家族のようだけど家族じゃない「ドラえもんの家」のようなゲストハウスに「ひとり宿泊」

家族のようだけど家族じゃない「ドラえもんの家」のようなゲストハウスに「ひとり宿泊」
(イラスト・和田靜香)

年が明けて最初の週末、入谷にあるゲストハウスに一人で泊まってきた。

ゲストハウスとは二段ベッドなどが並ぶ部屋に見知らぬ同士が寝泊まりする、比較的安価な宿泊施設。施設によっては個室もある。

トイレやシャワーは共同使用、ベッドのシーツは自分で付けてね、でもキッチンやらサロンなんかがあって、好きに料理したり、宿泊者や宿の人たちみんなで交流したりできるよ、という所。

最近はゲストハウスが静かなブームだとかで、特に東京では、いわゆるインバウンドっていうんですか? 海外からの観光客を目当てにいささか供給過剰なほど増えているらしい。「そういう所はオリンピックが終わったらシェアハウスとかに変えていくみたいよ」と、今回泊まった先で詳しい人に聞きました、はい。

お婆ちゃんの家のようなゲストハウス

宿には夕方4時過ぎに到着した。

入口は宿泊客じゃなくても入れるバーになっていて、おしゃれな作り。建物自体は古い家を改装している。

「いらっしゃいませ~。ご予約の和田さん? ありがとうございます」

キビキビ、ニコニコ迎えてくれるのは20~30代前半とおぼしき若いスタッフたち。ゲストハウスはこうした若い人たちが自分たちで古い家などを改装し、運営しているという所も多く、ここもそういう若い人たちが始めた所なんだとか。「toco.」というゲストハウスだ。

和田ゲストハウス_1
東京都台東区の下町にあるゲストハウス「toco.」

さっそく中を案内してもらうと、池のある庭があり、縁側が伸びている。木枠の窓は夜になると雨戸が閉められ、障子やふすまが部屋を仕切る。まるで昔のお婆ちゃんの家に来たようで、後で宿泊者が書きこむノートを読んだら、インドネシアの人が「ドラえもんの家に来たよう」と書いていた。なるほど、そういう感じ。もしくは、サザエさんの家。

私の部屋は女性専用で二段ベッドが4台。下の段をもらって、荷物を下ろした。

若い頃の私だったら、こんな相部屋に泊まるなんて絶対にイヤだった。人がいたら眠れない、落ち着かない、暑い寒いが好きなように調節できないなんて無理無理無理と思っていたのに、年を取ってきたらそういうことが一つずつほぐれてきた気がする。

これも面白いかもしれない、人生には限りがあるから何でもやれるうちに経験してみたらいいんじゃないか? そう手を伸ばしたくなっている。人って年を取ると、悟るより逆に強欲になっていくものなのね、と知る。私は今、あれもこれもそれも、全部やってみたい。

バーでミカンを配ってみたら・・・

部屋の様子を確認したら、宿の人に教えてもらった近所のスーパーに行き、「きっとベテランなオバちゃんが作ったに違いない!」と察せられる私好みのサバ弁当とカップみそ汁を買って来て、共有スペースのキッチンで食べることにした。

チンもあるし、お湯も沸かせる。やろうと思えば鍋もフライパンも調味料もあるから、調理だってしていい。「ここ、住めるわぁ」と思いながら、座ってモグモグした。

すると、入れ代わり立ち代わり色々な人がキッチンを通って行く。海外からのお客さんが多く、みんな「ハイ」と小さく言ってニコッとするので、私もニコッとして「ハイ」と答える。「やだぁ~、まるで海外に来たみたい」と妙にテンションが上がった。まぁ、山手線に乗って来ただけなんですけど。

和田ゲストハウス_2
toco.は築90年の古民家を改装したゲストハウス

7時からはバーが開きます、と聞いていたので、7時過ぎに入口のバーに行ってみた。宿泊客はウェルカム・ドリンクを1杯もらえる。誰もいないかな? と思ったら、男性、女性、外国の人、お客さんは4人いて、なんだか遠慮がちに離れたテーブルに座ってスマホを見ている。そこでオバさん力を発揮。スーパーで買ってきたミカンの袋を取り出して、「みなさん1つずつどうぞ」と配った。

たちまちミカンを話題に会話が飛び交う。そのうち私と同年代の女性と、宿のスタッフの女性で色々話すようになった。女性はゲストハウスが大好きで、日本全国あちこち泊まりに行くんだとか。家は都内にあるが、この宿に数カ月に一度は泊まる常連。都内から泊まりに来る酔狂な人は私だけかと思ったら、もう一人いた。

さらに、宿の女性が「都内の方もけっこう泊まりに来て、翌日そのまま会社に行く人も大勢います。遠くへ旅するほど時間もお金もないけど、ここだとそのまま会社に行けて、いい気分転換になるって言います」と教えてくれた。

年末年始をゲストハウスで過ごすのも悪くない

常連女性は年越しも地方のゲストハウスで迎えたそうで、この宿も年越し宿泊の人はすごく多かったんだとか。そうか、お正月は家族みんなで過ごすもの、という常識のようなものに私は縛られていたかもしれない。

