仕事中の居眠りも「おじさん」なら許される? 兼業イラストレーターが「居眠事典」を作った理由

仕事中の居眠りも「おじさん」なら許される? 兼業イラストレーターが「居眠事典」を作った理由
オグロさんのZINE『居眠事典』より「腕組み」

「仕事中に寝ている上司がいて、イライラした」。『居眠事典』という名のイラスト冊子を作ったきっかけについて、今年5月放送の『タモリ倶楽部』で語ったのが、イラストレーターのオグロさんです。オグロさんは、東京都内のIT企業で働く一方、居眠りするおじさんたちを描き続け、ZINE(個人で作る小さな雑誌。ジン)としてまとめ、販売するようになりました。

さまざまな「居眠りおじさん」の姿を描いたイラスト集『居眠事典』

ひとりっ子で、趣味のライブを観に行くのも「ひとりがいい」というオグロさんは、30代の女性。いずれは会社員生活を脱し、フリーランスのイラストレーターとして独立することも考えています。8年間会社員として働いてきたオグロさんはなぜ、フリーランスの道に魅力を感じるのでしょうか? そもそも、「居眠りするおじさん」に注目したきっかけとは、なんだったのでしょう?

おじさんは、おもしろがって見てもらえる

ーー居眠りするおじさんを描くなかで気づいたことはありますか?

オグロ:おじさんって、許されるというか、おもしろがって見てもらえますよね。これは男の人の特権だなって。たとえば女性、特におばさんを題材にしていたら、こんな風にいい反応をもらえなかったんじゃないかなと思っていて。年をとった男の人は、ある程度だらしがなくても、周りが「仕方ないよね」みたいな気持ちになれるのでは、という風に自分のなかでは分析しています。

ーーそんなおじさんに対する嫌悪感はありますか?

オグロ:あんまりないですね。学生時代、バイト先に会社を定年退職したあと働いていたおじさんがいたんですけど、意外とミスするんですよ。「どうして?」と言いたくなるような簡単なことでミスしていて。女性が多い職場だったんで、みんな「なんだあのジジイ」みたいなことを陰で言ってましたけど、人柄的にすごく可愛い人で。ちょっとした発言が「かわいい!」って思えてしまう人で、結果許されちゃうみたいな。『居眠事典』はそういう人を目指して描いてました。

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取材に答えるオグロさん

会社員として働きつつ「絵には一縷の望みを残していた」

ーーオグロさんは現在、会社員ですよね。どのような仕事をしてるんですか?

オグロ:細かいところまでお話しできないのでですが、IT業界の片隅で働いています。地元でIT系の専門学校に通っていて、そのまま就職したんです。実はその前に、美術系の大学に通って油絵を描いていたんですけど、ボーッとしてたら就職できなくて。1年間フリーターをして、このままじゃマズいかなあと思っていたら、そういう学校があるって親に勧められて。なし崩し的に通うようになったんです。

ーー美術系からIT系だと、まったく違う世界ですよね。

オグロ:それはもう、東京に行きたいがためにそこに入って。半分くらい親をだましたような感じもあるんです。「就職してくれるならどこでもいいよ」みたいな感じにもなっていたので。私は家の空気も吸いたくなかったので、出るなら東京かなと考えていました。

ーー東京に何を求めていたのでしょう?

オグロ:完全に趣味なんですけど、ライブに行くのが好きで。地元には来ないようなライブでも、こっちではやっているってのがひとつ。同じように絵画や美術の展覧会も上野に行けば何かやっているというのがひとつ。あと、こっちに来ればイラストの学校みたいなのがいっぱいあって、そういうのにも行ければなあ、みたいな。まるっきり絵をあきらめたわけではなく、一縷の望みだけは残していたんです。

ーーそこからどのように『居眠事典』が作られていったのでしょうか。

オグロ:東京の築地に、イラストレーターの原田治さん(故人)が作られた学校があるんですけど、一昨年からそこに1年ほど通いました。毎週プロのデザイナーさんとか、イラストレーターさんとかが来て、作ったものを見てもらえる機会があって。それで「描いてる途中でも見てもらったほうが得だよな」と思って、出し惜しみせずに見てもらっているなかで、『居眠事典』のかたちが決まっていきました。

最初は女の人が居眠りしているパターンも描いていたんですけど、これを見たプロの方が「全部おじさんでいいんじゃない?」ってアドバイスをくれて。「せっかく描いたんだけどなあ」と思いましたが、他の人からも同じようなことを言われることが多くて。ならいっそ描き直そうと思って、いまの形になりました。

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居眠事典のイラストについて説明するオグロさん

ーー最初から冊子のかたちにしようと考えていたんですか?

オグロ:そうですね。何で知ったのか忘れましたが、ZINEという文化があるのを知っていて、いつか売り込みにも使えるかなと。学校に通っているあいだに夏休みがあったので、その間にできるかなと思ったら、素人すぎてまとまらなくて。何度かかたちを変えて、いまのものになりました。

「仕事のできる人は勘みたいなものが働く」

ーー『居眠事典』をきっかけに絵の仕事を中心にしたい、という思いがあるんですか?

オグロ:軌道に乗れば。ただ、そんなにうまくいくとは思っていないんです。私はまだまだ絵が下手くそなんで。

ーー絵の仕事が中心になると、いずれは会社員を辞めることになると思いますが、フリーランスになることに対する不安はないんですか?

オグロ:それはあります。想像なんですけど、フリーランスって、ひとりで会社をやるようなイメージがあって。実作業をやる人も、経理も、営業も、全部自分でやんなきゃならない。それを自分ができるのかなとか、そういう不安がありますね。ただ、自分には合っている気がするんです。会社での出世にはまったく興味はないし、何かに属するのは不得意だってなると、そうなっちゃうのかなって思っています。

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オグロさんのZINE『居眠事典』より「白目」

ーーIT企業であれば、フリーランスになるより金銭的に恵まれているイメージがあります。

オグロ:ただ、周りにいる人たちを見ていると、仕事ができる人は、勘みたいなのが働くんです。「これを実現したい」ってなったとき、とっかかりの部分を見つけるのがすごくうまいというか。私はたぶんそれを、絵のほうに活かしているんだろうと思っているんです。もちろん、すぐにフリーランスになることは難しいと思っていて、しばらくは会社員をしながら活動して、絵のスキルアップをしていこうと考えています。

ーーでは、この先もおじさんを描き続けるつもりですか?

オグロ:いま『居眠事典』の電車版を作っています。ZINEにして、秋から売る予定なんですけど、それがひと段落したらどうしようかなって。ネタはちょっと考えているものがあるんですけど、まだまとまってはいないんです。ただ、描き続けるつもりではいます。冬には個展を開くつもりで、そのときまでにはさらにもう1冊作るつもりです。あと、その個展に合わせて、出版社とかに売り込もしてみようかなと思っていて。今年が勝負だなって思っています。

さまざまな「居眠りおじさん」の姿を描いたイラスト集『居眠事典』

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