「しょうがない」が口グセの50歳未婚男性 「シングルライフ」は幸せなのか?

結婚観について語る山下久猛さん

これまで結婚歴がなく、独身のまま今年50歳を迎えるフリーライターの山下久猛(ひさたけ)さん。過去には結婚を考えた女性もいたそうですが、挙式直前に婚約を破棄し、式を取りやめたそうです。なぜ、結婚しないシングルライフを送ることになったのでしょうか。聞き手の私も独身で37歳。山下さんと同じ酉(とり)年です。一回り上の先輩に「幸せですか?」と聞いてみました。

20代半ばで受けた”結婚攻勢”

山下さんは愛媛県出身で、高校卒業を機に上京。1年間の浪人生活を経て明治大学政治経済学部に入学しました。大学卒業後はバイク雑誌の編集者や転職情報サイトのライターとして働き、現在に至ります。

――ずっと独身ですが、過去には結婚を考えた相手もいたそうですね?

山下:はい。24、5歳の頃に付き合った彼女がすごく結婚願望が強くて、挙式寸前まで行きました。もともと「おれは結婚願望ないよ」と伝えていたんですが、付き合い始めるとすぐに「結婚したい」と言われて、断りきれなくなったんです。

「結婚するならこいつだろうな」とは思っていました。でも、「今じゃない」と思ってしまったんです。

――どうしてそう思ったんですか?

山下:編集者として早く一人前になりたかったので、仕事に集中したかったんです。結婚したら、家庭のために時間を取られるじゃないですか。それが嫌だったんですよね。

サングラスを外すと塩顔の素朴なおっちゃんという雰囲気

モヤモヤした気持ちが膨らんで

――結局、その彼女とはどうなったんですか?

山下:両親に挨拶に行って、東京の御徒町で安物の結婚指輪も買いました。レストランを予約してプロポーズみたいなこともやったし、一緒に住む家も決めた。いよいよ式場を選ぼうかという段階で「押し切られてここまできたけど、本当に結婚していいのかな」というモヤモヤした気持ちが急激に膨らんできて、全部キャンセルしたんです

――話を切り出すのは大変じゃなかったですか?

山下:些細なことでケンカしたとき、腹が立った勢いで「お前とは結婚できない!」と言ってしまったんです。ひっくり返せるタイミングはここしかない、という思いもあったのかもしれない。

すぐに「ごめんなさい!」と謝られたけど、「お前のことは好きだけど、今は結婚したい気持ちはない」と言って白紙に戻しました。しばらく待っていてくれたけど、3カ月ぐらいしたらフラれました。

――後悔はないですか?

山下:まったくないです。もし結婚していたらフリーランスという働き方は選べなかったと思うし、書籍を出す機会もなかったと思うので。

(注)山下さんは『警察署・消防署で働く人たち(しごと場見学!)』など、就労や働くことをテーマに著書を出しています。

山下:彼女に対しては今でも申し訳ない気持ちでいっぱいですが、もしおれと結婚していたら彼女は不幸になっていたはず。結果的によかったと思います。

タイムマシンがあったら戻りたい

――その後、結婚の機会はなかったんですか?

山下:30代で趣味でダイビングを始めたのですが、37歳の頃にダイビングを通じて女子大生のコと出会い、結婚したいと思いました。自分から結婚したいと思ったのは、後にも先にもこのコだけですね。親にも挨拶しました。

――それでも結婚しなかったのは、なぜだったんですか?

山下:言い争いをして、つい彼女にひどいことを言ってしまったんです。言った直後に「しまった!」と思ったんですが、相手の気持ちがサーッと引いていくのが分かりました。すぐに謝って弁解したけど、ダメでした。それが原因でフラれてしまい、1年間ぐらいのお付き合いでしたね。

タイムマシンがあったら、当時に戻ってやり直したいです。おれが彼女を傷つけるようなことを言わなければ、結婚していたかもしれない。人生で一番後悔しています。

恥ずかしい話ですが、二人が付き合っていた頃の夢を、いまだに見るんです。で、朝起きたらがっくり。毎回、胸がつぶれるほどの絶望感を味わいます。もう10年以上経っているのに、どんだけ引きずるねんって、自分自身にヒキますわ(笑)

12年前の失恋を振り返り、淡々と語る山下さん

気づけば7年間、彼女ナシ

――その後、結婚の機会はなかったですか?

山下:はい。結婚しなくても困ることはないんですよね。身の回りのことはできるし、結婚しないと一人前に見られないとか、変人扱いされるとかは、もうないじゃないですか。一昔前だと、会社のなかで要職につけないなんて話もありましたけど。

――彼女はいないんですか?

山下:はい。もう7年ぐらいいないので、一緒に旅行したり飲みに行ったりする相手がいたらいいなとは思います。でも、ひとりで生活すること自体は、別に寂しいとは感じないんですよね。

――婚活はしないんですか?