私自身、この年末年始は大晦日に実家に帰ったものの、何せ53歳になった今も独身でバイトばかりしている不安定なフリーランス。親兄弟からしたら心配の種であり、「いつまでそんなことしてるの?」「これからどうするの?」と容赦なく詰問してくる。

「そんなこと聞かれても~」と左右の人差し指をツンツンしながら口を尖らせて答えるしかない私は、「色々忙しいんです」と元旦にはもう東京へ戻ってきた。

和田ゲストハウス_
暖かみのある木造家屋と和風の庭

しかし、周りを見回せば、親や兄弟との折り合いが合わなくて田舎に帰らないという人はけっこう多い。さらに、親が亡くなっていたり、私のような独身者、パートナーと離婚したり死別し、子供がおらずなどで、一人で過ごす人も大勢いる。

そういう人たち……いや、そんな他人事じゃない。私のような人にとって、ゲストハウスは一つのセーフティ・ネットになってきているのかもしれない。常連の女性だって、何かそういう事情があって旅を続けているのだろうか。 

そのうち、バーは段々混んできた。地元の人たちも加わってワイワイガヤガヤ。でも、よく見るとワイワイしてるのは外から来た人たちで、宿泊客は1杯か2杯飲むと部屋へ戻って行く。常連の女性が「こういう旅をしてる人たちは、自分に責任を持って動いてゆくからね。そうそう羽目をはずしたりしないのよね」と教えてくれた。

そうなのか? 1970年代や80年代、ゲストハウスに泊まるバックパッカーたちは酒酌み交わし歌うたい、大いに羽目をはずす人たちだったんじゃないか?と勝手に想像するが、今どきはそうじゃないらしい。確かに私がごそごそベッドにもぐり込んだ11時半頃、同室の女性たちはベッドの中で寝息を響かせていた。もう、みんな寝ちゃったの?と思ってるうちに私も寝てしまった。

家族のようで家族じゃない朝の食卓

翌朝、キッチンで朝食のオニギリを食べた。宿で働く若い女性が手で一つずつ握ってくれ、温かい手作りみそ汁付き。彼女がキッチンのテーブルに背を向けてお味噌汁などをゴトゴトしている後ろ姿はまるでお母さんみたいで、「お母さん、お母さん」なんて呼んで笑い合った。

和田ゲストハウス_
ゲストハウスのスタッフが食事の準備をしている様子は「実家のお母さん」みたいだ

オニギリを食べていると、続々と泊まり客がやって来た。昨夜話した女性、学校の先生をしている男性、韓国から来た女性2人、オーストラリアから来た男性などなど。「おはよう」「まだ眠い」「今日どこ行く?」みんなであいさつを交わし、今日の予定や、どこからどうして来たの?なんてことをワイワイ話す。

古い家のキッチンでテーブルを囲んでいると、まるで本当におばあちゃんの家に親戚が集まったみたいだ。国も年齢も違うけど、お母さん(?)が作るお味噌汁をみんなで味わっていると、そんな気がしてくる。

先生をしている男性もゲストハウスが大好きな一人で、昨夜の女性同様にあちこち泊まり歩いているとか。「どうして?」と聞くと、「ゲストハウスでは色々な人に出会えて楽しいから。学校にいると、聞かれるのは昇進のことや結婚するの?とか同じことばかり。そうじゃない話がしたい」と言っていた。

オーストラリアから一人で来た男性は「仕事がストレスフルで、あんまり遠すぎない所でリフレッシュしたいから来た」と言う。オーストラリアの方がずっとリフレッシュできそうな気がするけど、彼にとってはオーストラリアの雄大な自然も身近すぎてストレス社会の延長に見えてしまうのだろうか? おいしそうにオニギリを食べていた。

さて、オニギリを食べ終わり、早めに出かけるという常連女性と一緒に、宿の裏にある神社に初もうでをした。また私だけキッチンに戻ると、あれ? もうみんないない! 宿の若い女性が後片付けをシャキシャキやっていて、さっきとは別の海外からの女性2人組が眠そうな顔で、買ってきたコンビニのパンを黙って食べている。

家族終了~~。

家族のようでも家族じゃない。家のようでも家じゃない。ゲストハウスは旅の途上にある人たちが集う場所。一時、テーブルを囲んで笑い合うけど、あくまでスマホ片手の語り合いで、深追いせず、飽きたら去り、去る者は追わず、おだやかに繋がる。

和田ゲストハウス_
裏の神社とゲストハウスを行き来してた猫

おだやかな繋がりは、家族や様々な人間関係のわずらわしさ、逆に一人ぼっちの寂しさをしょい込むのに疲れたとき、ちょうどいい温もりだ。

さぁ、家に帰ろう。支度をして山手線に乗って、瞬く間に日常に戻った。

でも、あの世界に帰ろうと思えばすぐに行ける。「おかえりなさい」と宿の人たちも泊まっている見知らぬ人たちも、また家族のように迎え入れてくれるだろう。一つ、自分が逃げられる場を見つけられた。そんな気がしている。

合わせて読みたい

TAGS

この記事をシェア