サバイバルに役立つ「笛」「簡易トイレ」「ハンマー」 熊本地震「ひとり被災」を振り返る(後編)

「倒れたタンスの下敷きになりかけた」男性は、壁に立てかけていた絵画のおかげで命拾い

3年前の2016年4月14日と16日に最大震度7を計測し、250人以上の犠牲者が出た熊本地震。そのとき、わたしは「ひとり被災」を体験しました。あれから3度目の春を迎えるにあたり「ひとりで被災すること」について改めて考えてみようと、「ひとり被災」した男女12人に取材しました。そのレポートの後編です。

※前編を読む:「今度は死ぬんだなと睡眠を優先した」

「ひとり被災」ではいかに孤独感を癒すかがカギ

わたしのように「ひとり」で被災した人たちの心理状態はどうだったのでしょうか。「ひとりでいることに不安はなかったか」という問いに対しては、みんな口を揃えて「SNSでの情報交換が心の支えになった」と言います。

「免震マンションに住んでいたので自宅にいても大丈夫だろうと、避難所には行かず、ひとりで過ごしました。SNSで友人と励ましあい、互いに食料や水を交換しあうなど、物質的にも精神的にも友人に助けられました」(女性・51才)

「SNSで友人たちとやりとりができたことで、『ひとりじゃないんだ』と思うことができた。ひとりで被災後の恐怖に向き合うのは辛いと感じました」(女性・46才)

友人以外との交流が、心の支えになった人も多いようです。

「普段はまったく付き合いがない近所の人やマンションの住人に声をかけてもらいました。コンビニでも列に並んでいる人たちと『あそこの銭湯が営業しているよ』などと情報交換をするなど、見知らぬ人たちとの会話にも助けられました」(女性・48才)。

「車中泊の緊張を緩和させるために近所を散歩していたら、余震がきて、思わず道路で身構えました。そばに20代の男性がいて、恐怖心を紛らわすために、彼と立ち話をしたんです。『僕の部屋は風呂が使えますから、よければ来てください』と声をかけてもらいました。行きはしなかったけど『世の中、捨てたもんじゃないな』と思いました」(男性・55才)

被災して感じたのは、「非常事態の時は、見ず知らずの人たちとも積極的に会話をするんだな」ということでした。わたしも「余分に水をいただいたから」と、通りすがりの人から数本のペットボトルをいただきました。誰かとの小さなつながりが不安や恐怖を和らげてくれました。

ひとり被災の必須アイテムは「フル充電のスマホ」

「ひとり被災」で役だったものについては、ほとんどの人が「スマホ」を第一に挙げました。安否確認や情報収集はもちろん、停電のなかでの「明かり」として大いに役立つからです。

「本震時は寝付けなかったのもあり、スマホで落語を聴いていました。地震直後に停電したので、スマホのライトをつけて車の鍵や財布を探すことができた。スマホを手にしてなければ、翌朝まで何もできなかったと思う」(男性・55才)

マンションのエントランスもこのありさま

一方で、スマホの充電が不十分だったばかりに身動きがとれなかった人もいます。なにを隠そう、わたしもそのひとりで、前震時のスマホ充電率は19%。電話は不通なのに母に電話をかけまくり、その間、遠方の友人からメッセージや電話が続々と届いたため、数分で充電がゼロになってしまいました。

会社員の女性(48才)も「本震直後、残量電池が赤色になっていたのを見て、青ざめました。充電しておかなかったことをつくづく後悔しました」と語ります。

このような体験から、多くの人がスマホの充電を気にかけ、必ず充電器を持ち歩くようになりました。

ほかにも「ガスコンロ」や「除菌シート」が活躍しました。電気やガスなどのインフラが被害にあっても湯沸かしや簡単な調理ができ、水がなくても除菌シートで手や体を拭くことができるからです。

では、「ひとりで被災した際、あったら便利なもの」はなんでしょうか。「おひとりさま」の被災者にたずねてみると、こんな答えが返ってきました。

「笛。ひとり暮らしで家具の下敷きになって、出られなくなった人も周囲で多かった。土砂や家具に埋もれた場合、笛を吹けば気づいてもらえるから」

「簡易トイレ。トイレ問題は切実で、自宅はもちろん、どこもかしこもトイレが使用できない状態になったから」

「ハンマー。出入り口が塞がれた際、叩いて脱出できるように」

これまで常備していなかったけれど、被災して初めて必要とわかったグッズが挙がりました。

トイレ問題に関しては、東日本大震災の被災地ボランティアに行った友人から「猫砂が便利」と教えてもらいました。猫砂は、液体はボール状に固まり、そのままゴミとして捨てることができます。確かにいざとなったら猫砂をビニール袋に入れて用をたすことができそうです。

また、いつ被災しても逃げられるように「個室に鍵をかけないことも重要」と自営業の女性(35才)は言います。

「熊本地震規模の揺れだと、建物自体にひずみが出て、扉や窓が開かない状態になります。被災後は、トイレや風呂場などに閉じ込められないように、鍵はかけず少しだけ扉をあけて用をたすようになりました」

電気復旧後も「明かりがつかない」と思ったら、照明自体が壊れていた

メガネや鍵などは「すべて吹き飛ぶ」と心得よ

視力が悪い人は「予備のメガネやコンタクトレンズ」を常に携帯しておくのもおすすめです。わたしは本震時、裸眼で寝ていたので、逃げる際に足元がまったく見えずに、割れ物で足を切ってしまいました。枕元にメガネを置いていましたが、激しい揺れで見事に吹き飛び、探すのにかなり手間取ったのを覚えています。

家や車の鍵も同じく、「どこかに固定して保管しておく」のがおすすめです。「靴箱の上に置いていた鍵入れのケースが揺れで落下し、暗闇で探すのにかなり時間がかかった」(女性・46才)という声もありました。

鍵やメガネは、平置きはもちろん、フックにかけても熊本地震規模の揺れだといとも簡単に吹き飛んでいきます。

これは個人的な見解ですが、スマホやメガネ、鍵、ハンマー、室内用のスリッパ(できれば厚底)などは、カゴなどに入れてベッドの下に置いたほうがよさそうです。ベッド自体はスライドするだけで倒れず、ベッド下も大きくものが動かなかったからです。

そのほか、見逃しがちなのが、スマホに入った連絡先の書き出しです。

「充電が切れたら、家族や友人への連絡先がわからなくなります。被災後は、スマホが使えなくても公衆電話などで連絡がとれるよう、最低限の連絡先を手帳に控えました」(女性・51才)

慌てて脱出したために、多大な出費が

被災直後、県外の実家や避難先へ移動した人のなかにはこんな人もいます。

「風呂に水を溜めている最中に被災し、慌てるあまりにそのまま家を飛び出しました。2週間後、家の片付けに戻った際、水を出しっ放ししていたことに気づき……。その後の水道代に目の玉が飛び出しました」(男性・49才)

「本震直後に県外に避難したのですが、当時エアコンをつけていたので1ヶ月そのままに。おかげで空気の入れ替えができたのか、匂いはさほどこもっていませんでしたが、電気代がすごかった」(女性・40才)

慌てて飛び出したことで、思わぬ出費に見舞われた人も少なからずいました。

「ひとり被災」は、非常に心細いものではありますが、スマホさえあれば孤独はなんとか癒せます。非常事態ですから、見知らぬ同士でも助け合う状況にもなり、なにかと心強いことも多いものです。ただ、連絡や情報収集の「要」となるスマホや携帯電話の充電だけは、常に気をつけておきたいものです。

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