夢は「日本百名段」を選定すること 「階段マニア」の知られざる世界

東京都大田区の馬込駅近辺の階段を紹介する真人さん

建物の階段や町中にある階段……。普段、私達は何気なく階段を使っていますが、世の中には階段を愛してやまない「階段マニア」がいることをご存知でしょうか。

登山家ならぬ登“段”家の真人さん(39)もその一人。特に「町中にある階段」を愛好しています。階段を見るために全国を旅してまわり、インスタグラムには厳選した階段の写真を360枚近く投稿。フォロワーは5300人以上に上ります。

同じく“階段好き”の筆者にとっては、この道の大先輩。さっそく連絡を取ると、階段巡りに同行させてくれました。

「家庭があったら、この趣味を続けるのは難しい」

横須賀の住宅地

11月某日。真人さんと都営浅草線の馬込駅(東京都大田区)で待ち合わせました。この日は、ここから住宅地を通って、東急池上線池上駅(同区)まで歩きます。およそ1時間から1時間半ほどの道のりです。

「この辺りは、坂が非常に多く、『馬込九十九谷(まごめつくもだに)』と呼ばれています。かつては、川端康成や三島由紀夫ら文人が多数居住していた『馬込文士村』もありました」

辺り一帯が起伏に富んでいるため、ゆるやかな上り下りの道が続きます。中には、左右が上りと下りに分かれているY字路も。こうした複雑な地形のため、町のいたるところに階段があります。階段に出くわす度に、2人で足を止めて「この階段いいですね!」と言いながら写真を撮りました。傍から見たら、かなり怪しかったかもしれません。

階段に出会う度に足を止めて撮影

真人さんが階段にハマったのは、今から十数年前、20代前半の頃だったといいます。一体なぜ階段にハマったのでしょうか。

「初めは『地形』や『坂道』に興味を持っていたんです。地形が好きな人で一番有名なのが、タモリさんですね(笑)。地形って『こういう地形だったから、ここにお城を建設した』といった歴史が見えてくるので、とても面白いんですよ。ただ、地形や坂道って、見た目は何の変哲もない道であることが多い。そのため、作りやビジュアル自体が面白い『階段』に徐々に興味が移っていきました。10年くらい前から、階段のために地方に遠征するようになりました」

長崎の階段と夜景

これまで北は室蘭から、南は長崎まで、全国300か所以上の土地を訪れて、階段を撮影してきました。普段は東京都内の会社でSEとして働いているため、階段を訪れるのは週末に限られます。

「遠方に行く時は、金曜日の夜に夜行バスに乗って、土曜日の朝に現地に着いて探索。日曜日の夜に夜行バスに乗って、月曜日の朝、東京に着いたその足で会社に行くこともあります」

キツイのは旅程だけではありません。旅先によっては、宿泊施設がなくて野宿をすることも。

「今年の10月に島根県松江市の六坊(むつぼ)という集落に行ってきました。唯一の交通手段であるコミュニティ・バスが週末は運行していませんでした。仕方なく、隣の魚瀬(おのぜ)という集落で野宿して、六坊まで歩いていきました。六坊には自販機が1台あるだけで、商店なんてありません。食事は、携帯していたパンとソーセージのみでした」

こうした過酷な旅を楽しむ真人さん。階段巡りは「ひとりに限る」といいます。

「僕はひとりで極限を追求したいんです。階段巡りをしている時は、夜明け前から歩き始めることもありますし、夜景を撮影するために野宿することもあります。離島から出る船の最終便に走って飛び乗るなんてことも……。こうした旅はひとりでなければできません。同じ趣味の友人がいても、ひとりで巡ると思いますね」

真人さんは現在、独身。「家庭があったら、この趣味を続けるのは難しいでしょうね」とこぼしていました。確かに、結婚していたら、毎週末のように丸ごと家を空けるのは難しいかもしれません。

日本百名山ならぬ、“日本百名段”を作るのが夢

呉にある両城の200階段

これまで数え切れない程の階段を巡ってきた真人さん。おすすめの階段の一つが広島県呉市にある「両城の200階段」だといいます。

「この階段は、映画『海猿』のロケ地になっています。海猿たちが、ボンベを抱えてこの階段を駆け上がるという訓練のシーンがあるんです。階段の中ではかなり有名な部類で、ベタかもしれませんが、やはり魅力があります。まずは絶妙なカーブの感じがいいんですよ。幅も広すぎず、狭すぎず、ちょうどいいんです。コンクリートが一部、崩れていたり、手すりが錆びているのも味がありますね。上ったところから見える景色がとてもよく、夜景もキレイです。呉駅からも近いので、3回は行ってますね」

全国の階段の中から、こうした“推し階段”を100個選んで、「日本百名段」を作るのが真人さんの夢です。

「僕は登山もするのですが、深田久弥さんが選んだ『日本百名山』というのがあります。でも、名山って他の人に決めてもらうものでしょうか。僕は『日本百名段』を選びたいと思っているのですが、それはあくまでも僕にとっての百名段。他の人も自由に自分なりの百名段を選んでほしいと思っています。皆がそれぞれにおすすめの階段を語り合う世界になったら最高ですね」

雪の降り始めた小樽で

私が階段巡りに同行させてもらった翌週、真人さんは北海道小樽市を訪れました。雪が降り始める11月下旬は、雪化粧した階段を楽しめるのだとか。来年以降は、これまであまり足を運んでこなかった四国・九州・沖縄の階段を巡るそうです。「日本百名段」ができるのもそう遠くないかもしれません。

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