてみる。朝に深呼吸をするなんて、何十年ぶりだろうか。

高幡不動尊金剛寺の境内にある五重塔

広々とした境内には、存在感のある五重塔がそびえ立つ。大田区池上本門寺にも五重塔はあったし、黙考スポットを探すと、こんなにも五重塔に出会うものなのだろうか。「まるで観光客のいない京都みたいですね」と知人に同意を求める。

朝の静寂な高幡不動の境内をそろりそろりと歩いていると、左前方に緑深き森林が見えてきた。山とまでは言わないまでも「丘」といえる大きさだ。五重塔や寺社の建物の後ろを覆うかのように、緑の木々が生い茂っている。丘をみると登ってみたくなるのは、もはや黙考スポット病にでもかかってしまっているのかもしれない。

丘をみると登ってみたくなる

グーグルマップで確認すると、高幡不動金剛寺と隣接するその丘一帯は「多摩丘陵自然公園」という名称だった。その丘を登っていくには蛇行した小道をひたすら歩み続けなければならない。軽く汗ばんでしまうほど登っていくと、見晴らし台に到着する。もちろん、誰一人としてすれ違う人もいないし、風の音と鳥のさえずりしか聞こえない。

近くに住んでいる知人もこの場所は来たことがないという。地元民ですらその見晴らし台からみる光景は圧巻だった。

「スタジオジブリの映画で見た光景だ」

お互い交わす言葉も少なく、ゆっくりとした時間だけが流れる。

東京でこんな景観があったのか。知人とそこにあるベンチに座ってみると、お互い交わす言葉も少なく、ゆっくりとした時間だけが流れる。おっさん二人が「いつまでもここにいたい」ような気分になる。

ご神木に感じる「山の神」

朝から清らかな気分だ。時を惜しむように丘を下っていくと、途中に「ご神木」と思われるような大木に出会った。この一帯全体を取り仕切る「森の神」のように感じたので、近づいてみると…。

「須田さん!上!木の上を見てください!!」

知人が突然大声を出した。指をさしたその先を見ると、ご神木を天に向かって登っていく「大蛇」がいた。

ご神木を天に向かって登っていく「大蛇」

東京に上京して20年経つが、東京で蛇をみたのは初めてで、腰を抜かしそうになった。

「あれは神様に違いない」

こういう聖地を訪れて清々しい気分になっていると、すぐに「神かもしれない」という思考になりがちだけど(池上本門寺でも「おじさんの妖精」にあった気がする)、脳はポジティブな反応をしている気がして心地いい。アイデアがひらめいたときの感覚に近い。

思わぬセレンディピティ(偶然なる幸運)に知人もテンションが上がる。

「次のアポイントは午後なので、まだ少し時間ありますし、近くのスーパー銭湯でもいって解散しますか?」

地元民ならではのレコメンドをもらう。脳のリフレッシュの次は、体もリフレッシュさせて、午前中で完全に「キメ」にかかっている。午後の仕事を加速させる効果も期待できそうだ。

僕自身はあまり銭湯や温泉などが好きではなかったけれど、どうも最近はサウナとかも流行ってるようだし、「おじさんのたしなみ」としてマスターしておきたいものの一つかもしれない。

【後編】京王線をひたすら西へ、高幡不動で出会ったジブリ映画の原風景〜大都会の「黙考スポット」

 

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