大切なのは「思いやり」 資料作りのプロが語る「人を動かす極意」

大切なのは「思いやり」 資料作りのプロが語る「人を動かす極意」
資料作成に関する本を著した松上純一郎さん(撮影・中村英史)

誰かに大事なことを説明したり、提案したりするときに作成する「資料」。そのコツを伝授する「資料作成講座」を個人や企業に向けて開催し、多くのビジネスパーソンの支持を得ている株式会社ルバート代表取締役の松上純一郎さん(37)。2018年6月に初の書籍『人を動かす資料のつくりかた』を出版した松上さんに、資料のつくりかたの極意、そしてオンリーワンになれる秘訣について聞きました。

たまたま始めた資料作成講座が「天職」ともいえる仕事に

――資料ってビジネスパーソンが必ず使うのに、意外と習う機会ってないですよね。だから「資料作成講座」ってなかなか新鮮に感じます。いつごろから開催しているんでしょうか?

松上:講座自体は2010年ごろからはじめました。当時はNGOに勤めていたんですが、自分でも稼がないといけなかった。そのとき自分が教えられることが、たまたま前職のコンサルで身につけた資料作成だったという感じです。結果として、自分は教えることが好き、ということがわかって、さらに受講生が喜んでくれるので、「これをもっとやっていこう」と思うようになりました。

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僕のモットーとして、「人がよりよく生きる世界を実現したい」というのがあるんです。資料作りって、だいたいビジネスをやっていれば誰でも必要なスキルなのに、教えてくれる人や学校がほとんどない状態。それで、資料を作るのが面倒くさいとか、ストレスになったりしている。だから僕が教えることによって、みんなが技術を身につけて、少しでも働きやすかったり、アイデアを伝えやすくなったりすればいいなと思います。

――資料作成講座を受けに来る人は、どんな人が多いんですか。

松上:異動して企画系の仕事になった人とか、資料を作る機会があるけれど自己流でうまくいかない人、それからコンサルの人も来ますよ。あとは、市役所や都庁などの人もいます。生活保護受給者にビジュアル的に紙芝居で説明するために良い資料を作りたい、というニーズがあるのは、僕も初めて知りました。

――出版した本は『人を動かす資料のつくりかた』というタイトルですが、「人を動かす資料」ってどういうことなんでしょうか?

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松上さんの初の著書『人を動かす資料のつくりかた』(撮影・中村英史)

松上:「資料をつくる」ということは、必ず伝えたい相手がいて、その相手に何かしてほしい、と思っているはずなんです。まず、作る前に「何をしてほしいか」という目的をちゃんと考えるべきです。その上で、文字ばかりだと受け取る側が読むのがしんどいから、ぱっと見てわかるように図を使って説明してあげる、というテクニックを使います。

資料は「小さなメディア」。資料自体に語らせる

――資料作りで、みんながつまずくポイントってあるんでしょうか。

松上:そもそも伝える内容のストーリーラインを作れなくて、けっこうな人がつまずきますね。どういう順番で、どういうメッセージを伝えていくのか。なかなかそこが整理できないまま、資料を作り始めてしまう人が多いです。ストーリーラインを作るのは結構大変なので、まずは、1枚のスライドで説明できるようにトレーニングしてみることをお勧めしています。

資料は、それ自体で完結するようになっていないといけなくて、いかに資料に語らせるか、というのが肝になってきます。資料って、小さなメディアだと思うんですよ。自分本位にならず、受け手のことを考えながら作るようにしないといけません。

そもそもの話になりますが、伝える手段は資料に限らないかもしれない。「相手にどういうコミュニケーションが伝わるか?」というのをひたすら考え続けることで、ほかの人と、コミュニケーションでの差がついてくるのではないかと思います。相手のことを考え抜いたうえで、相手への「思いやり」をもって作ることが大切ですね。

アフリカで気づいた「物事はシンプルじゃない」

――松上さんが「資料作成のプロ」になるまでは、どういうキャリアをたどったんでしょうか。

松上:もともと、父は障害者施設に勤務し、母は保育士でした。幼少の頃から「福祉」というものが身近で、「ビジネスと社会課題を結びつけて何かができないか」と思っていました。大学院で途上国のことを学んだのち、外資系コンサルへ。資料作成のスキルはそこで身につけました。本当に最初は苦手で、嫌だったんですが、仕事にならないので必死で身につけました。

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その後、NGOに転職して、アフリカのザンビアなど、あまり日本人が行かない場所にも行きました。そこで思ったのは「物事って、そんなにシンプルじゃないんだな」ということ。正直、現地に行くまでは「日本は豊か、途上国は貧しい」ぐらいの認識だったんです。

でも実際に行って現地の価値観に触れたら、たしかに貧しくはあるんですけど、日本人が学ぶべきところもたくさんあるな、と。こういう世界もあるんだ、と視野が広がりました。同時に、今やっているNGOによる「援助」って自分が本当にやりたかったことなのか?という違和感を抱いたんです。

転機となった、夢の中での気づき

――もやもやを抱えてNGOを退職した松上さんの転機はいつだったんでしょうか?

松上:NGOを辞めてからも「社会の課題をビジネスで解決しよう」と思っていたんですが、あるとき「社会課題とビジネスをいったん切り離そう!」と夢の中で気づいたんです。これが自分の中で一番大きい転機でした。

自分が究極的にやりたいことは、通常福祉でしかアプローチできない層にビジネスでアプローチしたい、ということだったんですが、その難易度は極めて高い。まずは社会課題への取り組みとビジネスを切り分けて、目の前のできることからしっかりやっていこう、と思うようになりました。今は日本だろうがアフリカだろうが、達成したい状態をできる範囲で小さくても作り、周りに対して発信していけばいい、というように考えています。

例えば、僕は今、資料作成の研修や企業コンサルをメインにしていますが、年に数回、コワーキングスペースを貸し切って発展途上国でビジネスやNGOに取り組んでいる方の話を聞くイベントを開いたりしています。少しでもいいから社会的なことに関われたら、と思ってやっています。

「自分はこの仕事をしているから他のことに取り組むのは難しい」と思っている人って多いですが、例えば自分の時間を100としたら、100すべてが仕事をしているわけじゃない。10でも、1でも、もっと言えば0.01ぐらいからでも、やりたいことに少しずつ関わっていけば自分なりのビジョンを実現していけるんじゃないかと思います。

掛け算をしていくことで、オンリーワンの人に

――自分だけの特技や強みはどうやって作られていくと思いますか。

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松上:「自分にとって大事なことは何なのか?」というのを追いかけられていない人が多いな、と感じます。ついつい、他の人や世間的な「常識」に自分の選択を委ねてしまいがちですよね。例えばキャリアや専門性は一つのことに集中すべきという考え方がありますが、僕は主体的に自分で選べば、興味のあることはどんどんやったほうがいいと思っています。人間ってそんなにシンプルじゃないと思うんですよ。

好きなこと、興味があること、得意なことを「掛け算」していくと、オンリーワンになれる。自分の箱は自分で作っていくべきだと考えています。自分の箱を作れれば人はいきいきしてくる。これは、アフリカに行ったから気づけたことでもあるんですが、彼らはいきいきと働いている。やっぱり人って、いきいきとしているときのほうがパフォーマンスが上がるよな、というのを感じています。

今回、本を出しましたけど、「伝わる資料ってなんだろう?」と日々考えることはやめません。最初に紙を見たときに目に入る色の濃淡や、視線の動きなど、とにかく人間の資料に関する認知についてばかり考えています。やっぱり、好きなんだな~って、たまに自分でも思います(笑)

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