タイで「避寒生活」を始めたときの話(前編)~元たま・石川浩司の「初めての体験」

タイで「避寒生活」を始めたときの話(前編)~元たま・石川浩司の「初めての体験」
タイのチェンマイに「着いたー!」

以前、このコラムで結婚30年を超えたと書いた。しかし、本当のことを書こう。実はここ10数年、妻と別居をしているのだ。驚く人もいるだろう。まさか「似た者夫婦」としてまわりに認められているうちの夫婦がと。だが事実なのだ。

タイのチェンマイに「避寒」する

毎年2月の1カ月間、僕はひとりでタイのチェンマイという町に住んでいる。つまり1年のうち1カ月間だけの別居生活をしているというわけだ。

なぜ1カ月間だけチェンマイに住むのか。それは、日本の2月はとーーーっても寒いからだ。寒いと家の中どころか布団からも一切出たくなくなる。あったかい布団の中以上の幸せは世界のどこにもない、青い鳥は家の中にいた、と思ってしまうのだ。

まあ年中そう思っているといえば思っているのだが、毎年この時期になると過度にそうなってしまう。もはや人の形をした、ただの泥人形と化し、今にもグジャグジャ流れ出しそうで、「これはあまり良くないな」と思っていた。

加えて1月は新年のイベントがあり、3月も春のイベントがあるが、2月はたいていこれといった大きなイベントもない。ミュージシャンにとっての端境期なのだ。

そこで、卑怯千万な僕は南国にトンズラすることにした。寒い日本を飛び出して、暖かい国でグータラしようと決めたのだ。

1カ月も休むことは普通の勤め人には難しいことだし、ミュージシャンでも事務所に所属していたらかなり厳しいだろう。フリーランスで、自分で自分の仕事を決められる身だからこそできる贅沢なのである。

本当はなるべく妻とは一緒にいたいので、一緒に来られればベストなのだが、レンタルショーケース店(ニヒル牛)を経営しているとさすがに長期では休めない。また、ふたりそろってひと月仕事をしないで暮らせるほどユーフクではない。残念無念妻御免。

チェンマイに決めた理由

「避寒」すると決めた僕は、暖かくて、お金をかけずに滞在できる土地を探すため、アジア中を歩き回った。

ベトナムは食べ物はおいしいが性格のややきつい人が多い。インドネシアのバリ島も好きだが、ちょっと観光地化され過ぎている。シンガポールは物価が高く、ミャンマーやラオスはまだ発展途上で食べ物が地元のものしかなく、1カ月は飽きそうだ。

そこで、それまでも何度か訪れたことがあるタイに絞った。仏教の教えが日本より浸透しているので、「微笑みの国」と言われているその通りに、現世で功徳を積むために顔を合わせるとニコッと笑顔を返してくれる人が多い。そういうところも気に入っていた。

首都バンコク、プーケット、パタヤ、ホアヒン、アユタヤなどいくつかの町を回ってみて、一番しっくりきたのがチェンマイという町だった。

北部の中心都市だけあってそれなりになんでも揃っている。町の規模はそんなに大きくなく、のんびりとしていて、物価はバンコクよりも全体的に安い。古都の風情もあり外国人観光客も多いので、日本人だからとジロジロ見られるということもない。なんなら坊主頭の僕を僧侶と間違えて拝む人がいて、「間違ってますよ...」ということもあった。

石川コラム避寒生活01
僧侶と間違われることも

「サービスアパート」の魅力

チェンマイには、仕事をリタイアした日本人や欧米人が多く、ロングステイする「サービスアパート」という宿泊施設がたくさんある。これは長期滞在する人のための、日本で言えば「マンスリーマンション」に相当するもので、冷蔵庫、エアコン、テレビ、フリーWiFi、机、テーブル、トイレ、シャワー、ベランダなど基本的な設備が揃っている。

短期滞在の人には、普通のホテルとして貸し出しているところもある。ただホテルと違うのは掃除が来なかったり(別途有料では頼める)、トイレットペーパーや石鹸といった消耗品は自分で用意しなければならなかったりすることだ。

僕はライフスタイルが人と違って、ダラダラ昼過ぎまで寝ていることもあるので、毎日昼間に掃除のおばちゃんが来てアワアワと部屋から出なければいけない煩わしさより、よほど自由で快適だった。消耗品もスーパーなどで自分の好きなものを選べる自由があるのも気に入った。

サービスアパートの料金はもちろんピンからキリまであるが、僕がここ数年定宿にしているところは、日本のビジネスホテルと比べたら断然広いキングサイズベッドの部屋で、月2万円ほどである。一泊あたりなら600円台だ。

10万円で1カ月滞在

日本からチェンマイの飛行機代も、安いLCCなどを使えば、空港使用料など全部含めて往復3万円代のときもある。食事も安くあげようと思えば、屋台やショッピングセンターのフードコートを利用することで1食100円程度から食べられる。なので切り詰めれば、10万円くらいあれば1カ月滞在することが可能なのだ。

もっとも僕は飲兵衛なので酒代もかかるし、肩こりなので時々マッサージも受けたい。毎食100円の飯を続けるのもさすがに飽きてくるので、食費ももうちょっとかかる。とはいえ、日本で温泉に夫婦で出かけてちょっといい旅館に泊まるくらいの料金で1カ月暮らすことができるのだ。

僕は倹約家なので「こんなに安い~」と思うだけでフフフとたちまち幸せになれる得な性分。まさにうってつけなのである。

チェンマイで「避寒」を始めてから数年は、ひとりでひと月暮らしていた。本を読んだりネットをしたりすることが好きなので、ひとりでいるのは全然苦ではなかった。1カ月間お店での注文以外は一言も発しなかった年もあった。

ところが毎年2月にチェンマイを訪れているうち、徐々にミュージシャンや常連のお客さんなどが遊びに来てくれるようになった。昼間はそれぞれ自由行動で、夜に都合が合う人だけ一緒に晩飯というか飲み会を開くという流れに自然となった。

石川コラム避寒生活_02
元たま、現パスカルズで一緒の知久君と「シェー」

みんなが来てくれることは嬉しかったのだが、「あったかいぞい!楽しいぞい!」と噂が噂を呼んで、ある年など同時期に20人以上の人がドドッと押し寄せた。これはこれで団体様になってしまうので、食事場所もタイ語が分かる友人に予約してもらったりして大変だった。

何ごとも適度な人数がいいのだが、ツアーを組んでいるわけではなく、皆個人旅行で、知らない者同士が僕のところに勝手に遊びに来るのだから、なかなか難しい。

昔、高円寺の僕のアパートにいろんな友達がそれぞれひとりずつで遊びに来た結果、最高で4畳半に10人以上泊まったことがあるが、それと同じようなものである。人を寄せ付けてしまう何か見えないヌルヌルのノリみたいなものが、僕の体に付着しているのかもしれない。

次回は、そんなチェンマイでの生活の様子や思わぬアクシデントについて書こうと思う。

 

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