渋すぎて入りづらい「とんかつ屋」 見た目が頑固な店主80歳との遭遇

渋すぎて入りづらい「とんかつ屋」 見た目が頑固な店主80歳との遭遇
どう見ても頑固そうな店主。おそるおそる話しかけてみると……

店の引き戸を引くと、白髪のおやじがひとり、テーブル席で新聞を読んでいました。「すみません」と声をかけても、こちらに気づかない様子。少し耳が遠いのかもと思い、「まだやっていますか?」と大きな声で呼びかけます。

平日の午後1時半。ちょうど昼時のお客さんが帰って、ひと休みされていたのでしょう。三たび呼びかけたところでようやく筆者に気づき「やっていますよ」と顔をあげました。店主であるおやじさんと初めて目が合います。頑固そうな人だなぁ、怖い人かもしれないなぁ。ひとりで来たことを少し後悔しています。

メニューも店構えも古びている

「渋い店構えのとんかつ屋さんがある」と聞いて、訪れてはみたものの、いきなり店主と2人きりです。もう少し早い時間帯のほうがよかったかなと思いつつ、引き返すわけにもいかないので、壁のメニュー表をながめます。「とんかつランチ」(950円)を注文しました。メニューの価格のところを見ると、上から紙を貼って価格を訂正(おそらく値上げ)した跡がありますが、その痕跡自体が、すでに古びています。

料理にとりかかる店主と、無言の筆者。店内にはテレビの音だけが流れています。サンマの水揚げのニュース番組でした。もうサンマの季節か……と思うと同時に、おやじさんが「サンマか……」とつぶやく声が聞こえました。その瞬間、なんとなく気持ちが通いあったような気がしました。「この店はどれくらい前からやっているんですか?」。思い切って聞いてみました。

「もう50年になりますよ」。店主の顔がほころびました。「建物はいつからかわからないけど、もっと古いね」。店のなかは古い日本映画のセットのようです。カウンターとテーブル席のある店舗部分の奥には、使われなくなった座敷席。「なにひとつ変わっていない」と店主が言うように、カウンター、天井、飾られた酒瓶、すべてに年季が入っています。「ピカピカのお店で、美味しくないものが出てきたら腹が立つでしょ? 店が古くたって、美味いものが出ていればいいんです」。バチバチバチと豚肉を揚げる音が聞こえます。

とんかつ京町_3
この道50年の店主があげたとんかつ

5分ほど経ったでしょうか。とんかつを切るざくざくという音がして、「とんかつランチ」が運ばれてきました。思ってたよりデカい! と心のなかで驚きの声をあげます。この時点では、まだ店を取材させてほしいと伝えていないので、いつもこのサイズなのでしょう。

ひと切れ食べてみると、衣がバリッと香ばしい音を立てます。豚肉も「肉です」という感じで食べがいがあります。店が古くたってかまわないと豪語するだけのことはあります。お新香には、スライスしたニンニクが入っていました。食べながら店主に話を聞きます。このあたりで店主がおしゃべり好きな人だということがわかってきています。

「いいよ、好きに書いてくれて」

店主の会田さんは、現在80歳。東京の下町・堀切の生まれです。14、5年前に妻を亡くしてからは、ひとりでお店を切り盛りしているといいます。「70歳からこっちの人生は儲けたようなもんだから」、店をやめようとは思わなかったといいます。「好きなことをやって、お酒が飲めればそれでいいじゃないですか」。

とはいえ、50年。「大変だったけどね。会社員みたいに、真面目に出ているだけでお金がもらえるわけじゃないから」とは言いますが、その言葉の裏には、自分の腕に対する自信があるように思いました。

とんかつ京町_2
東京のJR新小岩駅から徒歩15分の住宅街にある古風なとんかつ屋「京町」

ネットメディアでこの店のことを紹介したいと伝えたとき、「間違っていたり気に食わなかったりしたら、私の名刺の電話番号にご連絡ください」と言いそえると店主は「いいよいいよ。好きに書いてくれて」と手を振ります。「人の考えを変えようなんて、できっこないんだから」。東京・新小岩駅から徒歩15分ほどの住宅街にあるとんかつ屋さん「京町」でのひとときです。

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