ネット検索で見つけにくい「牛乳バー」 マスターは老舗牛乳店の3代目

牛乳バー「小山商店」のマスター・小山さん

老舗の牛乳販売店が経営する「牛乳バー」が、東京・岩本町(千代田区)にあります。農林水産省の発表データ(牛乳乳製品をめぐる情勢など)によると、牛乳の生産量はここ数年、増加傾向にあるとはいえ、30年ほど前に比べると減っています。「牛乳屋としては私で3代目。息子には4代目を継いでもらわなくてもいいかな」。牛乳バーのマスター・小山輝信さん(47歳)は、そう語ります。

小山商店は、牛乳販売店として1927年(昭和2年)に創業。小山さんは、祖父と父から継いだ店を続けながら、2015年に牛乳バーをオープンしました。日中は牛乳を配達し、夕方から夜にかけてカウンターに立ちます。バーでは、ビールや日本酒のほか、いちご牛乳やフルーツ牛乳、乳飲料「マミー」などで焼酎を割った酒が飲めます。

ツイッターで店の存在を知った筆者は、ある平日の夕方、店を訪ねようとネットで検索してみました。しかし「東京 小山商店」で検索しても「東京 牛乳バー」で検索しても、上位に表示されるのは別の店。ページを切り替えて、ようやくそれらしい店の紹介ページを見つけました。

牛乳屋さんがバーを開いたワケ

都営新宿線の岩本町駅で電車を降りて、スマホの地図アプリが指す一帯を行ったり来たり。細い路地に面した住宅。その一画を使った小山商店にたどり着きました。時刻は18時すぎ。客は、筆者ひとりだけでした。

カウンターに腰を落ち着けると、さっそく焼酎の牛乳割り(500円)を注文。小山さんは冷蔵ケースからビン入りの牛乳を取り出して、キンミヤ焼酎を割ってくれました。

ひと口飲んでみると、「ん? これってふつうの牛乳なんじゃ……」と思った直後に、カーッと焼酎の風味が立ちのぼる不思議な味わい。東京では、かつて巣鴨にも焼酎の牛乳割りを出す居酒屋があったそうです。

「牛乳にちなんだ酒を出すようになってから、その店のことを知ったんですが、すでに閉店されていました」と小山さんはいいます。

「おつまみは牛乳割りに合うものを」と注文して勧められたのは、クリームチーズコンビーフ(600円)です。「にんにくの匂い、気にします?」との質問には「いいえ」と即答。コンビーフに、チーズとにんにくをたっぷり混ぜてもらったディップを、クラッカーにのせて食べました。

牛乳屋さんというと、各家庭に1、2本ずつ牛乳を配達しているイメージがあります。「一軒家が少ない町の牛乳屋さんって、やっていけるのかな?」と思っていたのですが、小山さんの場合、近くのオフィスから注文があるため、経営的には問題ないそうです。それでも、いわば「両輪」で稼ぐためにこの牛乳バーを始めたといいます。

「息子が牛乳屋を継ぐ必要はない」

続いて注文したのは、焼酎の「マミー割り」。甘酸っぱく、牛乳割りよりもさらに飲みやすく感じます。この日はさらに「コーヒー牛乳割り」を飲んで、帰宅しました。

翌日、改めて小山さんに話を聞くために再訪し、今度は「いちご牛乳割り」を飲みながら、「牛乳スパゲティ」を食べました。ピンク色のいちご牛乳割りは、もしかするとインスタ映えするのではという考えが頭をよぎりましたが、おっさんらしい短絡的な発想なのかもしれません。小山さんにも一杯ごちそうし、40過ぎのおっさん2人で酒を酌み交わしました。

大学を卒業して靴屋さんに就職した小山さん。1年後、父親が経営していた小山商店に入社しました。「親の敷いたレールに乗って家業を継ぐことに、抵抗はなかったのですか?」とたずねると「特になかった」とのこと。下町ということもあって、周りには江戸時代から続く店を継いだ友人が何人もいるといいます。

一方で、10歳になる自分の息子については、牛乳屋を継ぐ必要はないと考えているそうです。「いずれにせよ、数年のうちにはお子さんに反抗期がくるのでは?」というと、小山さんは「そうなったら『お前、そんなことをしても時間の無駄だよ』と、じっくり諭(さと)す」と話していました。

どこまでも飄々(ひょうひょう)とした小山さんの立ち振る舞いは、この店が検索に引っかかりにくい点にも似て、つかみどころがない面白さがありました。

 

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