インスタ映えしない「ボロ宿」に愛を感じる…テレ東「日本ボロ宿紀行」原案者に聞く

インスタ映えしない「ボロ宿」に愛を感じる…テレ東「日本ボロ宿紀行」原案者に聞く
(2011年当時の埼玉県・山崎屋旅館/撮影:上明戸聡氏)

ボロ宿、それは決して悪口ではない。歴史的価値のある古い宿から驚くような安い宿までをひっくるめ、愛情を込めて「ボロ宿」と呼ぶのである――。今年1月から放送されているテレビドラマ『日本ボロ宿紀行』(テレビ東京系)の、冒頭に流れる言葉です。

このドラマの「原案者」である上明戸聡(かみあきと・あきら)さん(58歳)は、2010年ごろ同名のブログを始めました。上明戸さんが愛する「ボロ宿」とは、具体的にどんな宿を指すのでしょうか。そして、なぜいま「ボロ宿」が注目されつつあるのでしょうか。上明戸さんに聞いてみました。

本業は、ビジネス誌などで執筆するフリーライターという上明戸さん(ちなみに、この珍しい名字は本名だそうです)。取材のために日本各地に出張する機会が多く、そのついでに訪ねた「ボロ宿」は、350を超えるといいます。

日本ボロ宿紀行
(2010年当時の青森県・新むつ旅館/撮影:上明戸聡氏)

古い宿には「生きている感じ」がある

ーー上明戸さんのいう「ボロ宿」とは、どういった宿をいうのですか?

上明戸:「古くて、個性のある宿」でしょうか。伝統ある旅館もあれば、木賃宿みたいなものも入ってくる。すると、それらに共通して使える言葉ってなかなかないんです。「ノスタルジックな宿」みたいな、当たり前の表現になってしまうんですよね。

ーーそんな「ボロ宿」の、どんな部分に惹かれているのでしょうか。

上明戸:歴史的とまでいわなくても、終戦直後くらいからやっているような、ちょっと寂れた宿がちゃんと営業していると、「生きている感じ」があるんです。たとえば、宿にオヤジがいて、頑張っている。お金がなくて手がまわらなくて、直すべき場所を直せてなかったり、宿泊費が安いのに一生懸命食事を作ってくれたり。そういうところに「愛」を感じるんですよ。

ーー「インスタ映え」とは逆ですね。

上明戸:映えないです。見た目に良さそうだなっていう宿もあるにはあるんですけど、少ないですよ。綺麗な宿は商売的にも苦労していなかったりしますね。本当はそういうところも泊まりたいですけど、優先順位としては低いです。

ーーなにか、きっかけとなった宿があるのですか?

上明戸:それはかなり昔の話で。学生のころ、よく貧乏旅行をしてたんですよ。なるべく安いところを探して泊まるなかで、盛岡市(岩手県)の元は遊郭だった旅館に泊まったんです。そこが小じゃれた造りになっていて「面白いな」と思ったのが、記憶にあるものとしては最初ですね。

ーーその旅館は、いまも営業しているのでしょうか。

上明戸:駅前自体が変わったので、もうないですね。そのときは予約をして行ったわけじゃなくて、案内所で教えてもらったんだと思います。地方では駅前の再開発が進んで、若いころに行ったところが変わったり、なくなったりしている。そんなことを思い始めたのが、30代なかばのころでした。

日本ボロ宿紀行
(2010年当時の栃木県・喜楽旅館/撮影:上明戸聡氏)

出張のとき、うまくいくようなら、そういう宿に泊まるようになって。もともと古い温泉場とか湯治場が好きだったというのもあったので。だから、あらためて「これをやろう」と思って「ボロ宿紀行」を始めたわけじゃないんですよ。なんとなく好きで、なんとなく始めた。ブログも人に見せるというよりは、自分のための記録という意味合いで。

ひとり旅で不安になっていると、地元の人が「ちょっかい」を出してくる

ーー「宿にこれがあるとうれしい」「ボロ宿度が上がる」というモノはありますか?

上明戸:そういうのは別にないんです。自分なりの思い入れとかもなくて、なんでもいいっちゃなんでもいいんですよ。サービスが良くても悪くても。綺麗な宿か、手入れの悪い宿か、そういうのはどっちでもよくて。とにかく、ありきたりじゃなければいいんです。特徴とか個性が、あればあるほどよくて。

ただ「ボロ宿」っていう呼び方がどうなのかという話はあります。今回、テレビドラマになったので、これから使いやすくなったんですけど、以前はテレビ番組に呼ばれても、「『ボロ宿』という言葉は使わないでください」って言われたこともありましたしね。

ーーそもそも、なぜブログのタイトルに「ボロ宿」という言葉を入れたのですか?

上明戸:友達のあいだで「ボロ宿、ボロ宿」って言ってたんで。深い意味はなかったんです。「ひとことで言えば、ボロ宿だろう」と思ってたんで。若干失礼だなとは思っていましたけど、しょせんブログなんで。それが本になったとき、出版社の考え方とか判断もあったと思うんですけど、やっぱり「ボロ宿」以外ではインパクトがないといいますか。

ーーブログを始めてから約10年。やはり「ボロ宿」は減っているのでしょうか?

