「孤独のグルメ」原作・久住昌之さん「いまは佐賀に行くのがすごく面白い」

「孤独のグルメ」原作・久住昌之さん「いまは佐賀に行くのがすごく面白い」

個人で輸入雑貨商を営む男性が、訪れた街で「ひとりの食事」を堪能する人気漫画『孤独のグルメ』。その原作者・久住昌之さんは「ひとりの時間」をどのように過ごしているのでしょうか。現在、東京・信濃町アートコンプレックスセンターで個展を開催中の久住さんを訪ね、話を聞きました。

個展『久住昌之 59→60展』では、久住さんの絵画やイラスト、切り絵、焼き物といった作品が展示されています。それは漫画原作者、イラストレーター、画家、ミュージシャンなど、さまざまな顔を持つ久住さんの多才ぶりをそのまま反映しているかのようです。

今回は、そのタイトルからもわかるように、会期中に久住さんが60歳の誕生日を迎える節目の個展でもあります。そこから、久住さんがいま興味を抱いているもの、惹かれているものの一端が見えてきました。

時間をかけていいものを作った谷口ジローさん

ーー60歳を迎えるあたって、感慨のようなものはありますか?

久住:特にないですね。とはいえ、周囲の人たちと一緒に年をとっていくじゃないですか。僕がデビューしたときにずっと上にいた人や仲良くしていた先輩たちも、年を取ったり、亡くなったりする現実があります。残された時間は少ないんだなっていうことは思いますね。無駄なことはあまりしたくない。かといって、「効率よく生きよう」とか「売れもしないものは作らない」とか、そういう計算はしないんですけども。

ーーどういうことでしょうか。

久住:次につながることをしたいなと。昔は「この一作こそヒットしないか」っていう気持ちがあったかもしれないけど、いまは「いまやってることをちゃんとやっておけば、もっと大きな次につながるだろう」っていう淡々とした気分で作っています。なにしろ、谷口ジローさんと描いた『孤独のグルメ』なんて20年も前に描いたものですから。

あれを描いたときは30代です。それがまだ売れていたり、その続きのドラマを作っていたり、音楽を作っていたりするというのは、谷口さんが時間をかけていい絵を描いたからなんだろうな、と。そういうところは自分も受け継ぎたいなと思います。

『孤独のグルメ』原作・久住昌之さん
個展に展示されている切り絵。精緻な技がみてとれた

ーー『孤独のグルメ』の話が出ましたが、久住さんは「孤独」をどう捉えていますか。

久住:僕はたぶん好きなんだと思います。ひとりが。ひとりで歩くのが好きだし、ひとりでいるのも好きだし、ひとりで仕事をするのも好きだし。「孤独」っていう風には思わないですね。ひとりでなんかするのが性に合っている。

ーーひとりでお酒を飲まれることもありますか。

久住:毎晩だいたいひとりですね。仕事が終わったらだいたい1時ぐらいなんで、そしたら近所で飲んで帰る。ビールを飲んで、焼酎とかお酒を飲みながら、先のスケジュールを立て直したり。いろんなことが同時に進んでるんで、それを整理したりとか。そうやってひと息ついて帰るって感じです。ごくたまに友人と夕方から飲めるとすごく嬉しい。

旅はひとりで行くのが「一番自分の好きなスタイル」

『孤独のグルメ』原作・久住昌之さん

ーー今回の個展では、陶器の作品が多くあります。これはどのようなきっかけで始められたのでしょうか?

久住:「ナニワエキスプレス」というバンドから、オフィシャルグッズで有田焼のマグカップを作りたいという話があったんですね。僕は切り絵をやるので、メンバーの似顔絵を切り絵で切って、原画にしたんです。それがきっかけで、有田焼のある佐賀県とつながったんです。

できあがったものを見たら、すごくきれいで、品があった。「面白いですね」って言ったら、向こうには有田焼とか吉田焼とかいろんな焼き物があって、窯元があるから、そこに絵を描きにこないかと誘っていただいて。一度遊びに行ったら、またやりたくなって、個人的に佐賀県に通うようになったんです。

ーー佐賀県にはどれくらいのペースで通われたのですか。

久住:半年で4回通いました。そのうち、焼き物以外でも佐賀県はすごく面白い県だと気づき始めたんです。自分は全然佐賀県のことを知らなかったし、知ろうとも思っていなかったなと。それで佐賀を歩き始めた。

ーー佐賀県の魅力ってどういうところでしょうか?

久住:それはまだひとことでは言えないです。「佐賀県のことを書いてるんだ」っていうと、みんな「なんで?」っていうんですよ。いまもそう言いましたよね? 沖縄とか北海道だったらイメージがあるけど、佐賀っていうのは、すごくスルーされてるんじゃないかなと思って。そこが面白いんです。実際に自分の足で歩いてみると、驚く風景があったり、驚くような食べ物があったり。

ーーそういった旅は、編集者さんたちと一緒に行かれるのですか?

久住:ひとりで行くことが多いですね。バンドの演奏旅行はもちろん別ですけども。そうさせてもらっているんです。カメラマンとかつけないで。それが一番自分の好きなスタイルなんで。歩いたりする速度とか、寄り道や店に入るのも、ひとりのほうが誰にも気を遣わせないですむ。ひとりで迷ったり、じっくり考えたりするのがいいんです。

ーー地方そのものに面白味を感じているところありますか?

久住:地方、というカテゴリーで旅を考えたことはありません。近所にだって僕の知らない世界がまだまだあると思うし、知らない世界に行って、自分自身で新たな発見をする。そうしてそれを自分の作品に活かす。今回の吉田焼の絵付けもそうです。谷口ジローさんとの出会いも、デビュー作の和泉晴紀さんとの出会いも、旅のようなものです。そうやって自分の世界を広めていったのが、これまでの僕の作品作りだったと思います。

<久住さんの個展『久住昌之 59→60展』は、東京・信濃町アートコンプレックスセンターで7月22日まで開催されています>

TAGS

この記事をシェア

合わせて読みたい