カジノで儲けた金は何に使うべきか? ギャンブラーが直面する厄介な問題

ラスベガス(2003 Photo by Masanari Matsui)

カジノで勝つのは簡単ではないが、もし勝った場合、そのお金はどうすればいいか。

ぼくの場合、初心者の頃は負けてばかりで、勝ったあとの事など考える余裕もなかったが、カジノに慣れ、たまに勝てるようになると、やはりこの問題に直面した。

もちろん、勝ち逃げがいいに決まっているが、実はそれが難しい。

イギリスの首相だったチャーチルでさえ、「ギャンブラーにとって最大の不幸はギャンブルが出来ないこと」と言っているように、ギャンブラーにとって賭けを切り上げることは難儀だからだ。

ぼくも含め、ほとんどのギャンブラーが増えたチップをもっと増やそうとするが、倍々で増えるようなことはなく、「あの時やめておけばよかった……」と後悔するのがオチである。

勝ったお金で買い物へ

ある日、1000ドルほど勝った時だった。そのまま続けると負ける気がして、とにかく一度カジノを出て、また戻ろうかどうしようかと迷っていると、タクシー運転手から声をかけられた。

「勝ったかい?」
「うん」
「いくら?」
「1000ドルくらい」
「だったら、勝ってるうちにやめときな!」
「それが出来れば苦労しないよ」
「ならば、物にかえてしまうのはどうだ? いま欲しいものはないか?」

ラスベガスは砂漠のため、昼間は暑いが夜はたまに肌寒く、上着が欲しいと思っていた。

「ジャンパーが欲しいな」
「いい革ジャンを売ってる店がある。アパレル工場のアウトレットだ。今から行ってみないか?」

何やら親切な運転手だと思った。見知らぬ都市だと、本当に親切で言っているのか、それとも騙そうとしているのかの見分けが難しいが、ラスベガスならそんな心配はない。彼の話に乗ってみようと思った。

「値段はどれくらい?」
「1000ドルあれば何着でも買えるよ。オレはラウル」
「ぼくはマーズ(筆者のニックネーム)」

ぼくらは握手し、郊外に向かった。

ラムの革ジャンを購入

しばらく走るとBELZ(ベルツ)という名の大きな店に到着した。

BELZ (2003 Photo by Masanari Matsui)

どうせ暇だからと、ラウルは駐車場で待っていてくれた。

店は短時間では回れないほど大きな複合施設で、革ジャンのほか、鞄や靴など色んな製品をとても安く売っていた。

店内の様子(2003 Photo by Masanari Matsui)

どれも安くて魅力的だが、あまりにすごい品揃えで、目移りして全然決められず、結局店員に選んでもらった。

値段は300ドル(当時のレートで約3万5000円)くらいだったが、とても柔らかいラムの革ジャンで、「日本なら10万円以上する」と言われて衝動買いした。

革ジャンを着て戻ると、ラウルから似合うと言われた。

ストリップ(カジノが密集するラスベガス中心地の大通り)に戻り、革ジャンを着てカジノに行くと、顔見知りの客から「いい革ジャンだ」「どこで買った?」「触ってもいいか?」などと言われた。

ぼくはすっかり気を良くして、次も勝ったらまた革ジャンを買おうと思った。

増えていく勝利の証

すると翌日もまた勝った。ぼくは配当金を握りしめてBELZに向かい、この日は革ジャンと革ジャケットの2着を買った。

どういうわけか次の日も勝ち、またBELZに行って革ジャンを買った。勝つたびに革ジャンは増えていった。増えていく革ジャンはまるで勝利の証のように見えた。

こうしておけば、この後負けても革ジャンは残り、儲けをみすみすカジノに返してしまうこともない。我ながらいいやり方を見つけたと思った。

ぼくは勝つたびに革ジャンを増やし、ついに帰国前日の夜を迎えた。

最後の勝負に出掛ける前に荷造りを済ませてしまおう。そう思ってクローゼットを見て、ぼくは愕然とした。革ジャンがいつの間にか十数着になり、持ち帰るのが可能な量ではなくなっていたのだ。

増えていく革ジャン (2003 Photo by Masanari Matsui)

スーツケースにも入らないし、重たくて運ぶのも無理。何てバカなことをしたのかと思った。持ち帰れないんじゃ意味がないじゃないか……。

ふと、一緒に遊んだアメリカ人に買ってもらえないかと思った。同じホテルに泊まっているし、探せばどこかにいるはずだ。

カジノに行くと彼らがいた。状況を話し、安くするからというと買ってくれることになった。

部屋に来てもらい、欲しい革ジャンを買ってもらう。自分の分以外は全て処分でき、胸をなで下ろした時だった。

「マーズって頭悪いよね」

革ジャンを買いすぎたことかと思ったら、そうではなかった。

「持って帰れないなら国際郵便で送ればよかったのに」

その手があったか! と思った時は遅かった。みんな革ジャンを手に、歯を見せて笑っていた。

 

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