居住者と旅行者がともに暮らす――話題の「サブスク型住居サービス」に泊まってみた

HafH Nagasaki-SAI の利用者の男性(撮影・前田真里)

自宅でもないのに、「お帰りなさい」と出迎えてくれたり、「行ってらっしゃい」と見送ってくれたりする場所がある。シェアハウスやコワーキングスペース、カフェなどが一体になったコミュニティ空間。1月8日、長崎市にオープンした「HafH Nagasaki-SAI」である。

ハフ(HafH)は、Home away from Home(第2のふるさと)の略称である。「世界を旅して働こう」というコンセプトのもと、住んだり働いたりする場所を会員同士でシェアするサブスクリプション型の住居サービスだ。

昨年の秋、支援者を募るクラウドファンディングを実施すると、まだビルが工事中だったにもかかわらず、大きな反響があった。最終的に400人以上が支援し、想定の5倍超の1000万円以上が集まった。

「テラスハウス」のようなリビング

これだけ、多くの人の心を掴んだ理由は何だろうか。

そう思いながら、HafH Nagasaki-SAIに宿泊することにした。私が選んだのは、一時的に利用する「おためしハフ」というプラン。ドミトリータイプの宿泊・朝食付きで、 3500円だった(税込・2019年1月11日現在)。

ハフに着くと、受付でチェックイン。受付のある1階カフェは、宿泊者以外も利用可能だ。オープン初日には、300人以上が詰め掛けた。訪れた人のインスタ投稿や地元テレビの生放送の影響か、午後7時を過ぎてもほぼ満席だった。繁華街のアーケードから徒歩30秒。若者が多く、賑やかだった。

HafH Nagasaki-SAI の外観(提供・KabuK Style Inc.)

ハフを手がけるKabuK Style(長崎市)の共同経営者、大瀬良亮さん(35)と砂田憲治さん(34)はともに、高校時代を長崎で過ごした。2人とも関東の大学に進学し、東京で就職したが、長崎で何か新しい住空間を作れないかと語り合っていた。その後、高校時代の仲間などの協力もあり、故郷で新事業を始めることが実現した。

長崎県に住みながら月に3回ほど県外で働く私にとって、ハフの「サブスク型住居サービス」は、とても魅力的だ。最近、私の周りでも、シェアオフィスの利用者やシェアハウスの生活者が増えている。しかし、ハフが提唱する「コーリビング(Co-Living)」という言葉は初耳だった。

居住者と旅行者が居住空間をシェアしながら一緒に暮らすという新しいライフスタイルなのだが、ハフを訪れた私はスタイリッシュな空間に少し緊張していた。

掘りごたつのあるリビング。天気がいい日は、外の広いバルコ ニーに出てヨガ等ができる。共有スペースの冷蔵庫やジューサー、ランドリーを自由に使える(提供・KabuK Style Inc.)

3階の玄関を入ると、広いリビングは、まるでテレビ番組の「テラスハウス」のように開放的な空間だった。オープンキッチン、バーカウンター、大きいソファと掘りごたつがある。

テレビを見ていたら、旅行者や仕事を終えた居住者が帰って来た。一緒に話をしていると、初めて聞く地名がたくさん出てきた。未知のことに触れる楽しさ。大学時代、海外でバックパッカーをしたのを思い出した。

新たな冒険に目を輝かせる62歳の外国人

スコットランド出身という62歳の男性は「長崎は、綺麗な海や緑の小高い山があって、人々が穏やかで優しい。自分が育ったニュージーランド・ウェリントンに似ている」と嬉しそうに話した。彼が長崎を訪れるのは18回目。他の旅行者にも近所のお薦めのカフェを知ってもらいたいと、地図を作っているそうだ。

ニュージーランドで35年間、空手や居合道などを教えてきた。長崎市内の道場でも子供たちと一緒に稽古をしたらしい。そのしゃがれた声と鉛筆で細かく描かれた地図から、長崎への愛情が伝わってきた。

ハフの近くにある観光地、眼鏡橋や路地裏のカフェなどを地図にまとめる。これまで世界を旅して、鉛筆画を描き続けてきた(撮影・前田真里)

そんな彼は25年間一緒にいたパートナーと、3週間前に別れたばかり。思わぬ人生の転機に、自分が大切にしてきたものや好きなことに改めて気づけたという。「こうして滞在できる場があることは、本当に嬉しい。私のような年齢で冒険できることってなかなかないでしょ」と目を潤ませながらイキイキと語った。

ハフのサービスは、サブスクリプション型の利用なので、長期滞在する場合でも通常の賃貸住宅のような敷金・礼金・保証金は不要で利用料のなかに光熱費やインターネット接続料も含まれている。シンプルな料金体系なので、特に海外の利用者にはありがたいだろう。

この共同空間は、彼がこれからの人生を前向きに生きていくことを後押ししているように見えた。

共同ドミトリー。部屋には、Otaki、Ryomaといった長崎にゆかりがある人物の名前がつけられている(提供・KabuK Style Inc.)

今後、さまざまな町に展開していこうとしているハフの記念すべき1号店が、この「HafH Nagasaki-SAI」だ。その総支配人を務めるのは、運営会社共同代表の大瀬良さんの母、さとみさんである。ハフのお母さん的存在としてスタッフの支えになっている。

昨年還暦を迎えた母親に総支配人を任せることにした背景について、大瀬良さんは「政府は人生100年時代と言っている。年齢が原因で仕事を引退せざるを得なくなっても、活躍できる人たちは一杯いる」と説明する。

「長崎のお母さん世代の人たちはとても日傘が似合って、ルノワールの絵画のような品を感じられてとても自慢なんです。マダムバタフライ(蝶々夫人)やお滝さん(楠本滝)じゃないですけれど、長崎のお母さんたちの魅力を世界に自慢したいという思いもある」(大瀬良さん)

今回の滞在を通して、家族とは何か、ふるさととは何だろうと、改めて考えることができた。自分の視野を広げるきっかけになった。ハフが注目されたのは、人々が斬新なビジョンに共感しただけではない。新たな居場所で心豊かに過ごしたいという願望や期待感があるように感じた。

オープニングレセプションの記念写真。1列目左から5番目でマイクを持つのが、共同経営者の大瀬良亮さん、その右隣が総支配人の大瀬良さとみさん(提供・KabuK Style Inc.)

先月、リクルートが2019年のトレンド予測の中で「デュアラー(都心と田舎の2拠点の生活を楽しむ人たち)」というキーワードを発表した。その一歩先の世界では、ハフの利用者のように多拠点をベースに暮らす「マルチベーサー」のライフスタイルが広がっていくのかもしれない。

今春、古民家を改装したハフ2号店が長崎市内にオープンする。さらにハフの拠点は、業務提携により、大阪、福岡、伊豆大島、成田、アジア等へも拡大していく予定だ。

 

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