空中庭園の裏に広がる「天空の森」で古代の記憶に触れる~大都会の「黙考スポット」

木々の間からのぞいているのは増上寺

大都会の喧噪から離れ、ゆっくりと物思いにふけることができる「黙考スポット」。前回のコラムでは、東京都心の港区でも有数の「黙考スポット」である増上寺とプリンス空中庭園を紹介したが、今回はそのプリンス空中庭園から見えた森について紹介する。

小さな白いチャペルで「メルヘン気分」に浸る

爽快な青空を全身で感じることのできるプリンス空中庭園。増上寺の裏の高層ホテル「ザ・プリンス パークタワー東京」の敷地内に広がる緑の芝生が心地よい。僕は自分の体から徐々に都会の毒素が抜けていくような錯覚を覚えた。

空中庭園の芝生は小学校の校庭ほどの広さで、全体をぐるりと見渡せる。深呼吸しながらゆっくり首を回すと、草陰の隙間から純白の洋風な建物が見えた。毎日の都会暮らしで灰色のビルしか認識できなくなっていた僕のくすんだ瞳は、その純白さに気づかず、思わず素通りしてしまいそうになる。

近づいてその純白な建物を確認すると、小さなチャペルだった。「芝公園プリンス ガーデンチャペル」というらしい。真っ白なチャペルの隣は小さな広場になっていて、垣根に囲まれている。その内側には色とりどりの花が咲いていた。普段見かけない紫色の蝶も舞っていて、メルヘンチックな雰囲気だ。

休日は結婚式で賑わうのだろうけど、平日は人が訪れる気配がない。 チャペルの脇の小さな椅子に腰を下ろして、気持ちを落ち着ければ、「ひとりの世界」に没入できる。

平日のチャペルでメルヘンチックな気分に浸るオッサンというのは奇妙な光景であり、勇気のいる行動だったけれど、そのリスクに値する気分の高揚が味わえた。時間があればここでフランス文学でも堪能したい、とも思った(人生で一冊も読んだことがないけれど)。

プリンス庭園の奥に広がる「森」

だが、実は、黙考スポットのメインディッシュはここからだった。ひとときのオアシスを噛み締めつつ帰路につこうと重い腰を上げると、その奥にさらに不思議な空間が広がっていたのだ。

プリンス空中庭園にある純白なチャペルの裏手に、「森」のようなものが広がっているのが見えた。

「都会のど真ん中に森? いやいやいや。それはおかしい。黙考スポットを探し続けるあまり、僕の脳が「メルヘン病」に侵されて、幻覚を見ているのかもしれない」

僕はいつのまにか異世界に入って、白昼夢でも見ているのだろうか?

チャペルの奥に広がる「森」

だが、確かにそこには「森」があった。その森はプリンス空中庭園よりも小高く盛り上がっており、小さな丘のような存在感があった。田舎に行けば丘のように見える森なんてよくある光景だが、東京の真ん中で見たのは初めてかもしれない。

「空中庭園」の奥にあるため、まるで宮崎アニメに登場する「天空の城ラピュタ」のように見えた。こんもりした森が空中に浮かんでいるかのようだった。

都会では違和感のある、大きくて、深い緑に圧倒される。この「天空の森」に、一体どこから入ればいいのだろうか。入口がわからない。垣根が城の石垣のようにその森を囲っている。

周囲を歩いていると、チャペルの裏の垣根に人ひとりがようやく通れるような隙間があった。そこが異世界への扉なのかもしれない。

都会の真ん中で「風の音」を聴く

チャペルを抜けた小道からその森に立ち入ると、一段と空気が変わったように感じる。僕は木々に囲まれながら、枝にしがみついた緑の葉っぱが風に揺られて擦れ合う音を聴いた。

大都会・東京で働き始めて20年間、風の音なんて聞いたことがなかった気がする。目の前には、石器時代に古代人が作ったような手作りの石段があった。そこを登りながら、20世紀少年のごとく、幼少の頃の冒険体験を思い出す。

一体、ここはどこなんだろう。スマホでググってみて、驚いた。どうやらこの森は、「芝丸山古墳」という5世紀頃に作られた前方後円墳のようだ。なんと港区に1500年以上も昔の古墳が残っていたのだ。

森の中を抜けて丘のてっぺんにたどり着くと小さな広場になっていた。ベンチがいくつかある。木々の隙間から増上寺や東京タワーが垣間見えて、都会の狭間に紛れ込んだような気分だ。

広場は木陰になっていて、風が涼しい。丘の上には人影がない。ここでゆっくりとSF小説なんかを読んでみてもいいかもしれない。なんとも素晴らしい黙考スポットではないか。

森の木々や自然の風に癒やされて丘を降りると、「芝東照宮」という小さな神社があった。「なるほど。ここら一帯はパワースポットだったんや…」。思わず関西弁で独り言をこぼす。赤い鳥居をくぐって、大きなイチョウの木を眺めながら、神様にお祈りしてみる。

「神様、本日はありがとうございました。しばらくの時間でしたが、この地でひとり、心を安らげることが出来ました。仕事に戻ります!」

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