少女漫画の作者が描く「ダメ男」 男性にも女性と同じように「生きづらさ」はある

©尾崎衣良/小学館

2013年から月刊誌『プチコミック』(小学館)で連載されている漫画『深夜のダメ恋図鑑』。現在までに5巻が発売され、2018年にはドラマ化されるなど人気を博しています。

中心となるのは若い3人の女性です。元ヤンながらも正義感が強く、男性との交際経験のない円。しっかり者ながらも、ダメ男とばかり付き合ってしまう佐和子。少女漫画好きで夢見がちだけど、唯一まともな恋愛をする千代。3人は定期的に集まって、それぞれの「ダメ恋」エピソードを披露し合います。

本作はジャンルとしては恋愛漫画ながらも、女性に対する男性の視線や生活のディテールが生々しく、「社会のリアルに迫っている」という声も多く見られます。そんな漫画の作者である尾崎衣良さんに、ダメ男を描く理由について聞きました。

『深夜のダメ恋図鑑』のはじまり

――作品の構想のきっかけから、お話いただけますか。

尾崎:私は長年、少女漫画を描いています。ただ、昔から少女漫画的ないわゆる「かっこいい男」を描くのが苦手でした。だったらそれとは逆の「全然かっこよくない男」を描くことはできないか。そういう発想から描き始めました。

普段40ページから、80ページくらいの読み切りを描くことが多かったんですが、『ダメ恋』は基本1話16ページのショートで、その短さも「ダメ男」を描くのにちょうどよかったと思います。これが1話80ページのダメ男物語だったら、恐らく誰も読みたくないし、編集者も止めるでしょう。そもそも、私も描いていて辛くなりますので(笑)。

――16ページという長さは、コメディとして「ダメ男」を描くのに、ちょうど良かったということでしょうか。

尾崎:そうですね。16ページであればあまり後腐れなく、サクッと描いてサクッと終わらせられますので、ダメな恋愛話も重くならず、笑って楽しめるのではないかと思います。

――これまでの作品と、意図的に変えた点などはありますか。

尾崎:意図的ではありませんが、これまでの作品より肩の力を抜いて気楽に描いています。ただ、登場人物に共感してほしいという基本的な考えは、これまでと全く変わっていません。

――20代の女性の日常や残念な男たちのディテールについては、どのように固めていきましたか。

尾崎:自分が日常で感じたことや友人の話、ニュースのトピックスから着想を得て、それをキャラクターたちに当てはめて描いています。マツケンサンバとか、『ヤヌスの鏡』(1981年~82年に週刊セブンティーンで連載された漫画)とか、全然20代じゃない小ネタはあるんですけど(笑)。

ダメ男に関しても同様に、ちょっとしたエピソードをわかりやすく肉付けして描いています。例えば、以前姉と一緒に推理ものの映画を観ていて、開始5分で犯人をばらされたことがあるんですが、そのエピソードから話を膨らませて、映画の予想を自慢げに語るキャラクターを作りました。リアルの体験が2割・想像力から作り上げたものが8割、といったところでしょうか。

主人公の一人・円/(C)尾崎衣良/小学館

社会の鏡としての側面

――本作は単なる恋愛ものではなく、女性の自立という部分にもフォーカスしていて、そこが面白いと感じます。

尾崎:特に意識はしていませんでしたが…。でも、精神的・経済的に男性に依存する部分があると、強く言えなくなってしまうことはあるので、自然と自立した女性を描いていたんだなと思います。ただ、そこを突き詰めると「じゃあもう一人で生きていけんじゃん」みたいになりますが、私自身は、決して恋愛も結婚も否定派ではありません。

――「料理ができなければ」「子どもを産まなければ」など、本作では女性に対する社会の圧力を巧みに表現していると感じます。

尾崎:日常的に思っていることを漫画にしているだけなんですけど、根底にそういう生きづらさみたいなものがあるのかもしれませんね。ただ、そこにがっつりフォーカスを当てるつもりはなく、漫画なのであくまで楽しく笑える感じに描けたらとは思っています。

――尾崎先生としては、社会意識ではなく、むしろ個人として日常の違和感を切り取った形だと思うんですが、本作は「女性のリアル」に肉薄しているという声があります。

尾崎:私個人の主観や恋愛観は、漫画の中にものすごく入っているとは思います。でも、そこを読者の方が身近に感じてくださっているのなら、自分の考えは決して独りよがりではないんだな、とちょっと安心しますね。『深夜のダメ恋図鑑』の場合、しっかりした常識の軸がないと、反対の「おかしさ」も描けないと思うので、そこのバランスはしっかりとっていきたいです。

――5巻では新キャラ・市来くんを通して、男性の生きづらさにもフォーカスしていました。「レディースデーはあるのにメンズデーはない」「少女アニメのフィギュアを買ったら気持ち悪がられる」など、彼の感じる不平等感は非常に面白いです。

尾崎:男性にも当然、女性と同じように生きづらさはあると思います。ただ、私は女性で、男性の心理の深いところはちょっとわからないので、女性目線で見てもおかしいと思うところを作品で表現しています。ですので、けっこう普遍的な理不尽さのような気がします。

主人公の一人・佐和子/©尾崎衣良/小学館

恋の理想と現実

――尾崎先生は登場人物では、誰に一番感情移入しますか。または、誰が自分と一番かけ離れていると思いますか。

尾崎:それぞれに大なり小なり、感情移入して描いているのですが、中でもダメ男・諒くんと彼と同棲する佐和子のエピソード、そして、5巻に出てきたゆうこさん(保育園の子どもがいる共働きのママ)のエピソードは、けっこう感情移入して描きました。逆に、自分と一番かけ離れたキャラは千代です。私には千代のように、男性に対して夢見る思考は全くないので。

――千代が彼氏のわき毛とか、実際に生活していたら当然出てくるものに幻滅するのは面白いですね(笑)

尾崎:男性の立場のほうが、ドン引き度は相当高いと思うんですけどね(笑)。女性のワキ毛とかよだれの海とか。

――ほかのふたりに比べ、千代の日常はあまり出てきませんね。ひょっとして、尾崎先生との心理的な距離のあらわれでしょうか?

尾崎:それもあるのかもしれませんね…。千代の場合、ダメ男に翻弄されるほかのふたりとは違って、「女が悪い」というパターンなんですが、その千代が3人の中では一番幸せな恋愛をしているという皮肉…。これに暗に理不尽さを感じてるんでしょうか(笑)。

主人公の一人・千代/©尾崎衣良/小学館

――『深夜のダメ恋図鑑』も含めた、尾崎先生の今後の展望についてお伺いできますか。

尾崎:共感してもらえることに重点を置いて、漫画を描いていきたいと思っています。『深夜のダメ恋図鑑』に関しては、登場人物の主張が強いので反発もあると思いますが、共感と同時に漫画としての楽しさ、面白さも追及して描いていきたいです。ここは自分にとっての長年の課題なので、努力を続けていこうと思います。

 

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