1本2980円の「オーダーメイド耳かき」 70年以上つづく巣鴨の露店で作ってみた

1本2980円の「オーダーメイド耳かき」 70年以上つづく巣鴨の露店で作ってみた
3代目の店主「原田の耳かき」白濱彰朗さん

オーダーメイドで、その人の耳や好みに合った「耳かき」を制作して販売する露店があります。場所は、東京・巣鴨。「おばあちゃんの原宿」とも呼ばれるその街の、象徴的な存在である「とげぬき地蔵」(高岩寺)の境内で店を構えています。

筆者は、耳かきが好きです。道具としての耳かきではなく、活動としての耳かき、つまりは耳そうじが好きです。先日、テレビを観ていたら、ニューヨークで働く日本人女性が「ときどきランニングをして頭を空っぽにしないと疲れちゃう」と語っていました。筆者の場合、ランニングが耳かきにあたります。

スケールは小さいですが、効果は同じ。数十秒間ぼーっとできる幸せなひとときです。ただ、「やりすぎはよくない」という説も知っています。ですから、ほどほどにしています。

そんな筆者が巣鴨の「耳かき」の店を訪ねると、店主の白濱彰朗(しらはまあきお)さん(38)が、細く割った竹を熱し、先端(かき出し)を曲げる作業をしていました。なんとなく、匙(さじ)の形に削って作るものだと思っていたので、驚きました。コテ状の竹の先端が、ぐにゃりと曲がります。

オーダーメイド耳かき
熱した竹の先端(かき出し)を曲げる作業。

この店では、サラシ竹とスス竹の2つから素材を選ぶことができます。サラシ竹は、干して白くなった竹です。一方のスス竹は黒っぽい竹。その名の通り、煤(すす)にさらされた竹です。

「スス竹は、古民家の藁(わら)ぶき屋根で使われていたもので、茶杓(ちゃしゃく)や茶室の花入れ、尺八などに使われます。これで作った耳かきは、“耳あたり”が違ってきます」(白濱さん)。

「耳かきが好きそうなお客さんには、挑戦者のような気持ちで」

耳かきは、1本980円から。素材とデザインによって異なります。高価なスス竹を使い、両端に大小のかき出しを作った耳かきは、2980円です。せっかくなので、2980円のものを注文しました。自腹です。

白濱さんは「原田の耳かき」を、ひとりで営業しています。店には70年以上の歴史があり、白濱さんで3代目。初代と先代は実の親子で、当時は「馬木(うまき)の耳かき」でした。

約20年前、白濱さんはおじの原田さんの紹介で店を手伝うようになりました。手伝い始めて2年ほど経ったころ、先代が亡くなりました。跡継ぎがいなかったため、白濱さんが店を継いだのです。紹介者の名前から「原田の耳かき」を名乗るようになって、約18年が過ぎました。

オーダーメイド耳かき
サラシ竹の耳かき(左)と、スス竹の耳かき(右)

「耳を見せてください」。白濱さんは注文を受けるとまず、お客さんの左右の耳を見ます。筆者の右耳は、左耳に比べて少し入口が狭くなっているそうです。左右で耳のかたちが異なっていることなど、考えたこともありませんでしたが、左右同時に触ってみると確かに違います。

白濱さんは、筆者の耳かきの頻度や好きな耳かきのタイプを尋ねてきました。筆者が「先端のかき出しが薄いものがいい」と告げると、作業開始。小刀で竹を削ったのち、紙やすりをかけはじめました。

「これでどうでしょう?」。数分でできあがりました。

試してみると、大小のかき出しのうち「大」のほうが右耳にフィットします。「耳あたりは、もう少し柔らかめがいいですか?」。白濱さんの問いに「そうですね」と答えると、すぐに調整してくれました。再度、耳に入れてみると、耳かきが触れる感触が明らかに違います。

「お客さんの反応がダイレクトにわかるのが、この商売の面白いところです。耳かきが好きそうな人がやってくると、『満足させてやろう』と挑戦者のような気持ちになるんです」(白濱さん)。

オーダーメイド耳かき

耳かきとしては高価な1本ですが、10年、20年ともつのだと、白濱さんは言います。遠方からこの耳かきを買うために巣鴨を訪れる人もいるのだとか。「1年、2年と経ってから、『良さに気づいた』と言いに来るお客さんもいます(笑)」。他人に束縛されないこの仕事が気に入っているとのことです。

開店時間は、朝10時ごろから「とげぬき地蔵」が閉まる17時ごろまで。「公務員みたいな勤務時間です」と、白濱さんは笑います。

「この仕事をやっていくなかでの『自分ルール』は?」。そう尋ねると、「ルールというほどのものではないですが・・・」と前置きしたうえで「女性のお客さんを『お姉さん』と呼ぶことです。『お母さん』とか『おばあさん』とは呼ばないようにしています」と、いかにも巣鴨という土地柄らしい答えが返ってきました。

オーダーメイド耳かき
筆者の耳に合わせて作ってもらったオーダーメイドの耳かき

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