糞虫すごいぜ! 鹿のフンを食べるコガネムシの美しすぎる世界

奈良市内に糞虫の展示施設を開いた中村圭一さん=本人提供

「糞虫(ふんちゅう)」と聞いて、何を思い浮かべますか。糞(ふん)を食べるコガネムシです。そんな糞虫に夢中になった関西の「糞虫王子」が、糞虫だけを集めた展示施設を奈良市内にオープンしました。なぜ糞虫なのか、その魅力を聞きました。

糞虫の大きさは、国内では多くが1センチ足らずですが、大きいものでは3センチ前後になります。指先ほどの大きさです。色は黒や茶色が多いそうです。糞虫が動物の糞を食べて排泄すると、糞は細かくなります。その結果、微生物による分解が促進され、植物の養分になり、自然界に還元されるというわけです。

この糞虫だけを展示する「ならまち糞虫館」をオープンさせたのは、「糞虫王子」こと、中村圭一さん(54)です。

糞虫館に展示された「オオセンチコガネ」。写真のように青みがかったものは、一般的に「ルリセンチコガネ」と呼ばれます=中村圭一さん提供

「金属光沢のようにきれいだった」

出会いは中学2年生のときでした。友人が夏休みの宿題として提出した糞虫の標本を見て、「青く輝いている」と感動。その日のうちに、奈良公園に生きた糞虫を探しに行き、夢中になったそうです。「自然光を受けて金属光沢のようにきれいでした」

中村さんは京都大学卒業後、農林中央金庫に勤務。企業融資や事業再生などを手がけ、国内各地や海外で働きました。一方で、仕事の合間に中国やカンボジアなどを訪れ、糞虫を観察してきました。

「魅力的な糞虫に関心を持ってほしい」と、2016年に早期退職し、東京から奈良にUターン。今年7月、奈良市内にならまち糞虫館をオープンし、夢を実現しました。

糞虫館は、白を基調とした室内にカラフルなクッションが並び、おしゃれなデザイン。知らないで見たらギャラリーのようです。まさかここに虫が、しかも糞虫が展示されているとは思えません。よく見ると、クッションの上に小さな糞虫たちがいました。

「コンセプトは、虫に関心がない人でも入りやすいこと。一度見てもらえれば、糞虫がきれいだと分かってもらえるので、まず入ってほしいと考えました」

友人のデザイナーのアドバイスもあり、標本箱の中に糞虫をたくさん並べるのではなく、厳選した虫をおしゃれに展示することにしました。「ジュエリーショップやデートスポットのような雰囲気をイメージしています」と、中村さんは説明します

7月にオープンした「ならまち糞虫館」の内部

中村さんが採取した糞虫を中心に、国内の約50種類200匹がそろっています。また、アフリカや中南米などから集めた約500種類1000匹もいます。色がきれいだったり、ツノの形が変わったりしている種類がセレクトされています。中村さんのお気に入りは、ルリセンチコガネ。青みがかったオオセンチコガネがこう呼ばれています。

「きれいさで言えば一番ですね。落ち葉をかき分けて歩いている姿を見ると『やあ』と声をかけたくなります」。また、カブトムシのような角があるゴホンダイコクコガネも好きだそうで、ポイントは「グッと角がせり出していてかっこいいです」とのこと。糞虫館でじっくり見たくなってきました。

糞虫館の展示。カラフルなクッションの上に糞虫がいる

奈良公園は日本を代表する「糞虫の聖地」

実は奈良公園には、鹿が1200頭以上が生息し、排出される糞は毎日1トン以上と言われますが、公園が鹿の糞でいっぱいになることはありません。その「掃除」をしているのが糞虫なのです。

糞虫は鹿の糞を食べ、その食べかすが植物の養分になり、その植物を鹿が食べます。糞虫が食べることで、鹿の糞が小さくなり、より早く分解され、ハエの発生を抑えます。「奈良公園が糞だらけにならず、ハエが少ないのも糞虫のおかげなんです」(中村さん)

中村さんによると、日本に生息する約160種類のうち、奈良公園では50種前後が確認されています。野生の鹿や猿が生息する金華山(宮城県)が15種類、宮島(広島県)は14種類。それに比べると、奈良公園の種類はダントツに多いのです。

「奈良公園は鹿の糞だけではなく、芝生や林など自然環境が豊かなので、日本を代表する糞虫の生息地。ファンにとっては『聖地』なんです」

中村さんは奈良公園の特徴をそう話していました。

学生時代、糞虫を採取する中村圭一さん(右)=本人提供

そういえば、糞虫はどうやって採取するんでしょうか?

「糞虫がいそうな糞の塊を見つけたら、小枝とピンセットでほぐして探します」。何も知らない人が見たら驚く姿ですが、周囲への配慮も忘れていません。「『うんこを触っているのか』と思われないように、人がいたらその場からしばらく離れています」(中村さん)

ちなみに、展示してある糞虫はすべて、中村さんがきれいにしてから、ピンで留めていますので、衛生面も安心ということです。

中村さんは「糞虫は『汚い』とか『くさい』といった先入観をもたずに見てほしいですね」と語ります。「きれいに輝く糞虫を見てもらえば、その美しさに絶対に驚きますよ」

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