築地から豊洲へ 「市場」に通い続ける「片手袋研究家」が思うこと

築地から豊洲へ 「市場」に通い続ける「片手袋研究家」が思うこと

東京の築地市場が幕を閉じ、新たに豊洲市場が開場してから1カ月半が経ちました。

私はこの連載で何度か、「片手袋研究家」という特殊な立場から築地市場の魅力を伝えてきました。手袋を使う人が多い上に忙しい場所である築地市場は、日々沢山の片手袋が生まれる「片手袋の聖地」でした。そんな場所だからこそ、築地市場はいつまでも残ってほしかったですし、今でも移転のショックから完全に立ち直ってはいません。

しかし、私の本業は飲食業ですので、食材を仕入れるために、市場に通わなくてはなりません。そのため、築地に後ろ髪を引かれる思いはありますが、豊洲には開場直後から通っています。そんな私が開場から1カ月半が経った豊洲市場の感想を綴ってみようと思います。

交通の便はどうか

まずは交通の便から。開場当日(10月11日)には、豊洲市場へ向かう車の渋滞の列が話題になりました。しかし、私が最初に豊洲市場に足を踏み入れた10月16日は、スムースに市場に到着することができました。どちらかというと問題は帰り道で、豊洲から築地方面に向かう道は若干渋滞していたのですが、こちらも11月4日に環状二号線が暫定開通してからは改善されたように思います。

いまは、豊洲市場へ通うことにストレスを感じることはほぼないのですが、それは平日の午前7~8時ごろに都心からバイクで通う、小規模な飲食店の経営者である私の印象でしかありません。別の時間に通っている人や大型のトラックで大量に買い付けをする人、自転車や電車で通っている人の感想はまた違うかもしれません。

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まだ暫定開通前に撮った環状二号線

観光地としてはどうか

次に観光地としての評価です。現在、水産仲卸売場棟の入り口では一般客向けにパスカードが配られています。しかし、歩き回れるのは、仲卸の様子をガラス越しに見下ろせる3階の「見学ギャラリー」と、4階の「関連物販店舗」、そして「飲食店舗」と限られています。

築地市場も見学の制限はあったのですが、自由に買い物などを楽しめる場外市場がありました。場外がない豊洲に移転してから、市場の観光地としての魅力は減退したように感じます。

しかし、それも仕方のないことかもしれません。豊洲新市場は「閉鎖型」という考えのもとに作られました。つまり、商品を適切な温度で雨風から守る屋内型の市場ということです。不特定多数の観光客が自由に歩き回れない環境というのは、安全で衛生的な市場としては必要条件とも言えます。

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3階の見学ギャラリー
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見学ギャラリーからは水産仲卸売場の様子が見下ろせる
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4階の関連物販店舗。乾物などが買える
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飲食店舗エリア

移転はまだ終わっていない

交通と観光について感じたことを書きましたが、市場の移転は完全に完了したのではなく、まだまだ「移行期間」だと思っています。

開場直後に問題となった渋滞も緩和されていった(と私が感じている)ように、いま話題となっている悪臭や地面の陥没などの問題も改善されていくのかもしれません。

観光地としての魅力についてもそうです。マグロの競り見学については、来年1月からより臨場感のある専用デッキから見学できるようになるそうです。また、色々と揉めていた商業施設「千客万来」も東京五輪後に再び動き出すそうなので、まだまだ観光地としての発展の余地はあります。

不便だと感じる点は

開場からまだ1カ月半。決定的な評価を下すにはまだ早いですが、それでも現時点で感じる不便な点をあげてみます。

まず気になるのは、複数階層構造です。築地市場は基本的に階層に分かれていませんでしたが、豊洲市場は、鮮魚関係は1階、乾物などは4階など、階層に分かれています。これは、正直言うと面倒くさいです。まして青果棟に行くときは、一旦水産棟を出て、道路を渡り別の建物に行かなければならないのです。

このことは私が市場に行く楽しみの1つである「朝ご飯」にも影響しています。水産棟の場合、仕入れを行う1階から3階の飲食店エリアまでが微妙に遠い。しかも水産棟、管理棟、青果棟と、飲食店が3カ所に分かれてしまったため、築地時代に馴染みだった店がバラバラになってしまったのです。その日の気分で店を選び、チャチャっと食べるのが「市場飯」の良いところだったんですけどね。

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まるでショッピングモールのような階段フロア

また、「豊洲市場に通うことにストレスは感じない」と書きましたが、雨の日は別です。前述したように、私はバイクで仕入れに行っているため、雨の日はバイクを使用できません。市場が築地にあったときは、雨の場合、大きな荷物は配送に頼んで、細々したものは電車で買いに行っていました。しかし豊洲に移転してからは、立地的に公共交通機関で行くには時間がかかるようになりました。個人経営の小さな店にとっては少々厳しい市場であると感じます。

豊洲市場の良い点は

一方、良い点としては、何より清潔であるということでしょう。入り口には手洗い場が完備されていますし、トイレも沢山設置されていて、どこも綺麗です。

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清潔な手洗い場やトイレが複数完備されている

それと、お気に入りのスポットができました。水産仲卸売場の屋上庭園です。ここは絶対に行ってみる価値があります! ここが市場であることを完全に忘れてしまう芝生と緑のだだっ広い開放的な空間。

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水産仲卸売場の屋上庭園

東京でこれだけ気持ちの良い空間も珍しいのではないでしょうか? 運が良ければレインボーブリッジ越しの富士山、なんて絶景も見られます。

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レインボーブリッジ越しにそびえる富士山
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晴海あたりに乱立するクレーン群

屋上庭園から建設ラッシュの景色を見ていたら、「ああ、東京という都市、そして市場や流通。もしかしたら日本の漁業全体の変化の中に置かれているのが、豊洲市場なのかもな」と感じてしまいました。屋上庭園、思わぬ収穫でした。

市場が移転しても変わらないもの

市場が築地から豊洲に移転して、様々なものが変わりました。その一方で、変わらないものも確かにあります。それこそがまさに、片手袋です!

築地という聖地を失ってから、私の片手袋研究はどのように変容していくのか、とても不安でした。しかし、最初に豊洲市場に足を踏み入れてわずか5秒。いきなり片手袋に出会いました。その後も、毎回行くたびに片手袋と出会っています。

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豊洲で見つけた片手袋第一号
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豊洲市場で見つけた片手袋

場所がどこになっても、市場というシステム自体が片手袋を生み出す巨大な装置になっていることをあらためて実感しました。

また先日、豊洲で働くおじさんがこんなことを言っているのが耳に入りました。

「こんなに綺麗になっちまって落ち着かないだろ? オレ、なんだか豊洲に来てからずっとカゼが治んねーんだよ」

この言い草、物凄く築地のオジサンっぽい! 市場で働く人たちは、築地の大きな魅力でしたが、しっかりと豊洲に継承されている。そう確信しました。

新しく歴史を積み重ね始めた豊洲市場。その変化や成長をこれからも見守っていこうと思います。

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