効果音を聞き分けて「格ゲー」プレイする 「全盲」ゲームプログラマー

全盲ながら、オリジナルゲームの開発を続ける野澤幸男さん

慶應義塾大学環境情報学部に通う野澤幸男さん(21)は、盲目のプログラマーです。目が見えない状態にもかかわらず、オリジナルのゲームをプログラミングし、自身のサイトで公開しています。3歳のときに視力を失った野澤さんが初めてゲームを作ったのはわずか10歳、小学4年の冬でした。

今年、21歳になった野澤さんは、自らプログラミングしたゲーム『Screaming Strike』を、東京ゲームショウ2018に出展しました。音だけを頼りに、近づいてくる敵を倒すオーディオゲームで、プレイヤーはヘッドホンを装着して遊びます。野澤さんは、共同プロジェクト「DDD(Disability Driven Design)Project」のメンバーとして参加しました。

視覚障がい者でも遊べるオーディオゲームだけでなく、『スマブラ』や『ストリートファイター』という人気ゲームもプレイするという野澤さん。いったいどのようにプログラムを学び、ゲーム開発に挑んだのでしょうか。東京で開催された『Screaming Strike』体験会の会場で、話を聞きました。

『ストファイ』や『スマブラ』も「音だけでみんなと一緒に遊べます」

ーー野澤さんは、格ゲー(対戦ゲーム)を音だけで遊べると聞きましたが、本当ですか?

野澤:そうですね。格ゲーをすごくやり込んでいる人には勝てないかもしれないですが、みんなで楽しむくらいのレベルならできます。『ソウルキャリバー』とか『ストリートファイター』のシリーズ、あとは『スマブラ(大乱闘スマッシュブラザーズ)』とか。

ーーどのように聞き分けているのでしょうか。

野澤:ああいうゲームは基本的に、画面の真んなかを中心にして、左右にキャラクターが並ぶじゃないですか。それがそのままステレオ音声で反映される(画面の右側にいるキャラの効果音はヘッドフォンの右から聞こえる)ので、自分のキャラがどっちを向けば相手を攻撃できるかがわかるんです。コンボ(連続技)もありますけど、コンボの回数によって音がそれぞれ違うんで、相手が何をしてきたかがわかります。攻撃準備の「ため」の動作も音があって、相手が「ため」を始めたとわかったら回避できる。多少の記憶力はいりますけど。たとえば「この音は下段の攻撃が来るな」とか、おぼえておかなきゃダメなんですけど、そんなのは別にがんばっておぼえようと思わなくても、やってたらおぼえられます。『ポケモン』もできますよ。私はいま『ポケモン』にすごくハマっているんですよ。

ーー格ゲーは理解できましたが、RPGの『ポケモン』は音だけでは難しいと思います。

野澤:『ポケモン』はけっこうがんばらないとできないですね。地形を覚えたり、キャラの鳴き声をおぼえたり。あとはサイトを見て(専用ツールで読みあげさせて)、ストーリーを補完したり、ニンテンドーDSの画面をスマホで写して文字認識をさせたり。そのために、スマホが動かないよう三脚を持ってるんで。

ーー三脚にスマホを固定させる?

野澤:はい。スマホを固定して、その下にDSを置いて、読みあげさせながら遊ぶんです。「はい」「いいえ」を選ぶ場面で、なんの「はい」「いいえ」なのかわかんなくて、不用意に「はい」を押したら、よくないことが起きたりするかもしれないですから。

ーー目が見えない人たちは、そこまでやって遊んでるんですか?

野澤:やりますし、それがある意味で話のネタっていうか、コミュニケーションツールになっているんです。誰かに「あそこ、どうやって攻略すんだっけ?」って聞くと、「左の上のほうにいけばイベントが起きるから、あとは道なりに進んで入ればいいよ」とか、「ごめん。俺、そこは適当にやってたら抜けられちゃったからよくわかんない。誰だれに聞いて」とか返ってくるので。

ーーそれがゲーム本来の楽しみ方かもしれませんね。

野澤:『ポケモン』に関しては、見える人とのコミュニケーション手段にもなるんです。ふつうに対戦とかもできるので。ある意味、なんのハンデもアドバンテージもなく遊べる。よくわからないことがあったら、(目が見える)友だちのところに持っていって、「よくわかんなくなっちゃったんだけど」って言って、確認してもらったりとか。

我われのゲームの楽しみ方っていうのは、ただゲームをやって敵を倒すとかっていうのを超えています。なんでしょうね、情報交換だったりとか仲良くなる手段だったりとか、そういう風にとらえています。

『Screaming Strike』で遊ぶ筆者。ヘッドフォンで音を聴き、専用のコントローラーを操作して遊ぶ。

小学生でも「ゲームを作れないわけがない、という自信があった」

ーー野澤さんに「ゲームを作りたい」と思わせるような、きっかけとなるゲームがあったのでしょうか?

野澤:逆に、それがなかったから、作りたいと思ったんです。海外には目が見えなくても遊べるゲームがあったんですけど、当時は英語もわからないから遊ぶことができない。じゃあ、作るしかないよねってことで。自分でホームページを作って公開し始めたのが、10歳のときでした。

ーー小学生のときに、しかも目の見えない状態で、どうやってプログラムを学んだのですか?

