河川敷に生きるネコの「過酷な現実」 29年間支援をつづける写真家

河川敷に生きるネコの「過酷な現実」 29年間支援をつづける写真家
新宿ベルクに展示されている盲目の猫ミエコの写真

黄色と白と黒が混じったような濁った瞳の猫。9月中旬、東京・新宿のカフェ「ベルク」に展示されていた写真の一枚です。撮影したのは、写真家の小西修さん(62)。写真に添えられたキャプションによると、これは全盲の猫「ミエコ」で、河川敷に暮らすホームレスの男性が可愛がっていたといいます。しかしキャプションは、次のように続きます。

「2007年9月6日、南関東を直撃した台風9号の影響により、河川敷では徐々に水かさが増していった。ついに水位は8m上昇し、ミエコと暮らすIさんも早朝に小屋ごと流されてしまった。『濁流に浮かんだ小屋の屋根にネコとおじさんがいて、助けを求めていたがバランスを崩して水没し、そのまま姿が見えなくなった』とは後日耳にした消防隊員からの話」

野良猫の虐待を知ったのがきっかけ

神奈川県に住む小西さんが、関東平野を横断する多摩川の、河川敷に生きる猫を世話するようになってから、今年で29年になります。写真はその支援活動の合間に撮られたものです。

小西さんの活動の中心は、河川敷にいる猫の住み処を巡回し、エサをあげたり病気の猫を病院に連れていったり薬をあげたりすることです。動物愛護団体などには属していません。個人ボランティアと連絡をとりつつも、基本的には妻と2人で続けているのです。活動範囲は広く、上流の奥多摩地域から河口のある羽田まで、約138kmにおよびます。

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生後2カ月くらいのときに捨てられ、ホームレスに助けられたニコ(提供:小西修さん)

きっかけは、近所の公園にいた野良猫たちが虐げられているのを目の当たりにしたことでした。

「誰かが作った野良猫の住み処を壊して、そのうえに猫の死体がほうり投げられていたことがありました」(小西さん)。通りすぎるとき、猫を蹴っていく人も見ました。中年男性が、ゴルフクラブで猫を殴る現場を目撃したと語る中学生もいました。

「こりゃいかん!」と思った小西さんは、公園の先に流れる多摩川に目を向けます。「あそこには、もっと厳しい環境にある猫がいるだろうと想像したわけです」。実際にのぞいてみて、河川敷の猫たちの窮状を知った小西さんは、彼らの世話を始めます。

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フリーランスの写真家・小西修さん

散歩中の犬を猫にけしかける飼い主も

はじめは家の近くだけだった活動は「ここに猫がいるなら、あっちにもいるはずだ」と、川の対岸、上流、下流の河川敷へと広がっていきました。遠方に出かけるときは電車を使いますが、移動はいわゆる「ママチャリ」が基本。家の近所は妻に任せて、小西さん自身は日に50~60kmを走るといいます。

小西さんにはフリーの写真家として広告写真を撮る仕事があるため、毎日というわけにはいきませんが、それでも月に20日以上は、河川敷の猫の世話に出ています。「ちゃんと数えたことがない」としつつ、面倒を見ている猫は、数百匹単位だといいます。

「よく『猫には冬が厳しいでしょうね』と言われるんですが、実際は夏に命を落とす猫が多いんです」と小西さんは言います。「河川敷は多湿で、ノミ、ハエ、蚊、ダニといった虫が猫にとっての病原菌を撒き散らすんです」。

外で生きる猫は衰弱していることが多いため、健康な猫より病気になりやすいという事情もあるそうです。病気が重い猫や年老いた猫は自宅で保護していて、おもに小西さんの妻が面倒を見ています。

また、河川敷で生きる猫は、そこで暮らすホームレスの人たちと生活をともにしているものが少なくありません。小西さんはホームレスの男性が自分の食べる物を我慢して、なけなしのお金で買った缶詰を猫にやっている姿を見て以来、ホームレスの支援活動にも乗り出しました。

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河川敷で暮らす男性の飼い犬がくわえてきたウメ。のちに何者かによって撲殺された(提供:小西修さん)

「僕の自転車を見ると走ってくる猫がいる」

しかし、河川敷に生きる猫とホームレスという、社会的に立場の弱い者たちを狙った嫌がらせは絶えません。犬の散歩中にリードをはずして、猫にけしかける飼い主。ホームレスが暮らす小屋に花火を打ち込む少年ら。猫を捨てるために河川敷を訪れる人もいます。

「これがもし猫じゃなくてライオンだったら、誰もこんな扱いをしないはずです」と小西さん。「怒りとか憤りっていうのは毎日感じる」といいます。

小西さん夫妻の活動に休みはありません。29年間、2人で旅行に出かけたことはないといいます。また収入のうち、家賃や食費など最低限の生活費のほかは、大部分をこうした活動に費やしています。

思わず、「なぜ、そこまでするのですか?」とたずねてみました。

「やめるのは簡単です。でもできない。僕の自転車を見ると、こちらに向かってまっすぐ走ってくる猫がいる。あれを見ると休めないですよ」。体が動くかぎり続けると、小西さんは話していました。

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