バーチャルカーレース初代王者は日本生まれのブラジル人 「リアルとの相乗効果」で頂点に

グランツーリスモ世界大会で優勝したイゴール・フラガさん=岡田晃奈撮影

勝利の瞬間、彼は両手を突き上げ、ブースの椅子に立ち上がってガッツポーズしました。

2018年11月、モナコ。世界で計8000万本以上が売れているバーチャルカーレースのソフト「グランツーリスモ」(GT)の腕を競う第1回世界大会が開かれました。

2018年11月、モナコの「グランツーリスモ」世界大会で優勝を決め、立ち上がってガッツポーズするイゴール・フラガさん=吉野太一郎撮影

個人部門で優勝し、栄えある初代王者に輝いたイゴール・フラガさん(20)は日本生まれブラジル育ち。リアルでも有望なレーサーです。日本メディアの取材に、流暢な日本語で「リアルとの相乗効果です」と語りました。

フラガさんが生まれたのは金沢市。ブラジル人の父は、金沢市で機械会社を経営していました。母は日系ブラジル人2世。「戸棚におもちゃの車がいっぱいある」車好き一家で、ブラジルが生んだ伝説のF1レーサー、アイルトン・セナのビデオを見て育ちました。

「ブラジル人にとってセナは英雄です。子どもの頃は、アグレッシブな走りにあこがれました。自分の100%以上を出し切ろうとする姿、そして誰より頑張ったからこそ、頂点に立てた。人間としての強さも学びました」

幼少の頃(本人提供)

4~5歳の頃から、週末になると父の運転する専用のマイクロバスで車中泊しながら、滋賀県の琵琶湖スポーツランドまで通いました。キッズカートやジュニアカートに出場しながら頭角を現していきます。カート時代は、昨年F2で優勝した牧野任祐選手と戦ったこともあります。

2008年のリーマン・ショックで父親の会社が厳しくなり、2010年に家族でブラジルに帰国しますが、15歳でレースを再開。2017年にブラジルF3で優勝すると、翌18年には北米インディカー・シリーズの下部カテゴリー「USF2000」で総合4位となりました(インディのトップカテゴリーは、F1と並ぶカーレースの最高峰)。

グランツーリスモ(GT)は幼いころの誕生日にプレゼントされ、遊びながら車の運転を覚えるのに役立ちました。「最初からゲームで覚えたことは、リアルのレーサーとしてもすごくよかった」と言います。

イゴール・フラガさん=岡田晃奈撮影

いざとなったらリセットボタンがあり、クラッシュや死の危険もないバーチャルの世界。「車の中で感じる震動や『G』(遠心力)も、バーチャルにはない。画面のわずかな変化で判断する集中力が求められるので、終わったら脳味噌から白い煙が出る感じです」。

また、リアルのレースでは監督が考えるタイヤ交換や給油のタイミングも、GTではドライバーが自分で判断しなければなりません。「自分がエンジニアの仕事をやってることにもなるので、リアルのときにエンジニアに伝えやすくなり、コミュニケーションが取りやすくなります」

フラガさんが遊びだったGTに本気になったのは、15歳のとき。GTの上級プレーヤーを本物のレーサーに育てるプログラム「GTアカデミー」の選考会に出場、辛うじて予選は突破したものの「上がいると知って火が付いた」といいます。

昨年はリアルのレースで北米を転戦しながら、ホテルではGTに熱中していました。

「モータースポーツの場合、リアルのレーサーもシミュレーターで練習するのが当たり前なので、最初から障壁は大きくありません。ゲームの中でリアルと同じコースを走れるので、イメージトレーニングやラインの取り方など、いろんなことが応用できました」

「リアルとバーチャルで頂点に」

昨秋のGT世界大会は、「eスポーツ市場」の開拓を狙う国際自動車連盟(FIA)の公認大会でもありました。フラガさんは年末、ロシアのサンクトペテルブルクで開かれたFIAの年間表彰式に招待され、F1王者ルイス・ハミルトンら、リアルのドライバーたちと並んで表彰されました。

「夢に一歩、近づいた。将来ここで、リアルとバーチャルのトロフィーを両手に掲げられればいいな」

イゴール・フラガさん=岡田晃奈撮影

もともと貴族の道楽で、とにかくお金がかかるのがモータースポーツ。インディカーの最下部カテゴリーでも、参戦すると、年間で数千万円の個人負担が発生するといいます。ほとんどがスポンサーを得て活動しており、賞金で生活していけるのは、F1でもごくわずかです。

「それに対して、タイヤ1本の値段で専用コントローラーやモニターまで買えて、3年は遊べるのがレーシングゲーム。eスポーツが盛り上がれば、もっと多くの人が興味を持ってくれて、モータースポーツ全体が盛り上がるかもしれない」

イゴール・フラガさん=岡田晃奈撮影

2019年初頭、フラガさんはF1で知られるイギリスのスポーツカーメーカー「マクラーレン」のeスポーツ育成プロジェクトで優勝し、マクラーレンが抱えるeスポーツチームに所属することが決まりました。eスポーツのプレーヤーとして活動する傍ら、様々なデータをリアルのドライバーや自動車開発にも生かしていく任務です。

リアルとバーチャルの境界を飛び越える人材として、またひとつ、大きな仕事を担うことになりそうです。

 

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