リアルとバーチャルの境目が溶けている? 「グランツーリスモ」世界大会で見えたこと

2018年11月、「グランツーリスモ・ワールドファイナル」のトロフィーを掲げるGT産みの親の山内一典さん。左はF1王者ルイス・ハミルトン=吉野太一郎撮影

リアルと現実の境目が、溶けているのではないだろうか?

11月17~19日にモナコで開かれたPlaystation 4用ソフト「グランツーリスモ」(GT)シリーズの初の世界大会。3日間、現地でこのレースを見続けていた私は、考え込んでしまいました。目の前で、単なるゲームを超えた、何かとんでもないことが起きているのではないかと。

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「これからの100年がうまくいくとは思えない」

吉野太一郎撮影

画面だけを見ていると、本物のレースを見ていると錯覚するほど、グラフィックはリアルに作られています。

今回の大会は6年前に、F1グランプリなどの主要自動車レースを主催する国際自動車連盟(FIA)が、GTを開発したポリフォニー・デジタル社に持ちかけたのが発端です。社長の山内一典さんによれば「モータースポーツがこれまでの100年のように、これからの100年がうまくいくとは思えない」というのがFIAの提案理由だったといいます。

背景に、モータースポーツの人気が全世界で下降気味であることがあげられます。中でも最高峰のF1で、スポンサーの撤退やテレビ視聴者数の低下というニュースが続きます。日本ではテレビ地上波のF1中継が2011年を最後に打ち切られたまま。

ピーター・ライオンさん=吉野太一郎撮影

オーストラリア出身で、レーサーでもあるモータージャーナリストのピーター・ライオンさんは「関心や興味を失う人が多くなっているのは事実です」と話します。

「どうすれば新しいカスタマー、とりわけ若い人を迎えられるか。それはゲームですね。FIAと性能の高いゲームが手を取り合うことで、若い人の認知度が上がり、レースに出ようという人も増える。ドライバーが今まで獲得できなかったスポンサーも興味を示すのではないでしょうか」

もともとプロのレーサーもシミュレーターを使って練習するのが当たり前のモータースポーツ。両者の融合は早い段階で始まっていました。2008年には、ポリフォニー・デジタルと日産自動車が連携して、GTのプレーヤーを実際のレーシングドライバーに育成する「GTアカデミー」を始めました。

第1期生のルーカス・オルドネスさんは2012年に「三大自動車レース」のひとつ、ル・マン24時間耐久レースでLMP2クラス2位、2014年にはドバイ24時間レースでクラス優勝するなど、着々と実績を積み重ねています。

ポルトガル語の実況中継を担当したルーカス・オルドネスさん=吉野太一郎撮影

もともとリアルのレーサーになるのが夢だったというオルドネスさん。「GTとリアルのレースはもちろん、大きく違う。GTはクラッシュや転覆はしない設定になっているけど、リアルのレースは生命のリスクを伴う。自分自身をコントロールする必要がある」。

それでも、「リアルのレースは危険で高額な費用がかかるが、よりアクセスしやすいGTに多くの若者が魅了され、リアルのレースのファンになってくれている。観客も増えるし、業界にとってもメリットがある。GT出身であることを誇りに思うよ」と言います。

eスポーツブームで低くなる垣根

最近は「eスポーツ」ブームで、他のジャンルでもリアルとバーチャルの垣根は確実に低くなっています。

2018年のアジア大会では公開競技としてサッカーゲーム「ウィニングイレブン」(ウィイレ)や5人1組で武器を持って戦う「リーグ・オブ・レジェンド」(LOL)などが採用されました。2019年の茨城国体では、文化プログラムとしてGTやウィニングイレブンなどが実施されます。

熊谷祐二さん=吉野太一郎撮影

スマートフォン向けゲームなどを展開する「アカツキ」は2018年、スペインのeスポーツリーグの主催企業を買収しました。2019年からオンラインで始めるeスポーツのリーグ戦には、FCバルセロナやブラジルのサントスFCなど、世界各国の有名スポーツクラブが参加する予定です。

サッカークラブだからサッカーのゲームをやるのかと思いましたが、主に「戦略シミュレーションゲーム」を予定しています。アカツキの事業開発部ゼネラルマネジャーでバルセロナ駐在の熊谷祐二さんは「スポーツクラブにとって、eスポーツは自国の若年層にリーチできるチャンス。コアなeスポーツのファン層を獲得して、サッカーを見に来てもらおうとするなら、サッカーゲームに限定していては効果は薄いからです」と解説します。

そして、プロクラブと協業する意図を、こう語ります。「サッカーのクラブは育成、強化の仕組みが整っています。たとえばeスポーツのプレーヤーが、プロとしての発言やふるまいを身につけるためにも、プロクラブはノウハウを持っています」

未来派から100年、新たな「破壊」はあるのか

再びモナコ。

2018年11月18日、モナコで開かれた「グランツーリスモ・ワールドファイナル」で、優勝トロフィーを掲げるイゴール・フラガ選手(中央)ら=吉野太一郎撮影

GT世界大会の優勝者と優勝チームには、主催者ポリフォニー・デジタルの社長、山内一典さんからトロフィーが贈られました。

それは、20世紀初頭のイタリアの彫刻家ウンベルト・ボッチョーニの作品「空間における連続性の唯一の形態」のレプリカでした。20世紀初頭、スピードとダイナミズムを表現した「未来派」という芸術運動が生まれましたが、ボッチョーニはその代表格です。

自動車や飛行機が生み出され、人類が「スピード」に接した20世紀初頭の1909年、イタリアの詩人マリネッティは、フランスの新聞「フィガロ」に「未来派宣言」を発表します。この宣言には「うなりをあげ(て疾走す)る自動車は『サモトラキのニケ』より美しい」という有名な一句があります。古代ギリシャが生んだ芸術作品の代表格よりも、近代文明が生んだ機械のスピードの方が素晴らしいというわけです。

「グランツーリスモ・ワールドファイナル」の優勝トロフィー=吉野太一郎撮影

「空を飛びたい」「馬より早く走りたい」と熱望していた人類が、夢に描いていた驚異的なスピードを手に入れてから100年。人類はスピードを再び、夢想の世界に押し戻すのでしょうか。それとも2回の世界大戦で自動車が戦争の主役になったように、バーチャルの世界に生まれたカーレースは、リアルとの境界を破壊していくのでしょうか。

山内さんに聞いてみると、にやりと笑いました。「両義性ですよ。車を愛するってことは、責任を伴うってことなんだ。それをGTの選手たちにも分かって欲しかった」

 

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