古今東西、1000以上のカギを収集! 87歳の「錠前コレクター」ロックな人生を語る

からくり錠の一種「阿波錠」を開ける加藤さん

カギと錠前のコレクションを続けて60年以上。東京・中目黒にある鍵屋「カトウロックサービス」の会長・加藤順一さん(87歳)です。引っ越しシーズンの今、店には次々とお客さんが合鍵を作りにやってきます。その店舗スペースの約半分は、加藤さんが集めたカギと錠前で埋めつくされています。その数、約950組。さらに300組ほどを自宅で保管しているそうです。

「なんで(カギが)好きなのかって言われても、うまく答えられない。好きとしか言えないんです」と、加藤さんは言います。棚には、2000年前のものだという指輪型のカギやアフリカで使われた木製の錠前、インドのからくり錠など、古今東西、大小さまざまなカギが並んでいます。

加藤さんのコレクション棚。凝ったデザインの錠前が多い

学生のころは「フランス文学をかじっていた」という加藤さん。文学の道を志したものの、親の説得もあり、実家の金物店を継ぐことになります。昭和40年(1965年)ごろ、世間の防犯意識が高まるのに合わせてカギの取り扱いが増え、店はいつしかカギの専門店になりました。

ちょうどそのころ、近所の人から「倉(くら)の扉の錠前を開けてほしい」と依頼が入ります。しかし当時の加藤さんは開けることができず、結局、錠前を壊すことになりました。「これが非常にショックだった」という加藤さん。壊した錠前をもらって帰り、構造を調べるうちに、魅力にとりつかれていきました。

「フランスといえば、漫画『ベルサイユのばら』にも出てきたルイ16世が、錠前にハマっていたそうですね」とたずねてみると、「そうなんですよ!」と興奮ぎみに返ってきました。「宮殿があったルーブルの議員に鍵屋さんがいて、その人を先生にして、宮殿のなかに工房をかまえていたという記録があるんです」。加藤さんにとってルイ16世は、錠前マニアの先輩なのです。

加藤さんは、錠前を作ることまではしませんが、おそらく日本一の錠前コレクターです。「親父には『いつまでそんなものをいじってるんだ』と言われましたが、いまとなっては、カギの世界に首を突っ込んでよかったですね。単に商売というだけじゃなくて、人生に心のうるおいのようなものを与えてもらったので」と加藤さんは話します。

インドのからくり錠の開け方を説明する加藤さん

60年以上続いたコレクションも「平成最後」で区切り?

加藤さんによると、日本を含むアジア地域では「からくり錠」が発達したそうです。加藤さんが「アジア型」と呼ぶ錠前の仕組みは、とてもシンプルです。錠前のなかに、数枚の「板バネ」があり、一方の端が弓矢の「やじり」のように広がっています。鍵穴から差し込んだカギでこれを押さえつけることで、錠が開くのです。

「板バネを2枚、4枚と多くしても限度がある。じゃあどうするかっていうと、鍵穴の形を変える。くの字型、逆くの字型、あるいはL字型。それによってカギの種類を増やしていった。それでも限度がある。同じ大きさの錠前を作るとなると、それほどたくさんの『カギ違い』ができないわけです」(加藤さん)

つまり、構造上カギのパターンを増やせないがために、からくり錠が進化したというのです。「わざと使いにくくすることで、泥棒を戸惑わせるわけですね」と加藤さん。国内では、阿波(徳島)でからくり錠が多く作られたそうです。あるインドのからくり錠は、鍵穴にカギを入れても開きません。隠された鍵穴を見つけ出したうえで数本のカギを順番に挿し、あらかじめ見えていた鍵穴に最後にカギを挿し込むという、いじわるな作りでした。

古代の指輪カギ(左)と錠前の飾りがついたかんざし(右)

棚には、江戸時代に吉原の花魁(おいらん)が使ったかんざしがありました。「このかんざしには、カギや錠の飾りがついているんです」と加藤さんは教えてくれました。「彼女たちの『心までは売らない』『心のなかには大切な人がいて、カギが締められている』という思いがこめられているわけですね」。

加藤さんの話は尽きません。店を訪れる人のなかには、加藤さんのコレクションを見るためだけに海外からやってくる人もいるそうです。

しかし、加藤さんは今年3月30日で、88歳になります。膨大な数のカギに辟易する家族と話し合った結果、コレクションにいったん区切りを付けることになりました。加藤さんが3月上旬に入手したという錠前を見ると、説明書きに「平成最後」とありました。

「新元号になったら、また購入できるのでは?」とたずねると、「そういう逃げ道もありますね」と笑っていました。「この世界は、調べれば調べるほど奥が深い」と語る加藤さん、いまは南米の古代文明にまつわるカギと錠前の「謎」を探ろうとしています。

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