「私は子育てに向いていない」理想の母親像に苦しむ女性が手に入れた「解放」

「私は子育てに向いていない」理想の母親像に苦しむ女性が手に入れた「解放」
女性用下着「ふんどしパンツ」を販売するブランドを立ち上げたサチコ

子育てが苦手で、自分には向いていないと思う。苦手なことを頑張ってやっているのに、誰も褒めてくれない。いい母親になれないのに、子どもを産んでしまった――。

「女性の自由と孤独」をテーマに、女装する小説家・仙田学がさまざまな女性にインタビューするこの連載。今回は、子育てに悪戦苦闘しながら、「ふんどしパンツ」というユニークな女性用下着を販売するブランドを立ち上げたサチコ(41)に話を聞いた。

理想の母親像に苦しんだ彼女が「解放」されるきっかけはなんだったのだろうか?

不登校になった息子

「長男が不登校になったのは、中1の途中から。最初の2、3カ月は毎日のように長男から責められ続けました。なんとかしてあげたいと思ってずっと一緒にいたんですけど、子どもにとっては、私がそばにいることで『自分は悪いことをしている、お母さんを苦しめている』という思いが余計に強まったんだと思います。ひどい暴言をいっぱい吐かれましたし、取っ組み合いのケンカを何度もしました」

不登校になった長男から責められるたびに、「いい母親じゃなかったからこうなったんだ、自分のせいだ」とサチコは自分を責めた。息子の暴言は、サチコ自身の心の声を代弁しているかのよう。夫は、息子が学校に「行っても行かなくてもどっちでもいい」という考えだった。スクールカウンセラーに相談しても、原因探しをして学校に戻らせようとするだけだ。

「愛する息子がどうにかなっちゃうんじゃないかっていう、不安感でいっぱいでした。なんとかしなきゃって、思えば思うほど苦しくなって、それが子どもを苦しめることにもなってたんだと思います。散々ぶつかりあって、とことん息子と向きあううちに、私は少しずつ諦めていったんだと思います。たとえば不登校の子どもが行く学校に通わせたこともあったんですけど、息子は行きたくないときには絶対に行かない。でも自分が行くと決めた日にはちゃんと行くんです。行ってもいいし、行かなくてもいいっていう選択肢を与えてあげたら、子どもは自分で考えて行動するんですよね。不登校をなんとかしなきゃって思いを私が捨てたら、子どもも楽になったみたいです」

子どもが学校に行かない状況をなんとかしなければならない、という思い。サチコにとってそれは、いい母親でいなければならない、という思いこみでもあった。

「私の母がそういう人だったんです。仕事をしながら、家事も育児も完璧にこなしてました。同じようにちゃんとした母親にならなきゃと思ってました。でも、当時はわからなかったけど、母もかなり無理したり我慢したりしてたでしょうね」

夫の転勤で失った仕事と人間関係

大手機械メーカーで営業の仕事をしていたサチコが長男を出産したのは26歳のとき。臨月まで働き、1年間の育児休業を経て仕事に復帰した。30歳で次男を出産したときも、1年後に復帰した。

「出産直後は自分の時間が取れないことが辛かったです。夫も父親としての自覚を持てるようになるまで時間がかかったので、育児のサポートをしてくれなくて。ひとりで育児をするのはとても不安でした。自分の判断に子どもの命がかかってくると思うとプレッシャーで……。子どもが生まれるのは楽しみだったし、育児書をたくさん読んで勉強してたんですけど、生まれてみるとその通りにいかないことばかりでした。

自分は子育てに向いてないって実感しました。真面目すぎて、教科書通りにいかないことにストレスを感じやすい人は向いてないのかもしれないですね。育休明けに仕事に戻ろうとしたら、『子どもがかわいそうだから3年くらい休んだら?』とか『辞めたら?』といろんな人から言われました。言ってきたのは、男性ばかりでした」

仕事が好きで、仲間と一緒に働く会社員生活が楽しかったというサチコ。ところが36歳のとき、夫の転勤にともない大阪に引っ越すことになり、仕事を辞めた。仕事も人間関係も失って、後に残ったのは家事と育児という、一番苦手なものだった。

ふんどしパンツとの出会い

ふんどしパンツ02
ふんどしパンツを開発するサチコ

「家事と育児に全てを捧げてしまうのは怖かったです。自分がなくなってしまうみたいで……。時間を見つけては編み物をしたりアクセサリーを作ったりして、自分を保とうとしていました。ふんどしパンツに出会ったのはその頃です。たまたまSNSで知って購入して、履いてみたらすごく楽で、びっくりしました。ただデザインがよくなくて。自分でデザインしたものを、人に頼んで作ってもらいました。あるイベントにオリジナルデザインのふんどしパンツを持っていったら完売したんですよ」

既存の女性用下着は体を締めつける構造になっていて、「交感神経を刺激する作用がある」とサチコは言う。そのためリラックスできなかったり、不眠の原因のひとつになったりすることもあるのだとか。ふんどしの構造を取り入れた女性用下着「ふんどしパンツ」はそのような締めつけから女性を解放する。

サチコは本格的に事業を立ち上げて、オリジナルのふんどしパンツを開発・販売することにした。女性がリラックスしてもらえるようにと、ブランド名は「relaxty」と名づけた。

ふんどしパンツ01
サチコが開発・販売するふんどしパンツ「relaxty」

「とにかく履いていて楽なんですよ。足のむくみとか体の変化にも気づけるし。会社勤めをしていたときは、仕事が楽しいことが幸せって思ってましたけど、幸せってもっと感覚的なものかもしれないですね。自分の体をよく知ることはその一歩だと思います」

長男が不登校になったのは、ふんどしパンツの販売が軌道に乗り始めた矢先のこと。自宅で仕事をしていたので、一日中息子と顔を合わせることになった。息子と向き合ううちに、自分のこともよく考えるようになったとサチコは言う。ふんどしパンツとの出会いと息子の不登校はサチコにとって、自分のことを以前よりよく知るきっかけになったのだ。

「家族とはこうあるべきだという理想は、いまはないです。お互いに思いあっていれば、理想なんて必要ないんじゃないかな。すれ違ったりケンカしたりすることはあっても、大きな不満はないですし」

理想を捨て、どうにもならないことについては諦めること。そして自分についてよく知ること。女性としての幸せはそこにあると、サチコは笑った。

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