「全盲でも映画を作ることができる」 声優・山寺宏一さんも協力したSF映画

全盲ながら映画を作った加藤秀幸さん

東京都町田市に住む全盲のシステムエンジニア、ミュージシャンの加藤秀幸さん(43)。生まれつき目が見えないのですが、バンドのベーシストを務め、格闘ゲームは目の見える人を圧倒する腕前で、料理もさらりとこなします。

そんな加藤さんがこのほど、SF映画の制作にも挑戦しました。その過程を追ったドキュメンタリー映画『ナイトクルージング』(佐々木誠監督、144分)が、3月30日からアップリンク渋谷ほか全国で順次公開されます。加藤さんに人生を楽しむヒントを聞きました。

「サウンドコンテ」でスタッフに説明

加藤さんが取り組んだ約12分の映画内映画『ゴーストヴィジョン』は、加藤さんを投影した全盲の主人公と、目が見える仲間の男性とのいわゆる「バディー・ムービー」(2人組を主人公にすえた映画)。信頼はしているけれども、見える者と見えない者との間に存在する「狭間(はざま)=ゴースト」を、ストーリーの中で浮かび上がらせる内容となっています。

映画制作に取り組む加藤秀幸さん

加藤さんは目の見えるスタッフとコミュニケーションをとるため、ストーリーを説明する「絵コンテ」の代わりに「サウンドコンテ」を使用。ナレーションやセリフを実際に加藤さんが吹き込み、物語の展開を説明しました。

登場人物と場所の位置関係を示すため、レゴブロックを使いました。

声の出演者には、人気声優の山寺宏一さん、ジャッキー・チェンの吹き替えで知られる石丸博也さん、DJ・作家のロバート・ハリスさんらが協力。加藤さんは「手伝ってくれる人がいれば、映画を全盲でも作れますよ、という証明になったんじゃないかな」。

加藤さんをサポートしながら『ナイトクルージング』を撮った佐々木監督(43)は、7年来の友人。「スタッフ、キャストと一線の人たちが面白がって協力してくれました。コミュニケーションを取って一つのものを形作る、青春スポコンムービーみたいな感じになっています」と語ります。

「可能性って絶対ゼロじゃない」

作中では、加藤さんが作曲した曲も使われます。ステージで演奏するようになったのは、高校生くらいから。20歳くらいの時、バーで外国人歌手が歌う後ろで演奏したのが、音楽でお金をもらった初めての体験でした。15年前からは「セルクル」という3人組バンドで活動しています。

白い杖を使いながら街を歩く加藤秀幸さん(右)

小学2年ごろにファミリーコンピュータを買ってもらいました。当時から「ベースボール」や「熱血高校ドッジボール部」といった、音でタイミングが取れるゲームが強かったそうです。

料理も得意な加藤さん。一見すると、火や包丁を使うのは危ないのではないか、と思うかもしれません。

でも、加藤さんによると、目の不自由な人が歩く際に白い杖で障害物を感知するように、菜箸を使って鍋のふたの取っ手を探せば、熱い部分を触らずにふたを開けることができるとのこと。実は目の見える人も、包丁を使う時、必ずしも手元をじっと見ているわけではありません。指で切りたい大きさを計りながら、ある意味、感覚で切っているところがあると考えます。

これらは、家庭科の授業で学んだことがベースになっているそうで、「先生が、こうやって工夫すればできるよね、っていうことを教えてくれたことが楽しくて」と振り返ります。

加藤さんは何事に対しても、「可能性って絶対ゼロじゃないって自分では思っていて、何とかなるんじゃないかなっていう気持ちがすごくある。努力していないとは言わないですけれども、(見える人と)違う切り口から楽しむ方法、みたいなものはたぶんある」と考えています。

『ナイトクルージング』の佐々木誠監督(左)と加藤秀幸さん

佐々木監督も、バスケットボールで、背の低い選手がドリブルを磨いて長身選手と対抗することを引き合いに、「ハンディキャップがあっても、それなりに努力や工夫をすれば楽しめる。(障害のない人も含めて)みんな自分が得意なものをやれば良いわけで、不得意なものは努力して乗り越えていくだけ。もちろん、僕らの想像を絶する大変なことはもちろんあると思うけれども、そういうスタンスで加藤君は生きているんだな、と思います」と話します。

人生は難しく考えなくても、一つ工夫を加えるだけで全く違って見えてくる――。映画『ナイトクルージング』を通じて、そんなことが学べるかもしれません。

『ナイトクルージング』予告編

 

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