野澤:1日に50回くらいググって、(読みあげツールを使って読んで)、プログラムを書いてみて、動かして。でも動かなくて、「なんで動かないんだ」ってググって、「こうやればできるんじゃないか?」と思ってまた試すということを繰り返しました。

ーーすさまじく根気のいる作業だと思いますが。

野澤:やっぱり「ゲームを作るぞ」っていう気持ちが強かったのと、音で遊ぶオーディオゲームのなかにHSP(Hot Soup Processor)っていう、小学生が使うプログラミング言語で作られているものがあることを知っていたので。そのこと自体は事実なんだから、「できないわけがない」っていう自信があったというのが正直なところです。外に出て遊ぶ場所もなかったので、そればっかりやっていて、とにかく時間をかけたというのもあります。

ーー読みあげツールでコードを書くことはできても、バグを修正するのは大変そうです。修正するたび、読みあげさせて確認するわけですよね?

野澤:動きがおかしい部分のコードがどこにあるかおぼえているので、まずそれを出して、上から読んでいって、「なんかおかしい気がするな」って。おかしい動作の状況と照らし合わせてみると、直ったり、新しいことがわかったりっていう。あとは普通のエンジニアさんもよくやると思うんですけど、ログを出して。「ここまでは来ている(=実行できている)のか」という作業をすることもあります。

ーー地道な作業ですね。

野澤:コーディングってのはだいたいそうです。“闇”ですよ(笑)

ーー小学生のころから大学生になるまでゲームを作ってきた、その「続ける」モチベーションは、どこにあるのでしょうか。

野澤:昔は「自分がやりたい」っていうのがあったんですけど、最近は、最新のテクノロジーをオーディオゲームに入れたいなと思っていて。立体音響だったり、VRを使ったものだったり。あとは人工知能みたいなやつがあって、マイクで話しかけたらヒントがもらえて、閉じ込められた場所から脱出するみたいなゲームが面白いかなとか。手前みそですけど、いまはファンの方が何百人といてくださるんで、そういう方たちを次はどうやってあっと言わせるか考えています。「あいつやりがった」みたいな反応があると、「しめしめ」と楽しむわけです。

ーー意外なところから攻めて、それをわかってもらえるとうれしい、と。

野澤:日本の方だと「リリースを楽しみにしていました。遊ばせてもらいます」みたいな反応が多いんですけど、海外な方だと「お前がこんなゲームをこんな時期に出したせいで、俺の宿題が大変なことになったじゃないか」みたいな表現でメールが届くんですよ。そういうのを見ると、内心「はっはー! ドヤア」ってなってます。

『Screaming Strike』はヘッドホンのLとRを間違えないよう装着することが重要だ

将来は働いて得たお金をゲーム開発という“道楽”に使いたい

ーーゲームショウに出展した『Screaming Strike』の反応はどうですか。

野澤:思った以上に受け入れられてるなっていう印象です。これまで何回か別の場所で遊んでもらったことがあったんですが、こちらの説明不足もあるんですけど、よくわからないって感じで終わっちゃう部分があって。自分で言うのもなんなんですけど、淡白な性格なんで、「目が見える人にはそんなに面白くないのかな。ま、いっか」って思ってたんですけど、このプロジェクトに入れていただいて、ゲームショウに出してみたら、思った以上に面白いって言っていただけて。それは驚きました。

ーー『Screaming Strike』はどれくらい時間をかけて開発したのですか?

野澤:もとになったゲームがあって、それは2日間くらいで作りました。一緒にゲームを作ってきた年上の友だちがいて、「この曲はいかにも間抜けで楽しいから、これを使ってひたすら迫ってくる人を叩くだけのゲームを作ってほしい」って言われて。自分もちょうど高校受験を控えていて、すごく真面目に勉強していたので、ちょっとアホになりたいなって思って。はっちゃけてみようと思って作ったんです。

それを今回、1カ月くらいかけて、チュートリアルを入れたり難易度を調整したりしました。敵が現れてから自分のところに到達するまでの距離の調整とか、移動音の調節とか、コントローラーへの対応とか、そういうことをして展示しています。

ーーゲームショウでは、プロのゲーム開発者とも話す機会があったのでは?

野澤:サウンドデザイナーの方がいらっしゃったので、「これは別に立体音響とかそういうすごい技術を使っているわけじゃなくて、左右のバランスと音量だけなんです」っていう話をしました。「それでもここまでできるのに、一般のゲームの音がモノラル音声だと悲しくなっちゃいますね」って、ちゃっかり要望をだして。これからは、特に「目が見えなくても遊べます」と言ってるわけではないけど、買ってみたらふつうに(目が見えない人も)遊べるゲームが増えるっていうのが理想ですよねっていう話をしました。

ーーこれからもゲーム開発は続けていくのでしょうか。

野澤:ゲームは作るんですけど、ゲーム業界に行くってことはあまり考えていないんです。アクセシビリティ(支援技術)とかにも興味があるので、そういった仕事をして、働くことで社会貢献をして得たお金を、自分の道楽のために使う。つまりはゲームを作る。それを続けるってことをしたいですね。

ーー人生に占めるゲームの割合が大きくないですか?

野澤:いまは正直、ゲームを作る時間っていうのがとれていないですね。ツール系とか、アクセシビリティのコーディングが多くて。だから、頭のなかでつねにゲームのことを考えているみたいなのはやめざるを得なくなったんですけど、ゲームは私にプログラミングを教えてくれたものですし、英語を教えてくれたものでもある。ゲームがなかったらコーディングをしてなかったかもしれないですし、海外の人と軽口を叩くこともなかったかもしれない。そういう意味では、感謝しています。

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