上明戸:いまでも残っていますけど、昔とは雰囲気が全然違います。20代のころ、バイクで温泉に行くと、湯治の自炊宿(食事を宿泊者が作る宿)はほとんど混浴でしたし、地元のじいちゃんばあちゃんしかいなかった。そういう人たちが夜になると貸切みたいにして、盛り上がってたんです。

日本ボロ宿紀行
(2011年当時の岩手県・藤三旅館/撮影:上明戸聡氏)

でも、そういう宿で「いいなあ」と思ったところはもう観光化しちゃって。自炊部が残っていても、本館の綺麗な建物でいわゆる温泉旅館として営業している。昔ながらの自炊宿は本当に少なくなりました。

昔は、2泊や3泊して部屋でゴロゴロしてると、隣の部屋のばあちゃんがご飯を食わせてくれたりとか、おばちゃんが輪に入れてくれたりってことがあったんです。湯治客って、いまもいるんでしょうけど、みんな「東京あたりから物珍しくて来た」って感じで、あまりコミュニケーションがないんですよね。

ーーコミュニケーションという点では、書籍の『日本ボロ宿紀行』(鉄人社)では、宿の女将さんと会話するエピソードが多いですね。

上明戸:ご主人とか女将さんとは毎回話せるわけではないんですけどね。話しかけて昔の話を聞くと、けっこうしゃべってくれるんですよ。やっぱり宿に歴史があるから、いろんな話があるんです。ですから、先方に余裕がありそうなときは、聞くようにしています。それは意識してやっていますね。

ーー「知らない人に話しかけるのは難しい」という人が多いと思うのですが。

上明戸:旅では、地元の人しか行かないような飲み屋にも行きます。扉を開けた瞬間に、お客さん全員がこちらを見るような。こっちがひとり旅とかひとり客だと、心細いし状況がわからない。不安にもなる。すると、向こうから「ちょっかい」を出してくれるんですよ。地元の人が珍味と呼んでるものを食べさせてくれたり。こっちが2、3人のグループでワーワーやってたらそうはならないんでしょうけど、ひとりだとそういう扱いになるんです。

旅全般に言えることですが、こちらがちょっと心細いとか不安だという風に思っていると、結果的に、いろんな経験ができる。飲み屋でも、カウンターのすみで飲んで帰ろうとしても、向こうもよそ者がくると面白いみたいで「いじられる」ってことが結構ありますね。

「宿の主人に『ようやくうちに来たか』と言われたこともあった」

日本ボロ宿紀行・上明戸聡さん
『日本ボロ宿紀行』原案者・上明戸聡さん

ーー「ボロ宿」が目的であることは、ご主人や女将さんに告げるのでしょうか?

上明戸:告げません。本に載せるために取材するときは、勝手にというわけにはいかないので伝えますけどね。たまに、宿のほうから「ようやく来たか!」って言われることがあるんです。ブログとか本を知ってくれていて、「『うちに来りゃいいのに』って思っていた」と(笑) 「ボロ宿」という呼び方がいいかどうかは別として、「このノリだったら、うちのほうがネタになるのにな」って。そういうことが何軒かありましたね。

ーー「ボロ宿」が減少していったのは、ここ10年くらいの話でしょうか?

上明戸:それよりもっと前から変わっています。世代によって時代の切れ目の見方が違うと思うんです。僕より上の世代だと戦後の「高度経済成長」でどんどん変わったと思っているでしょう。1970年代に起きた「ディスカバー・ジャパン」っていう旅行ブームで観光化して変わっていったっていう人もいるでしょう。

僕の場合は、田中角栄の「日本列島改造論」(1972年)ですかね。あの辺が切れ目の感じがしています。列島改造で地方開発が進んでいった。それがひとつのきっかけで変わったように感じていますけど、世代ごとにどこを節目と見るかは違うと思います。それでも、いまと比べれば昔のほうがたくさんあったことは確かで。着実に減っていくんだと思うんです。それは、しょうがないですね。

ーー「この風情を残してほしい」とも言えない。

上明戸:経営者も世代交代していきますから。たとえば、湯治宿としてやっていたのが、きれいに改装したロビーでモーニングコーヒーのサービスを始める。それはふつうだったら居心地がよくなることなんでしょうけど、やっぱりちょっと「違うな」と。若い経営者からすると、そうやっていかないと客も来ないし、当然のことをしてるだけだと思うんですけど、ジレンマはありますね。こちらはあくまでも趣味で行ってるだけなんで、つべこべいう立場ではないんですけど。寂しさを感じますね。

ーードラマ化の話がきたときは、どう思われました?

上明戸:テレビ局の人もネタがないのかなって(笑) でもうれしいのは、多少でも注目されてボロ宿の商売がよくなるといいなって。まあブームみたいにはならないでほしいと思いますけど、「しみじみと行きたいな」という人が増える分には。プロデューサーも『孤独のグルメ』(テレビ東京系)をやった方ということで、茶化すのではなく、ちゃんと「いいな」と思ってくれていたので、そこの認識はズレてないな、よかったなって。

ーー東京近郊で、おすすめの「ボロ宿」はありますか?

上明戸:寄居(埼玉県)の山崎屋旅館とか、わりと近いですよ。あとは青梅市(東京都)。御嶽山って山の上に、武蔵御嶽神社にお参りする人のための「宿坊」と集落があって。そこはおもしろいですね。

 

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