「愛人業」で生計を立ててきた58歳女性の本音「愛人とはヘルパーみたいなもの」

「愛人業」で生計を立ててきた58歳女性の本音「愛人とはヘルパーみたいなもの」
愛人業で生計を立ててきたアイリ

愛って究極の呪詛やと思います。愛してるからこうしてほしいとか、こうなってほしいとか、相手も自分も縛ってしまうんです――。

「女性の自由と孤独」をテーマに、女装する小説家・仙田学がさまざまな女性にインタビューするこの連載。今回は、「愛人業」で生計を立ててきたアイリ(58)に話を聞いた。

長年にわたる愛人生活

「いまの人とは、6年ほど続いてます。小さな会社の社長さんで、毎月30万円ほどいただいてます。不倫してお金をもらって生活してるって言うと、汚いことしてるって思われるかもしれません。でも、奥さんがお金をもらってるのに、なんで愛人の私ももらったらアカンのって話です。私のほうは明日喧嘩したらそれで終わりやし、何の保障もないんですよ」

アイリは真剣な目で私にそう訴えてきた。「愛人業」という仕事に強い誇りを持っていることがわかる。花柄のワンピースに、明るく染められた髪。カフェのテーブルに向かい合って座りながら、アイリは壁に少し肩を寄せかけていた。

30年ほどにわたって、アイリは何人もの既婚男性の愛人になり、金をもらうという生活を続けてきたという。しかし、最初に愛人になった男性からは、経済的な援助は受けていなかった。

「最初に愛人になったのは20代の頃。当時はスナックで働いてたんですけど、母親と折り合いが悪くて家を出たところを、あるお客さんがかくまってくれたんです。経営者で、すごく優しくてマメでした。妻子持ちでしたけど、私の他にも女性は何人もいました。その女性たちとの間に子どももいっぱい、サッカーチームを作れるくらいの人数がいたそうです」

愛人として5年ほど関係を続けた頃、アイリは妊娠する。すでに離婚していた相手の男性は、アイリと再婚することを選んだ。

「そのあたりから彼の会社は経営が傾きだして、多額の借金を負うようになりました。それでも女癖は治らず、しょっちゅう家を空けては遊びに行ってました。でもそんな女性たちからお金を用立ててもらったり、洗濯機や冷蔵庫をもらってきたり。いろんな愛人たちに養ってもらって生活してたんです。だから、私はその女性たちには感謝しています」

5年間に及ぶ愛人生活の間、アイリは経済的な援助を受けていなかった。むしろ、金や物を貢いできたという。他にもそのような女性たちが何人もいて、彼女たちは結婚後も援助を申し出てきた。つまりアイリの元夫は根っからのヒモ体質なのだろう。結婚はしたものの、アイリは実質的には鵜飼いの鵜の一羽にすぎなかった。

元夫の愛人たちからの援助はあるものの、それだけで暮らしていくこともできず、アイリは水商売以外の仕事をすることにした。子どもたちを寝かしつけた後、深夜から早朝まで弁当の製造の仕事をしたが、長続きはしなかった。家事、育児と仕事をひとりでこなすうちに、アイリは肉体的にも精神的にも疲れ果てていった。

「お金をください」とお願いした

仙田コラム_記事中画像

「ある日、言葉が話せなくなりました。自分の名前も出てこなくなって、病院に行くとうつ病だと診断されました。自殺衝動が強くなって、気がついたら家を飛び出していたり、手首を切っていたり。その頃、中学生になっていた息子は反抗期の真っ盛りで、家の中には物が散乱していました。息子と私が争うと、娘が止めに入って私にすがる。すがられると私は息ができなくなるので、娘を蹴りました。子どもに殴られ、子どもの首を絞めて……。そんな生活がしばらく続いた頃、家を飛び出していた私が帰ると、子どもたちがいなかったんです」

虐待を疑った学校が児童相談所に連絡したため、アイリの子どもたちは児童養護施設に保護された。そのまま4年間、アイリは子どもたちと別れて暮らすことになる。夫とは離婚して、10年間の結婚生活を終わらせた。

やがてアルコール依存症の男性と出会い、お互いを慰めあうような生活を送るうちに、アイリの精神は少しずつ落ち着いていった。子どもたちが戻ってくると、アイリはその男性と別れ、生活を支えるためにスナックで働きはじめる。アイリはすでに40歳を超えていた。

「同じように苦しんでいる人たちの力になりたい。そんな夢を持つようになりました。カウンセラースクールに行きたい。でもそんなお金はない。だから、お客さんにお金をくださいってお願いしてみたんです。そのお金はこんなふうに使います、社会の役に立てます、その代わり精神面でも肉体面でもあなたを支えますからって、ビジョンを示して」

2人目の愛人となったその男性は、アイリの申し出を受け入れた。愛人契約を結び、月に1度会う生活が始まった。とはいえ子どもがいるため、家に呼ぶわけにはいかない。会うとまずホテルに行き、美味しいものを食べて、お金をもらって別れる。

アイリが「愛人業」を本格的に始めたのはその頃からだ。子どもたちも、男性の存在を知っていた。シングルマザーの母親のことを考えると、そういう相手がいることでかえって安心したという。

「そんな生活が10年ほど続いて、その人が定年退職する頃に、3人目の人と出会いました。その人もスナックのお客さん。生きていくためにお金が必要だったから、交渉しました。『私はあなたを幸せにします。あらゆる面倒をみます。私を愛人にしてみいひん?』って。付き合ううちにその人は収入が増えて、もらうお金も増えました。週に2回くらい会う生活が、もう6年くらい続いてるかな。彼の奥さんは知ってるみたいだけど何も言わないみたいです」

「愛」って、いったい何なのか

愛人候補の男性に対しては、関係を持つ前に、お金に困っているということをはっきり伝えて、交渉する。高価なバッグや服はいらない、それより生活費がほしいと伝える。受け入れられない相手は去っていく。愛情は後から湧いてくる――。

それがアイリの考える「愛人」像だ。彼女にとって、そもそも「愛」とはどんなイメージなのか。

「愛って何なんでしょう。親が子に向けるもの以外に、愛なんてあるんかな。子どものためなら何でもできるでしょう。命だって惜しくない。でもそれ以外に、そんなこと思えますか? 恋人や結婚相手にでも。『愛人』っていうと、奥さんがかわいそうとか言う人もいるけど、そもそも愛ってあるんかなって。『愛人業』って、ヘルパーさんみたいなものなんです。相手に尽くしてお金をもらう。それだけのことなんです。だから、純粋に相手が好きで、お金をもらうなんてとんでもないってスタンスの人には向かないでしょうね」

愛って究極の呪詛やと思います。相手も自分も縛ってしまうから……。別れ際に、アイリはそう呟いた。

SERIES

TAGS

この記事をシェア