41歳男、ひとりで初めて「文学フリマ」に出店してみた

41歳男、ひとりで初めて「文学フリマ」に出店してみた
開場直前の「第27回文学フリマ東京」会場

「文学フリマ」に、ひとりで出店してみました。文学フリマとは、「自らが文学と信じるもの」のフリーマーケットです。小説や評論を中心とした同人誌即売会のようなものといえば、イメージしやすいかもしれません。

今回で27回目となる文学フリマ東京が11月25日、東京・平和島の東京流通センター第二展示場で開かれました。筆者はこのイベントに初めて「出店者」として参加しました。事務局によると、過去最多となる900以上のサークルが出店。来場者数は、速報ベースで約4300人。こちらも過去最多とのことです。

出店者は、当然のことながら準備が必要で、イベント中もコミュニケーション能力を求められたり、落ち込みそうになったりと、疲れる一面もありましたが、総じて楽しい経験となりました。

自作の私小説を「1冊5円」で頒布していた男性の思い出

筆者が初めて文学フリマを訪れたのは、10年以上前。東京・秋葉原の東京都中小企業振興公社で開催された回でした。今でもはっきり覚えているのが、70歳を過ぎた男性が、ひとりで自作の私小説を頒布(はんぷ。同人誌の場合はこの言葉を使うことが多いようです)していたことです。白髪で痩身のその男性は、野田さんという方でした。

奥付に書かれたプロフィール欄によると、野田さんは、大手新聞社や広告代理店を経たのち、仕事をいくつも変え、当時は清掃員をしていました。そんな彼は、人生の一場面を私小説としてつづり、そのコピー本を1冊5円で「頒布」していたのです。

「世の中には変わった人がいるなあ」。そう思って何冊か購入しました。今回、筆者がひとりで出店しようと決めたのには、野田さんの姿が脳裏に焼き付いていたからでしょう。

出店するにあたって、文学フリマの関係者に野田さんの消息について尋ねてみたところ、文学フリマに2回ほど出店したのち、病気で亡くなったということでした。関係者のあいだでも、野田さんは個性的な人として印象に残っていたとのことです。

第27回文学フリマ東京
「文学フリマ」の見本誌コーナー。ここでじっくり作品を読むこともできる

タイトルだけで中身がない自作の「新書」で挑んだ

筆者が用意したのは、まったくの思いつきで作った本『世界から戦争をなくす方法』です。見た目はよくある新書そっくり。ですが、中身はただの白い紙です。印刷会社が、印刷の参考用に作る「束(つか)見本」のようなものです。

デザインを印刷会社に持ち込んだとき、「さしつかえなければ……この本にどんな意味があるのでしょうか?」と質問された、いわくつきの1冊です。

タイトルだけで中身がない。文章を書く者として、いわば「逃げ」の行為なのです。しかし、ここには「そんなものなどないのでは?」「答えは読者が見つけ出してほしい」などといったメッセージを込めたつもりです。本の制作費は、20部刷って、2万数千円でした。

第27回文学フリマ東京
タイトルは立派だが(左)、中身のない本(右)

当日は、ほぼ手ぶらで会場に向かいました。印刷会社のなかには、文学フリマの会場に直接納品してくれる便利なサービスを実施しているところがあるのです。当日まで本を手にとることができないデメリットもありますが、会場のブースに置かれたダンボールを開けたときの感動は、ひとしおでした。

来場者とのコミュニケーションが必要だった

筆者のブースは、2フロアにわかれた会場の2階。左端手前の「島」の中間あたりでした。開場する直前、主催者からアナウンスがあると、出店者たちから拍手が起きました。お隣のサークルと挨拶を交わした際、1冊いただいたので、私のほうからも「どうぞ」と1冊差し出しました。

その様子は、オタク文化を描いた漫画『げんしけん』での同人誌即売会の模様に似ていて、ぐっと気持ちが高揚しました。また、17時でイベントが終了したのち、出店者が協力して机やパイプ椅子を片づけるのも、一体感がありました。

ただ、筆者の本は1冊も売れませんでした。

自分が来場者だったとき、出店者から呼びかけられるのが苦手だったので、途中で箱に代金を入れてもらう「無人販売」形式にしたのですが、結果として裏目にでたようです。適度な距離感を保ちつつ、来場者とコミュニケーションする。ひとりだと「照れ」が出てしまいがちですが、それはとても大切なことだと気づきました。

第27回文学フリマ東京
逆に、近寄りがたい雰囲気を出してしまった「無人販売」形式

また、なかばジョークのような作品であるにもかかわらず、申請するジャンルを「評論」としたことも失敗でした。まじめな本だと思って手に取った人が、落胆して去っていくのを何度か見ました。いや、それ以前に、500円という価格設定も強気すぎたかもしれません。

それでも、筆者のツイッターに「面白い」「自分ならこう使う」などとコメントをくれた方がいたり、隣のブースの方には「細かいところまで凝っていますね」と、本としての出来を褒めてもらったりと、悪いことばかりではありませんでした。筆者のほかにも何名かひとりで出店している方の姿もあり、勇気づけられました。

今回の反省を生かして、またいつか、ひとりで文学フリマに出店し、野田さんのように我が道をゆく人物になることができればと考えています。終了まぎわ、流通センターから見た夕陽と、帰り道にずしりと感じた在庫の重みは、一生忘れられないものとなるでしょう。

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【追記】当初の記事で、開場直前の様子を描いた記述について誤解を招くような表現がありましたので、一部を修正しました。

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