トイレは究極の「プライベート空間」 もっと遊び心を入れてみたら?

トイレは究極の「孤室」だ(イラスト・古本有美)

にわかトイレ品評会

住宅系メディアを運営しているという職業柄でしょうか、わりとトイレが気になってしまいます。商業施設や飲食店などのトイレに入れば、どこのメーカーのどのシリーズが設置されているのかをチェックしてしまいます。

どうやらこの習癖は私だけに限らないようで、同じように住宅に関わっている人間と飲み屋に行った時など、誰かがトイレから戻ってくるなり、「ネオレストだったよ(TOTO)」とか、「やっぱりサティスだった(LIXIL)」「なんとジャニスだったよ!(ジャニス工業)」などと、そこのトイレについて思わず語り合ってしまうこともしばしば。

このトイレという存在は、住まいにおいては最もプライベートなスペースの1つだと言えるでしょう。トイレトレーニング中の子供でもない限り、たいていトイレには1人で入ると思います。この究極の個室をどのように過ごすかは、ひとりを愛する者にとっては極めて重要な命題となり得るわけです。

つい長引きがちなトイレタイム

昔からトイレで新聞を読んだり本を読んだりすることで滞在時間が引き延ばされ、とかくお父さんのトイレは長くなりがちで家族からは疎まれがちだったのですが、そこに近年さらにパワフルなツールが登場しました。いうまでもなくスマートフォンの普及によって、トイレタイムの多彩さが一気に増したように思われます。

日経ニュースからメールチェック、動画視聴に至るまでトイレで可能になってしまったため、ついつい長居してしまいがちです。そもそもトイレにスマホを持ち込むこと自体、汚いからやらないという方々もいらっしゃるでしょう。このあたりは実態としてどうなのか、調査してみたい気持ちに駆られます。

私もついトイレでスマホを見てしまうのですが、やはりちょっとはしたない感じがしますし、ついどうでもいい情報を得てしまって満足してしまうので、これはいけないと思いつつも、なかなかやめられません。

いかにトイレを心地よい空間にするか

人によってトイレの頻度や滞在時間は異なるとは思いますが、毎日行くところ。それが何年も続いていくわけですから、実は家のトイレで過ごす時間というのは相当な長さになります。

ということは、トイレ内の空間設計や、そこで過ごす時間をいかに快適なものにするかというのは十分考察に値する主題だと思うのです。

そういえば以前テレビで、一日の大半をトイレで過ごす女優さんが紹介されていました。さすがにそこまでいくとやり過ぎだとは思いますが、トイレ空間を豊かなものにすることについてもう少し意識を向けても良いのではないでしょうか。

建築家が設計した家や大規模なリノベーションがなされた物件など、デザイン的にも工夫された住宅をいろいろと見学させていただいていますが、住宅全体のおもしろさに比べて、わりとトイレはオーソドックスであることが多いと感じます。

もちろん、限られた面積でリビングなどの空間をより広くしたいからトイレはどうしても最小限になりがちですし、予算も限られているからどうしても後回しにされてしまいがちなのは仕方のないことだとは思います。

しかし、住人すべてが必ず使う場所であり、また客人も使う場所でもあり、たったひとりになってそれなりの時間を過ごす場所であるからには、トイレ空間をいかに豊かに快適な場所にするかについて、家づくりにおいてもなるべく意識を向けられたらとも思います。

トイレ空間をアレンジする方法としてわりとよく見かけるのが、壁の色や素材を変えること。リビングなど広いスペースでは思い切って使えないような色や素材をトイレに取り入れるという、ちょっと遊び心のあるやり方です。こうしたちょっとしたひと工夫でも、トイレを楽しい空間にすることが可能です。

これぞ究極のプライベート空間!?

実は、トイレを究極のプライベート空間と見なす実例が存在します。東京・乃木坂にあるセラトレーディング株式会社のショールームのトイレです。

セラトレーディングとは、海外ブランドの水まわり商品、バスタブや洗面器、水栓などを取り扱っている会社で、乃木坂駅前にあるビルの1階と地下1階が東京ショールームとなっており、デザイン性の高い商品が多数展示されています。

このショールームのトイレがかなり振り切れているのです。便器がなかったらとてもトイレには見えません。さしずめ女子トイレは美術館、男子トイレは書斎といった趣なのです。

男子トイレのドアを開けると壁一面の本棚が目に飛び込んできます。その下に小便器があるのですが、これは世界的にも著名なデザイナーであるフィリップ・スタルクによるもの。よく見ると便器の中に小さなハエの絵が描いてあります。ここを狙って撃てということらしいです。

奥にはTOTOのネオレストが鎮座していますが、その周りには額装された写真が飾られていますし、手洗器の並びにはスタンドライトとモニターも置いてあります。実際に腰を下ろしてみましたが、なかなか落ち着く空間であります。

もちろん、ショールームということもあって、あえて思い切ったコンセプトにしているのでしょうが、トイレを単なる「作業場」としてではなく、ひとりきりで過ごすことのできる究極の「孤室」と見なすのであれば、こういった遊び心を多少取り入れるのも悪くないのではないかと思うのです。

とはいえ、こんなトイレが自宅にあったらますます立てこもる時間が増えてしまって、同居人から苦情が出てくること必至ですが。

 

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