「ひとりのほうが孤独を感じない」感情豊かな楽器「アコーディオン」で弾き語るソロシンガー

アコーディオン奏者のオランさん。名前の由来は「オランウータン」で、マレー語で「森の人」という意味

アコーディオンは歴史が長く、一般的によく知られているわりに、本格的な奏者の数がさほど多くない不思議な楽器です。どのような仕組みで音が出るのかをきちんと理解している人も、実際のところ少ないのではないでしょうか。

シンガーソングライターのオランさん(52)は、ギターやピアノを使うことが一般的な「弾き語り」シーンにおいて、アコーディオンでひとり、弾き語るスタイルで高い評価を得ています。その卓越した演奏技術は、数々のレコーディングやセッションへ「奏者として参加してほしい」というオファーが引きも切らないほど。

そんな彼女が作り出す唯一無二の歌世界は、美しくもどこか寂しげな楽器の音色とも相まって、一度耳にしただけで誰の胸にも強烈な印象を残します。

アコーディオンという楽器は、なぜ単体でここまで豊かな世界を表現できるのでしょうか。その魅力や問題点について、はたまた表現者としてのこだわりについて、オランさんにじっくり語ってもらいました。最終的には、意外なビジネスプランについても話題は及びます。

【動画】『ホームレスのラブソング』(YouTubeより)

アコーディオンは“ひとりオーケストラ”

ーーオランさんのライブを拝見するまで、アコーディオンがこんなに「弾き語り」に適した楽器だとは思いませんでした。

オラン:適してないなって思うことのほうが、実は多くて(笑)。楽器自体が重くて、10キロくらいあるんですよ。だから楽器を弾くために必要な筋肉が、声を出すための筋肉を邪魔するんです。歌のトレーニングもきちんとしたことがないのに、いきなりそんな特殊な状態で歌い始めちゃったもんだから、ずっと苦しかったんです。最近ようやく苦しくなくなってきたんですけど。

ーーなるほど。それは実際にやっている人にしかわからない苦労ですね。

オラン:逆に、(弾き語りに)向いてる部分は持ち運べるところ。例えばピアノは、楽器が置いてあるところに行かないと弾けないし。あとは楽器を抱えるっていうことで、自分の感情表現に直結しやすいかもしれないです。アコーディオンの最大の特徴って、発音後の音をいくらでも加工できるところなんですね。ピアノは一度音を出したらペダルで伸ばすか切るかくらいしかないですけど、アコーディオンはベローイング(蛇腹を操作すること)でビブラートをかけたり、音量を大きくしたり小さくしたりできる。ただ、わたしはそれが感情に直結しすぎないように気をつけてます。

ーー気をつけないと直情的になりすぎる?

オラン:そんなに感情込められても困るんじゃないかなと(笑)。今はそうでもないですけど、わたしも以前は感情的すぎる音楽を聴くのは苦手でした。感情に直結しやすい楽器だというのは、利点でもあり欠点でもあるのかもしれません。

ーーアコーディオンの音って、「隙間が埋まってる」感じがするんです。別の楽器と同じ和音を弾いても、情報量が多く聴こえるというか。その分、ひとりで表現できる世界の密度が高くなるのかなと。

オラン:アコーディオンを作った人も「たくさんの情報を詰め込みたい」っていうのがあったんじゃないかな。「音色切り替えスイッチ」っていうのがついてるんですけど、そこに「バイオリン」とか「クラリネット」とか書いちゃってるんですよ(笑)。“ひとりオーケストラ”みたいな発想だったんだろうな。

歌ってもいいと気がつかなかった

ーーオランさんの音楽には、シャンソンなどワールドミュージックのムードを強く感じます。ロックやポップスなどをルーツに持つ人が多い「弾き語り」シーンでは比較的珍しいですよね。

オラン:ワールドミュージックをいろいろ聴くうちに、アコーディオンを使った音楽が世界中にあることを知って、特にフレンチ・ミュゼット(20世紀初頭にパリで流行した大衆音楽)が好きになりました。それから、好きなアコーディオンでお金を稼げたらいいなと思って、一時期ホテルのレストランなんかでミュゼットやシャンソンを弾く仕事をしてたんです。歌を作り始めたのはその後だったので、その影響があるのかな。

ーーなるほど、最初は純粋に演奏家だったんですね。ソングライターではなく。

オラン:そうですね。「歌ってもいいんだ」ってしばらく気がつかなかったんですよ。だけど、なんか歌を作ることが突然始まっちゃったの。そうしたら、音だけでは表現しきれないことがいっぱいあったから、すごく自由になった。歌がアコーディオンを助けて、アコーディオンが歌を助けてみたいな感じで。

ーー作曲を始める明確なきっかけはなかった?

