「本屋は宇宙だ」3畳に満たない部屋で、26歳の彼女が本屋を始める理由

「ほんやのほ」を開く伊川佐保子さん

東京・小伝馬町の雑居ビルの一室を借り、ひとりで小さな本屋を開こうとしている女性がいます。東京に住む元会社員・伊川佐保子さん(26)です。伊川さんは2月1日、「基本のキ」、「いろはのい」から名前をとったという書店「ほんやのほ」をオープンさせます。

店の広さは、本棚のスペースを入れても3畳ほど。古本と新刊を取り交ぜて置く予定ですが、オープン時には、全部で1000冊にも満たないといいます。美術大学を卒業後、会社員として働いてきた伊川さん。「本を売るだけで生きていけるとは、まったく思っていない」といいつつ、それでも準備を進めるのはなぜでしょうか? 工事中の開店予定地を訪れ、話を聞きました。

「誰かと一緒にやると、そこで完結しちゃいそう」

ーーそもそも、なぜ「ひとり」で本屋を開こうと考えたのですか?

伊川:ひとりでやるってことにはしてますが、応援してくれる人相談に乗ってくれる人がいるので、ひとりぼっちではないんです。実際にひとりでやってみると、内向きにならないなって思います。たとえば、誰かと2人でやることを想像してみると、お互いに補い合って、そこで完結しちゃいそうな気がして。

ーー「内向きになる」というのは?

伊川:固定されるものが増えるイメージなんですよ。誰にでも譲れないもの、こうしたい、こうしたくないっていうのがあると思うんですだから誰かと一緒にやるときには、2人の志向のかけ算で、ある程度、その方向性が決まってくるような気がして。相乗効果になっていければ、ベストだと思うんですけど、がっちり決めずに、まずはひとりで試行錯誤しながらはじめてみることにしました

ーー本屋を開くという計画は、いつごろから動きだしたでしょうか。

伊川:昨年の8月くらいに、仕事を辞めて本屋をやろうかなと思い始めて。そのときは「すぐにやろう」というのではなく、ちょっとずつ。9月末に「本屋講座」というのに行ってみたら、すごく楽しかったんです。やる気のある人とか講師に出会えたんで。そのなかに、下北沢にあるBOOKSHOP TRAVELLERっていう本屋さんの方がいらっしゃって、そこの棚をひとつ貸してくれるというので、実際に借りてみて。本屋的活動はそのときに始まった感じです。

りの人に聞いてみると、じつは昔から「本屋さんになりたい」っていうのは子供の夢みたいに語ってたっぽくて。「本屋を始めることになった」って話すと、「ずっと言ってたもんね」みたいに言ってくれる。昔からの夢ではあったんですね。

ーー「本が売れない」といわれるいま、「なぜ?」という気もします。

伊川:「本屋さんって宇宙みたいだな」っていう思いがあるんです。以前、阿佐ヶ谷に「書原」っていう本屋さんがあったんですけど、そこがすごく好きで小さいときからよく通っていたんです。自分が知らないものが移り変わっていく、新しい本も新しくない本も並びが変わると気づくこともある、そういう発見があったんです。

商売として成功しようとか、とにかく儲けてやろうと思うんだったら、たぶん筋がよくないんですよ。でも何かやるとしたら、本屋という活動がいいという思い込みがあって。その思い込みをかたちにするためにやっています

ーー会社を辞めて本屋を始める裏には、会社員が向いてなかったという思いもありますか?

伊川誰かに喜ばれるような仕事は楽しくていいんですけど、苦手なことや、どうしてもやりたくないこともあって……。上司を困らせていたと思います。

本屋さんで大事なのは「本が動いていること、人が動いていること」

ーー本屋さんを始めるにあたり、具体的にどのように行動していったのですか?

