詐欺にケンカ、初めての中国旅行でトラブル三昧~元たま・石川浩司の「初めての体験」

詐欺にケンカ、初めての中国旅行でトラブル三昧~元たま・石川浩司の「初めての体験」
腰の曲がった老婆が話しかけてきた(イラスト・古本有美)

今から25年くらい前、初めて中国に行った。上海や廈門(アモイ)などを訪れたが、どこもカルチャーショックがあった。中でも1番印象に残っているのが、山水画のような風光明媚な景色で有名な桂林(けいりん)という町である。

腰の曲がった老婆にだまされた

桂林の観光スポットである蘆笛岩(ろてきがん)という洞窟に行ったときの話だ。その洞窟はまさに幻想的で、中に透明な池があるのだが、それが反射して天井の景色を映し出していた。一瞬上下の感覚がなくなり、三半規管がおかしくなるような、それは不思議な光景であった。

その洞窟から出たときである。僕に竹笛を売ろうと、何人もの売り子たちが群がってきた。もちろん彼らが売る物は観光地価格で、比較的値段が高いため無視して歩いていた。

すると、90度に腰が曲がったおばあさんが、ヨタヨタと近寄ってきて僕に聞いてきたのだ。

「この500円玉ふたつと、あんたの持ってる1000円札を交換してくれないかね?」

見ると、日本円の500円硬貨2枚が手に握りしめられていた。まだ外国人は中国の紙幣ではなく「兌換元(だかんげん)」という外国人専用の紙幣で買い物をしていた時代である。

そのおばあさんによると、外国のお金を中国の通貨に両替するのは、お札でしか受け付けていないため、硬貨をお札に両替したかったということだ。

「交換してくれたら、オマケにこの竹笛も1本、あげるよ」

確かにそれならこちらとしては500円硬貨2枚と1000円札の等価交換なので損はなく、竹笛ももらえる。「ああっ、それならいいよ」と僕は1000円札を渡した。

しかし、竹笛を受け取った後、なかなか500円硬貨を渡してくれない。「お婆さん、さっきの500円玉2枚ちょうだいよ」と再度言うと、「ほらっ」と僕の手を握った。500円硬貨2枚の感触だ。

次の瞬間である。

突然それまで海老のように曲がっていたお婆さんの腰がすくっと真っ直ぐに伸びるや、山に向かってものすごい勢いで、ヒョーイヒョーイと猿のごとく飛ぶように走り去って行ったのである。

「!?」

一瞬何が起きたのかわからず、しばし呆然とした後、そっと自分の手を開いてみた。

すると何ということであろう。僕の手に握られていたものは、先ほど見せてもらった500円硬貨ではなかった。大きさや重さはよく似ているものの、おそらくあまり価値のない、どこかの国の硬貨だった。

「バ、ババア、やりやがったな!」

そう叫んだ時、おばあさんの姿はもうどこにもなく、あったのはまわりの竹笛売りから浴びせられた「やーい、やられてやんのー!」という僕をあざ笑うかのような爆笑だけであった...。

日本語が話せる現地の人と夕食に

桂林は、市場も強烈だった。ドラム缶で犬をそのまま煮ているのである。おそらくさっきまでそこらを歩いていた大型の犬が、ドラム缶の中でグツグツ煮込まれていた。

そんな光景をおそるおそる見ながら市場の中を歩いていると、突然「だま~!」という大声が聞こえた。

振り返ると、若い男がニコニコしながらこちらに近づいてくる。そして、日本語で「だまの人ですよね。なんでここにいるの?」と話しかけてきた。

「だま」じゃなくて「たま」なんだけど...と思いながら、「ええ」と答えると、「私は日本に留学していました。テレビであなたを観ました」と彼は言う。

そしてしばらく雑談した後、彼はこんな提案をしてきた。

「せっかくこんなところで知り合いになれたのだし、今晩一緒に夕食でもどうですか?もちろん私が奢りますよっ!」

おばあさんの件もあったのでちょっと考えたが、こういう地元の人との交流も面白いかなと思って、提案を受け入れることにした。相手が日本語を話せるのも安心だった。

食事の会計を巡り思わぬトラブルに

夜になり、彼が指定した食堂に、同行していた友達とふたりで行った。すると数人の会食かと思ったら、10人以上の若者で店は貸切状態だった。

その中にもうひとり知っている顔があった。昼間観光案内所で「地球の歩き方」を広げていたら、「日本人、みんなそのガイドブック持ってるね」と日本語でニヤニヤしながら話しかけてきた若者だった。「あ、ふたりは友達だったのねー」とちょっと盛り上がった。

しばらくすると、鍋が運ばれてきた。

「この鍋、何が入ってるの?」

すると彼らは不敵な笑みを浮かべながら「とにかく食べてみなよ」とすすめる。口に入れると、白子に似た感触の肉が。何だろう?魚じゃない感じだし...。

すると彼らはゲラゲラ笑いながら、「今あなたが食べたの、猿の脳みそだよ」。食用のための猿の捕獲は禁止されていたと思ったが、こっそり裏ルートで仕入れたものだという。

「ゲェーッ」と言いながらも楽しい雰囲気で宴会は続き、そろそろお開きに。会計票が僕らのところにまわってきた。

「ん?奢りって言ったよね」

そう言うと、突然彼らの雰囲気が変わり「日本人、金持ってんだろ。全部お前たちが払え!」と言ってきた。これは納得できない。しかも10数人分の会計だから、結構なお値段である。

そのうち酔っ払った仲間同士でケンカが始まった。中国語なので内容は分からないが、「お前が奢ると言ったんならやっぱりおかしいんじゃないか?」「いや、日本人は俺たちより遥かに金持ってこんなところに旅行に来てるんだ。払ってもらって当然だろう」という言い合いをしている気がした。

すると突然、ひとりの男の懐から光るものが。ナイフだった。「キャーッ!」という女の子たちの悲鳴、そして泣き声。

幸いなことにその刃先は僕らには向けられていなかったが、下手をすると大惨事になりそうな緊張が走った。

これはさすがにマズいと思い、全額ではないが幾ばくかのお金を「これしか持ってない!」と店員に叩きつけ、店を飛び出した。後ろから誰も追いかけてこないのを確認して、急ぎ足でホテルに戻った。

そう言えば「たま」じゃなく「だま」と言ってたな。もしかしたら「だましてやるぜ~」の「だま」だったのかもしれない...。

 

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