「孤独死はかわいそう」は本当か?「ひとり死」時代の理想の逝き方

「孤独死はかわいそう」は本当か?「ひとり死」時代の理想の逝き方
第一生命経済研究所の小谷みどりさん

50歳男性の4人に1人が未婚という空前のソロの時代。生き方ならぬ「逝き方」のかたちも劇的に変わりつつあります。「今の時代、ひとりのほうが上手に逝ける」。そう指摘するのは、四半世紀にわたって日本人のお墓と葬送を見つめてきた第一生命経済研究所の小谷みどりさんです。なぜ「ひとり死」のほうがいいのか。『<ひとり死>時代のお葬式とお墓』(岩波新書)という著書をもつ小谷さんに「ひとり死」の実態について聞きました。

「葬式を出す人がいない」ケースが増えている

――だれにも看取られずに死んでいく「ひとり死」が増えていると聞きます。現代の葬送事情は変化していますか。

小谷:だいぶ様変わりしています。いまは年間134万人が亡くなる「多死時代」ですが、さらに増えていて、このままいくと20年後には年間168万人が亡くなると試算されています。

そうなると、葬儀社や墓石業者がもうかるように思えます。しかし、お葬式もお墓も、死ぬ人と残される人がいて成立するものです。実際には、亡くなる人は増えても、「葬式を出す人がいない」「お墓参りをする人がいない」というケースが増えているんです。

「ひとり死」が増えた背景には、死亡年齢の高齢化があります。たとえば、2016年に亡くなった女性の8割近くが80歳以上でした。90歳以上に限ってみても、4割近くを占めています。亡くなる人が高齢になれば、家族や親族も同じように年をとる。自分が死ぬとき、どれだけの人が葬式やお墓の面倒を見てくれるでしょうか。

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死生学や葬送問題を研究してきた小谷みどりさん

――葬送をとりしきる人がいないわけですね。

小谷:通夜や告別式などのセレモニーをしないで火葬する「直葬」も、少しずつ増えています。遺族が、故人の甥や姪、年老いたきょうだいなどの場合、「遺骨を引き取りたくない」ということで、自治体に持ち込まれることも多いんですね。そういうとき、本当はお墓があるのに、甥や姪が知らなくて、無縁墓に納骨されてしまうかもしれません。

そんな事態を防ぐため、神奈川県の横須賀市では今年5月から「わたしの終活登録」という事業を始めました。希望する市民は、遺言書の保管場所やお墓の所在地、それらの情報を開示する対象者など11の項目を登録しておくことができます。問い合わせも含め、かなり関心が高いそうです。

――どんな人が申し込むのでしょうか。

小谷:登録した人の多くは、子どもや配偶者がいる人だそうです。40代の子どもに障がいがあって「親子で登録したい」と願い出たケースがある一方で、「自分が死んだら、離れて住む子どもに絶対に知らせないでほしい」という依頼もあったそうです。

家族がいようがいまいが、最後は個人の意思。その意向を確認しなければ、「家族がいる=面倒をみる人がいる」ということにはならない。基本は個人であり、家族は「オプション」でしかありません。

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小谷みどりさんの著書『<ひとり死>時代のお葬式とお墓』

ひとりのほうが「上手に逝ける」ワケ

――もはや家族だけでは、人の死を担いきれなくなっている感じがします。

小谷:昔は村や町の自治会など、地域で葬送を支えていました。それが立ち行かなくなり、家族にその役目が回ってきたけれど、いまや家族全員が年をとり、ここも機能しなくなりつつある。家族がいたってそうなのだから、シングルはどうなるでしょう。

そもそも欧州では、お墓を子々孫々継承するという発想はありません。子や孫がいようがいまいが、税金を払えば火葬からお墓まで行政が担ってくれる国が多い。

一方、日本は家族(イエ)と墓が密接にリンクしていて、お墓に入れるまでは残された家族が責任を持たないといけない。この、お墓の「永代使用」(子孫が絶えるまで使う)という考え方も、高度成長期までは機能していたんです。ほとんどの人は生まれ育った村や町で働き、結婚して家族をつくり、死んでいった。でも、いまはそちらのほうが少数派です。

――「ひとり死」は日本の死のあり方の平均像になるのでしょうか

小谷:孤独死って、だれにも発見されずに、自宅で死んでいくことでしょう。でも、みんな「ぽっくり逝きたい」と思っているのだから、たまたま発見が遅れたとしても、住み慣れた自宅でのぽっくりは、ある意味で幸せな死に方かもしれませんよ。

家族と一緒にいたって、死はいつ訪れるかわからない。家族が出かけているときにひとりで家にいて心臓発作が起きたら? 単身赴任先で亡くなったら? 「ひとりで逝くことはかわいそう」と偏見を持っている人が多いのですが、果たしてそうでしょうか。

むしろ、ひとりのほうが上手に逝けると思います。どんな風に死にたいか、誰にも遠慮する必要がないのだから。本来はみんな家で死にたいはずなのに、そうならないのは、病を抱えて家に帰ったら家族が困る、迷惑をかけると思うからです。家族と同居している人ほど「ぽっくり死ぬ」ことを願うというアンケート結果もあります。

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第一生命経済研究所の小谷みどりさん

ひとり上手は人生のリスクヘッジがうまい人

――小谷さんは夫と死別したそうですが、ご自身は、どんな最期を迎えたいか、ふだんから意識していますか。

小谷:実は、お葬式やお墓のことはほとんど考えていません。葬儀関係や僧侶・神父の友人がたくさんいるので、だれかが必ずなんとかしてくれると思っている(笑)。死んだ後のことなんてわからないし、「彼らはやってくれる」と信じて、万が一のときにお願いできる友人知人を2、3人確保しておくことが私のリスクヘッジです。

私は講演などで、独り暮らしのお年寄りに、マスターと会話できる昔ながらの喫茶店の常連になることを薦めています。そこに毎日モーニング食べに行きなさい、と。いつも来る人が急に来なくなったら、「あれ?」と思うでしょ?

――日々の生活の中に「上手に逝くためのヒント」がありそうですね。

小谷:ひとり上手な人は、TPOに応じて会話を楽しむスキルを身につけている人が多いですよね。バーに入ればマスターや隣の客と酒や趣味の話、異業種交流会では仕事の話、サッカー同好会ではサッカーの話といったふうに、いろんな世界を持っている。つかず離れずの関係をどのくらい構築できるかというのが、意外と重要です。

家族がいると、家族だけが頼りだと思いがちになる反面、子どもが巣立ったあとは夫婦の会話がなくなり…となってしまう。妻に先立たれ、一人になったら、友人もおらず、引きこもりになる男性高齢者は少なくありません。以前おこなった調査では「妻より先に死にたい」と思う男性が圧倒的に多かった。これは既婚男性が、自分がどう老い、どう死を迎えるのかを妻任せにしているからです。

これからの時代、妻しか頼る人がいないという状況は危険です。何かあったときに頼れる人はいるのか、どんなふうに逝きたいか、ふだんから家族や友人との会話の中で気軽に話しておくことが大事です。

死はいつなんどき訪れるかわからない。ひとり上手な人は、自分がどう生きたいかという幸せのベクトルを持ち、いざとなったら助け合える、つかず離れずの人間関係を上手に構築している人ではないかと思います。

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