「姉妹で一緒に性風俗店の面接を受けた」売春街に生きた女性たち~沖縄・東京二拠点日記(第7回)

「姉妹で一緒に性風俗店の面接を受けた」売春街に生きた女性たち~沖縄・東京二拠点日記(第7回)
かつて沖縄有数の売買春街として呼ばれた宜野湾市の真栄原新町

約10年前から沖縄と東京に拠点を置いて、二つの性格の異なる土地で暮らす生活を続けている。沖縄の暮らしを楽しみながら取材し、目の前で起きるさまざまな出来事に、ときに悩みながら原稿を書く――。この連載コラムでは、そんな日々を日記風に書き記している。第7回は、前回に続き、9月出版のノンフィクション『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きたものたち』(講談社)の取材にまつわる思い出をつづる。

姉妹で同じデートスナックで働いていた

那覇市内の辻地区にある「デートスナック」でひとりで飲んでいたとき、私は、姉妹で一緒に働いていた30代の女性ふたりと知り合ったことがある。彼女たちは、沖縄有数の売買春街として知られた宜野湾市の「真栄原新町」で働いた経験があると言った。姉妹はふたりで働ければさびしくないし、一緒に面接を受けて店に所属したと、私に教えてくれた。

辻で姉妹が働いていた店はだだっ広いが、薄暗かった。カビくさい店内はデリバリー風俗の待機場所にもなっていて、次々に女性たちが呼ばれていく。

私が行ったときは、なぜか姉のほうが呼ばれて店を出ていき、一時間ほどして仕事を終えた彼女が髪を少し濡らしたまま戻ってきた。その間、私は妹のほうと話をしていた。

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姉妹が働いていたこともあるという宜野湾市の真栄原新町の現在の姿

酒を飲むだけでは店にカネが落ちるだけ。テーブルについてくれた女性の懐には入らないシステムになっている。最初から「酒を飲むだけ」の目的で来ている私のテーブルについた女性は、仕事が入ると「ごめんね。行ってきます」と、席を立って店を出て行く。

私は、近くにある「ジョージレストラン」でハンバーガーを買い込み、彼女たちへの差し入れにしていた。そのうち、気が合うようになった妹のほうと、居酒屋などで酒を飲むようになった。

姉妹とも二十歳そこそこで結婚した。だが、「夫が働かないし、酒を呑んで暴力をふるう」ので、愛想を尽かして離婚したのだという。そんな元夫への愚痴ばかりを私は聞かされていた。彼女たちは子どもを親に預け、「スナックで働いている」とごまかして、デートクラブに出勤してきていた。一方、私はそのうち「インタビューをさせてほしい」と頼み込むつもりだった。

ところが、あるとき、妹から「横浜の看護専門学校に通うことになったから、沖縄から横浜へ引っ越した」と連絡があった。私は横浜の中華街で待ち合わせることにした。

食事をしながら「何を勉強するのか」とたずねると、妹は次第に口ごもり、ウソをついていたことを告白した。彼女は川崎の風俗街・黄金町で働くためにやってきたのだった。当時は、黄金町も日本に残る「ちょんの間」街の一つだった。その黄金町も2005年には、神奈川県警の徹底的な摘発により姿を消してしまうのだが・・・

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いまではゴーストタウンのようになった宜野湾市の真栄原新町

狭い沖縄だと「顔バレ」してしまう

「沖縄だと、狭い社会だから顔がバレちゃう可能性があるからさ。沖縄を出たことがなかったから、出ようと思った。内地で稼いで仕送りをしようと思っているよ。デリヘルみたいなかたちだとなんか怖いし、沖縄でも、ちょんの間がどんどん減ってきているから、内地の大型店舗のほうが安心かなと。できたらオトコも探したいな」

中華街で彼女はそんなことを話していた。

その数日後、彼女から郵便物がぼくの事務所に届いた。朝、郵便ポストに、ピンク色のリボンでデコレーションした袋が入っていたのだ。袋に名前が書いてあったから彼女からのものだとわかったが、若干の気味悪さを感じながら、おそるおそる開封してみた。

開けてみると、聞いたことがない仏教系の新興宗教の冊子が何冊か入っていた。それを読むと幸せになれる、人間の業のようなものがなくなるというようなことが、手紙に丁寧な字で綴られてあった。

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数年にわたる取材の成果をまとめた『沖縄アンダーグラウンド 売春街に生きた者たち』

私はこれをどう扱ったらいいものやら困惑したが、しばらく後に電話をかけてみた。だが電話は使われておらず、連絡がつかなくなってしまった。私の手元には新興宗教の勧誘冊子だけがのこった。その後も、私は何かきつねにつままれたような感覚につきまとわれ続けた。

黄金町はもう存在しないから、そこにはいないはずだ。別の町に流れたか、あるいは沖縄に帰っていったのか。彼女も過酷なセックスワークの中で、懸命に人生の探し物をしていたのだろう。

その後、彼女と知り合ったデートスナックのオーナーに消息を尋ねてみたことがあるが、姉妹ともいまは連絡がつかないという。ただ、「また真栄原新町か、吉原(沖縄市)あたりに戻ったんじゃないか」とだけ教えてくれた。オーナーの言葉にも真栄原新町や吉原は、性風俗の世界で働く女性にとっての「最終地点」的なニュアンスが込められていたが、その時点ではその二つの街も黄金町と同じ運命を辿ろうとは思っていなかったはずだ。

沖縄の二大売春街と呼ばれた真栄原新町と吉原。散発的な摘発があるにはあったが、壊滅することはないだろうという楽観的な見通しが大方だった。しかし、その予想は外れたということになる。

その店のオーナーもいまは引退しているが、私の取材に応じてくれて、著書の『沖縄アンダーグラウンド』に登場している。

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