「アンテナショップで飲む」という極楽…東京にいながら地方の「酒と食」を楽しめる

滋賀県が誇る発酵食品「鮒ずし」の「飯(いい)」

東京都内の住宅街。春になると、朝、駅前に置かれる自転車の数がどっと増えます。今年も多くの人が進学や就職で、地方から「上京」してきたのでしょう。

思えば、筆者が故郷・滋賀県を出てから、四半世紀が経とうとしています。この10年間は、フリーランスという立場上、長期間の休みをとることが難しかったこともあり、一度も帰省していません。東京で咲き誇る桜を眺めつつ、「故郷で咲くのは、もう少しあとだな」などと考えていたら、郷愁に駆られました。

そのとき、東京にある滋賀県のアンテナショップに行き、地元の酒とつまみを買って一杯やろうと思い立ったのでした。

目に飛び込んできたのは「たくあん」入りの「サラダパン」

滋賀県。我が故郷だからこそ断言できるのですが、決してメジャーな県ではありません。上京してまもないころ、友だちに冗談で「滋賀県民は琵琶湖の淵(ふち)をつま先立ちで歩きながら暮らしているんでしょう?」と言われたものです。他の都道府県の人にとって、「滋賀県=ほぼ琵琶湖」で、ほかに思い浮かぶものがないのです。

筆者自身、東京・日本橋にある滋賀のアンテナショップに向かいながらも「滋賀の酒とつまみって何があったっけ?」と考えをめぐらせていました。

アンテナショップ「ここ滋賀」

アンテナショップ「ここ滋賀」は、地下鉄・日本橋駅を出てすぐ、JR東京駅からも徒歩数分という好立地にあります。2フロアあり、1階は県の名産品を扱うショップ、2階はレストランです。

店に入ってすぐ目に入ったのは、「サラダパン」でした。これは、コッペパンに、刻んだたくあんをマヨネーズで和えて挟んだもの。知る人ぞ知るこのサラダパンを、まだ食べたことがなかったので、買い物カゴに入れました。でも、酒のつまみにはならなさそうです。

フロア中央の冷蔵ケースをのぞくと、「そうか、お前か……」と、懐かしい食材との再会を果たしました。「鮒(ふな)ずし」です。「すし」といっても、一般的な「寿司」ではなく、フナなどの魚を、ご飯と一緒に漬け込んで発酵させる「なれずし」で、独特の匂いがあります。

実家にいたころ、酒好きの父が一度自分で作ったくらいですから、鮒ずしが酒に合うのは間違いありません。しかし鮒ずしは、意外にも(?)高級品。ここで売られていた「おためし鮒寿し」は、6切れ入りで1728円(税込)。本格的なものは、さらに高価格です。これまで数回しか食べた経験がないため、おつまみとして購入するには勇気がいります。

さて、どうしようかなと周りを見渡すと、一画にカウンターがありました。ここでは、滋賀の名産品をつまみに、地酒を飲めるとのことです。平日の16時すぎ。お酒を飲んでいる人はいません。「そもそも、こんなところで飲む人なんているのだろうか……」と思いつつ、1杯飲んでいくことにしました。

地酒は、おちょこ1杯で300円。銘柄は「おまかせ」でいくとして、つまみをどうしようかとメニュー表を見ると、「飯 200円」とあります。店員に「この『メシ』ってなんですか?」とたずねると、これは「飯(いい)」と読むのだと教えてくれました。

鮒ずしは通常、本体であるフナの切り身の周りを、漬け込んだご飯が覆っています。飯(いい)は、このご飯だけを指し、それ単品のみで「つまみ」になるというのです。飯(いい)の存在を初めて知った筆者は、ものは試しと注文してみました。

ほかに客のいないカウンターで新たな楽しみを得る

店員に薦められた滋賀の地酒は、「浪乃音 新走り」(浪乃音酒造)。県庁所在地・大津市にある酒蔵の酒です。

一方、小皿に盛られた飯(いい)は、水の分量を間違えて炊いたご飯のような見た目。箸でつまんでひと口食べてみると、酢飯をさらにすっぱくしたような酸味があります。少し芯のあるご飯といった食感です。覚悟していた魚の生臭さは、ありませんでした。発酵食品だけあって、チーズのような風味があり、ほのかに甘い酒と合います。

飯(いい)をつまみに、オフィス街で酒を飲む

飯(いい)をちびちびと食べていたら、酒があっという間になくなりました。おつまみで酒が進んでしまう罠に、うまくかかってしまったようです。地酒をもう一杯注文しました。

次に出てきたのは、「七本槍 純米 渡船」(冨田酒造)でした。1杯目とは打って変わって辛口の、日本酒らしい日本酒。早い時間からカウンターでのひとり飲みというムードもあって、ほどよく酔いがまわってきました。

このバー・コーナーは夜23時まで営業しています。店員の話によると、遅い時間は、2軒目、3軒目の店として訪れる客でにぎわうそうです。常連さんもいるのだとか。これまで「アンテナショップで飲む」という発想がなかった筆者にとって、思いがけない発見でした。

各都道府県のアンテナショップをめぐって、一杯やる。これからは、東京だけで完結する「日本一周飲み歩き」というスタイルを確立できそうです。

陽が落ちる前から、すっかり上機嫌になった筆者は、再びフロアに戻り、鮒ずしにチーズを加えたおつまみ「チーズふなずし」と「赤こんにゃく」と日本酒「萩の露」(福井弥平商店)を購入。そして、やっぱり食べたくなった「サラダパン」を買って帰ったのでした。

マヨネーズで和えた「たくあん」を挟んだサラダパン

 

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