山下:していません。そこまで結婚したいと思っていないんです。一度だけ興味本位で某婚活サイトに登録しましたが、結果は散々でした。いいなと思う相手からは全然反応がなくて、ミスマッチの連続。メッセージのやり取りにお金がかかるのが嫌で、やめました。そもそも本気じゃなかったので。

学生時代と同じ生活

――マイペースというか、流されないタイプなのかもしれないですね。

山下:でも、周りは結婚して劇的にライフスタイルが変わっているのに、自分だけ学生時代と変わっていないのは、寂しい気もします。仲間から取り残された感じがして。

でも、無理して結婚しようとまでは思わない。今さら婚活とか、面倒臭いんですよ。「ああ、なんか残念な人生だったなあ」というぐらいの思いです。できなかったんだから、しょうがない。すべてをあきらめて、現実を受け入れる境地です。結婚してもしなくても、人はいつかは死にますから。

――結婚しない人生もアリってことですかね?

山下:おれは結婚に向いていないタイプだと思うんです。マイペースなので、いまさら他人と一緒に暮らすのは無理だと思うし、すごく好きな相手でも、楽しいのは最初のうちだけという気もします。

”味のある”変なTシャツを集めるのが趣味とのこと

――ひとりで生活しているほうがいいですか?

山下:ひとりでいたいわけでもないけど、このまま生きていたらそうなるから、しょうがない。ひとりは嫌ではないから、このままでも問題はないんですよね。

食事はいつも「パックのごはん」

――結婚しなきゃとか、焦りを感じたこともなかったですか?

山下:全然ないです。他人に縛られるのが嫌だから、しょうがないよね。こういう風にしか生きられないんです。30代前半ぐらいまでは「いつか自分も結婚するのかな」とボンヤリ思っていましたが、結局しなかったという結果になりそうです。

ただ、シングルマザーだった母親に対しては、孫の顔を見せてやれず申し訳ないと思っています。苦労しておれを育ててくれたので、喜ばせてあげたかったな。自分にとっても、子育てを経験できなかったことは残念です。

――普段の食事はどうしているんですか?

山下:スーパーの惣菜を買ってくることが多いです。お米は炊くのが面倒なので、いつもパックのごはんをレンジでチンして食べています。パックのごはんって、食い過ぎないからいいんですよ。

――わびしくないですかね?

山下:全然わびしくない。自宅で食うメシなんて、何だっていいんですよ。最近の惣菜は味がいいので、それで十分。メシのことを考えるのは本当に面倒くさい。

「クソみてえな人生」と思う夜

――今は幸せだと思いますか?

山下:まあ幸せなんじゃないですか。ライターや編集の仕事をしていますが、やりがいは大きいです。仕事で幸せを感じられるので、死ぬまで働きたい。でも、おれももう50歳なので、いつまで仕事の依頼が来るか分からない。それが唯一の不安材料ですね。仕事がなくなったら、人生が真っ暗になりますよ。

――ずっと独身でも構わないですか?

山下:はい。結婚はしてもいいし、しなくてもいい。そもそも、できないだろうなという気持ちが強いです。そのことを悲観するつもりはありません。でも、たまにふと「クソみてえな人生だったな」と思うことはあります。いい歳して結婚せず、子供も作らず、好きなことをやってフラフラ生きているだけ。社会の役に立っているわけでもないし、「しょうもねえ人生だったな」ってね。

子供の頃にイメージしていた50代って、こんなんじゃなかったなあ。もっとちゃんとした大人になれると思っていました。同級生の友達の子供はもう大学生になっているんですが、それに比べると、自分はますます社会不適合感が出てきたような気がします。

それでも自分の人生が後悔にまみれているとは思わないし、将来を悲観してもいません。絶望感や孤独感で胸が潰れそうになることもありますが、ごくまれに、の話です。ひとりで好きなことをやって、そこそこ楽しく暮らしていく生き方が自分には合っているので、不満はないですね。あきらめはありますが(笑)。

取材後は二人で立ち飲み屋へ。酒好きの山下さんは、自宅には缶ビールを箱買いしているそうです

  ◇

取材を終えて

取材中、「しょうがない」という言葉を繰り返していたことが、とても印象に残りました。シングルライフの現状に大満足ではないが、ひとりの良さも分かっているし、現実的にはひとりでいることを受け入れざるを得ない。そんな心境なのかもしれません。

ひとりでいることに対して「しょうがない」と言うなら、「じゃあ結婚したら?」と思うのですが、そのエネルギーや労力を考えると、そうまでして変えたいとは思わないようです。今の自分を受け入れているとも言えますが、どこか将来を諦めているようにも見え、月並みな言葉ですが”人生の悲哀”を感じました。50歳という年齢も、関係しているのかもしれません。

一方、ダイビングの趣味を持ち、仕事を生きがいに人生を楽しんでいるようにも見えます。家庭を持っている人から見たら、羨ましい面もあるでしょう。はたして、山下さんは幸福と言えるのかどうか、私には分かりませんでした。

 

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