オラン:そうそう、そうなの。今でも不思議なんだけど、本当に急に始まっちゃった(笑)。今も、「歌を作ろう」と思っても全然作れないんですよ。ひらめかないと、全然書けなくて。作りたい時に作れないのは結構困るんだけど。

ーー表現したいことや歌いたいことがあるから作ってるわけじゃなくて、自然に出てきてしまうと。

オラン:「天から降ってくる」みたいに言うと「カッコつけてんのか」って思われるから言いたくないんだけど(笑)。でもそういう不思議な感じ。自分でも曲の意味がわかってないこともあって。でも「これは絶対に歌ったほうがいい」とか「これは歌うべきではない」っていう判断は、作ったとき自然にしちゃうんです。作って10年くらい経ってから「この歌はこういうことだったんだ!」って気がつくこともあって。わたしの場合、意図的に「こうしよう」と思ってできることがすごく少なくて、「こうなっちゃったから仕方ない」みたいな、大体のことがそうですね。音楽以外でも(笑)。

ひとりのほうが孤独を感じない

ーーオランさんの音楽って、程よい毒っ気とユーモアが混じっているところが特徴的だなと感じています。

オラン:それは、性格が悪いから(笑)。幼い頃に病弱だったこともあって、ひとり遊びをずっとやってきた影響もあると思います。場合にもよりますけど、人といると役割を演じなきゃいけなかったりするじゃないですか。それが、ひとりでいると自分を押し殺すこともないし、思い出したい人のことを自由に思い出すこともできる。ひとりのほうが孤独を感じないというか。そういう意味で、「一緒がいいよね」とか「そばにいたい」とか、そういう表現じゃ済まない偏屈な部分が歌に出てるのかな。

ーーアルバムも複数発表していますけど、曲を録音する意味ってどんなふうに考えていますか。

オラン:ライブではうまく演奏できない曲をきちんとした形で記録しておきたいという意味合いと、単純に物販で売れると経済的に助かるっていう面がありますね。ライブでお客さんの反応を受け取りながら歌い続けないと自分の歌にならないっていう感覚があるので、曲を作ってすぐに録音するのは違うかなって思ってます。ある程度の水準に達したところで、記録として録音したい。

ーーでも、それだと終わりがないですね。録音した曲をその後もライブで歌うでしょうし、そうするとまた曲が育ってしまう。

オラン:そうなんですよ(笑)。なので、昔録った曲もアレンジを変えてもう一度録ることもあります。あと、今まではソロで弾き語りをするっていうことをそんなに押し出すつもりはなかったんだけど、落語と漫才が違うみたいに、ひとりでやる意味ってすごくあると思うんです。「人を雇うお金がないからひとりで」みたいなことではなく、ひとりだけで録音することの意味を追求した作品も将来的には作ってみたいですね。

アコーディオン軽量化に向けて

ーーほかに、今後について何か考えていることはありますか。

オラン:アコーディオンの可能性は追求し続けたいし、聴きたいって言ってくれる人がいれば出前もしたい。アコーディオンって重いから体に負担になるんですけど、なるべく健康を維持して死ぬまで弾きたいです。

ーーアコーディオンって、軽量化は難しいんですか。

オラン:ホントですよね……。金属の素材とかを軽くしちゃうといい音が出ないのかもしれないので、楽器自体は軽くできなくても、演奏用のスタンドみたいなものがあれば負担をかけずに持てるようになるんじゃないかな。そうすれば年を取っても弾けるかも、って今ちょっと考えてるんです。楽器は認知症にもいいって言いますし。

ーーそれ、特許とか取れるんじゃないですか。

オラン:そうそう、「オラン棒」みたいな(笑)。そういうのができたらいいなって。

 

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