伊川初にツイッターを開設しました。あとは本屋さんに行ってみて、メージを膨らませて。本屋講座に行ったあとは、「一箱古本市」という古本を箱で出店するも何度か出てみました。そうすると、本屋さんをやっている人とじかに話せる機会が多くなるので、「本屋をやりたいんです」って相談してみたり。

あとは、物件サイトを眺めていたら偶然、物件を見つけてしまったので……。すぐに内見をして、すぐに契約をして。具体的なものを持ってきちゃったので、そのあとで「どうしよう」ということを考え始めたっていう順番です。本当に無計画なスタートでした

ーーここまでにかかったお金は、すべて貯金でまかなってきたのですか?

伊川:そうです。だ、部屋の工事と電気工事、本棚くらいで、それほど大きな額が動いているわけではなくて。ホットカーペットを敷こうとか、個人事業主になるための手続とか、ウェブサイトとか、そういうお金がちまちまとかかってくるんですけど

ーーこの本屋では、どんな棚づくりをしよう考えていますか?

伊川:まだちゃんと決められていなくて。いまある本は先週末に、自分の部屋の本棚にあったものを、箱から出した順番に棚に入れました。これから値付けをするので、そのときにいろいろと変えるつもりです。当たり前のように「この本の隣にはこれがくるよね」っていうのばかりにしなくてもいいかなとは思いますい空間なので。出会った本、たまたま視界に入った本を見てもらえればいいかなと思っています

ここにこの本があるだろう」って思ってくる人はほとんどいないと思うんです。大きなお店だったらそういう探し方もあるんでしょうけど。それよりは、「なんかないかな」を広げるほうが楽しいと考えています。厳密な文脈というよりは、作為しないほうがいいのかなっていう思いがあります。

ーー新刊はまだしも、自分の好きな本を売ることについて、寂しさのようなものはありませんか?

伊川:私は、本を読んでいると文章を書きたくなっちゃうんですよ。だから、実は本を読むのがすごく苦手で。読み切れていない本がすごく多いんです。だから代わりに読んでくれる人がいるなら、それでもいいかなと思っているんですけど。

いま考えているのは、ここで買ってもらった本を読んで、感想文なり、本に対する返事じゃないですけど、そういうのを持ってくるとなにかのポイントが増える仕組みとか。この店だけで使えるコインをあげるっていう。書感想文ファイルみたいなのを用意しておいて、他の人も見られるようにしておとか。そういう妄想はしています。

ーーお店の経営という面では、どう考えていますか?

伊川ここで本を売るだけで生きていけるとは、まったく想定していないです。他の仕事もやって、当面は水木金土の午後に開けようと思っているんですけど、それも他の仕事の兼ね合いで、ずらす可能性もあって。お金の流れとしては、本屋専業とは思っていないんです。きる限りやっていこうっていう。

よくある話ですけど、たとえば小さなワークショップをやろうかなということは考えています。「回文」の書き方の講座をやらせてもらったことがあって、回文を布教したい気持ちもありますし。いろんな人をこの場所に巻き込めたら楽しいなって

ーー稼げるようなお店でないとすると、「ほんやのほ」としてのゴールは、どこにあるのでしょうか。

伊川:そもそも、「ほんやのほ」は完成しないと思っているんです。完成を目指すよりも、どんどんアップデートをしていきたいなと。本だけじゃなくて、仕組み自体も。いろんなものを更新したくて。そのためには、店に人がないといけない。ろんな人がたまに思い出して来てもらえたらうれしいです。私は、本屋は本が動いていることが重要だと思っているんです。本が動いているっていうことは、人がちゃんと動いているっていうことだとも思っているので

この店に置いてある本が、全部好みってことはきっとないと思うんですけど、「これはちょっとよかったから、また行ってみようかな」って思ってもらいたい。「店の本にはあまり興味がないけど、ワークショップがおもしろかったな」とか。そういう、いろんな切り口を用意して、そこから何かを受け取ってもらって、その人の思考がほんのちょっと変化したり、それによってアウトプットとして、説でも感想文でも、日記でも絵でも、そういうものが生まれてくるとめちゃくちゃ幸せだなあって思います。そういうきっかけが作れたら、成功かもしれないですね。

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