「デパートが消えると、街が死ぬ」 日本全国のデパートを制した男、寺坂直毅の偏愛

「デパートが消えると、街が死ぬ」 日本全国のデパートを制した男、寺坂直毅の偏愛

ラジオ番組「星野源のオールナイトニッポン」などの構成を担当する、放送作家の寺坂直毅さん(37)。日本でも有数のデパートマニアでもあります。日本百貨店協会に加盟している全国のデパート、250店舗全てを訪れたという寺坂さん。そもそもなぜデパートなのか? 何がそんなに魅力的なのか? じっくりと話を聞きました。

小さな頃からデパートは「遊び場」

――そもそも寺坂さんがデパートに興味を持ったきっかけは、なんだったんでしょうか。

寺坂:僕は宮崎出身なんですが、実家の3軒隣に宮崎山形屋というデパートがあったんです。小さい頃から毎日のように通っていて、従業員の人に遊んでもらったりしていました。普通の子どもは公園とかに行くんでしょうけど、僕の場合は遊び場所がデパート。エスカレーターを登ったり降りたり、乗り物を楽しむ感覚で遊んでいました。外観がビルなのに、中に入ると街があるというギャップにもワクワクしましたね。

小学校2年生のときに、街に新しいデパートができたんです。家の向かい側にできたデパートは(ガラス張りの)シースルーエレベーターで、家からずっとシースルーエレベーターを見たりしていましたよ。当時はエレベーターガールがいたので、「あ、あのカゴに乗っているのは〇〇さんだ」とか、そこまでじっくり見ていました。

広島への旅が、デパート愛を目覚めさせるきっかけに

――「乗り物」「遊び場」だったデパート、さらにのめり込むきっかけはなんだったんですか?

寺坂:昔アレルギー性鼻炎がひどくて、名医を訪ねて家族で広島に行ったことがあるんです。これも小学2年生のときだったかな。広島に大きいデパートが4軒あって、日本有数のデパート王国といえる場所を訪ねました。それまでエレベーターは1機、20人乗りのものしか見たことがなかったのが、4機のエレベーターがズラッと並び、さらに一つ一つが30人以上乗れて、常に満員。その活気に圧倒されました。

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「デパートの優しさ」に触れたという寺坂直毅さん(撮影・齋藤大輔

屋上遊園地もすごく充実していたんですが、興奮して走り出したら他の子供とぶつかってしまい、前歯がグラグラになって大流血。そうしたら係の人が医務室に連れていってくれて、歯医者さんも優先的に案内してくれたんです。僕の前歯がいまもしっかりあるのは、そごう広島店のおかげです(笑)この事件で、「デパートの優しさ」に感激して、もっといろんなデパートを見たいと思うようになったんです。

――それで全国のデパートを見に行くことになったのですね。

寺坂:長い休みのたびに父親が僕を2人旅に連れて行ってくれるようになりました。1日目は観光して、2日目はデパートめぐり、というのが定番の行程でした。あとは1人でもどんどん出かけるようになりました。小学校4年生のときは、1人で鹿児島に行きましたよ。当時はネットなんてなかったので、バスの時間とかも全部電話して調べて。周辺の商業施設を見てから、最後にデパートに行くという行程を組んでいました。今の時代、小学生が1人で旅してたら問題視されそうですよね。のどかな時代だったかもしれないです(笑)

――旅の目的は、完全にデパート?

寺坂:そうです。目的は完全にデパートを見に行くため。小5で福岡、中1で名古屋、中2でついに夜行バスで東京に行きました。兄のところに1週間滞在したんですが、地図を買って、デパートらしきところにひたすら印をつけて、とにかくいろんなデパートに行ったんです。やはり日本橋三越や伊勢丹新宿店に行ったときは、圧倒されましたね。

寺坂流、デパート訪問術

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――さまざまなデパートを訪れていると思いますが、見る際の「作法」のようなものがあるのでしょうか。

寺坂:まずは、デパートの周りの商業施設をチェックします。そしてできれば前日の夜に行って、閉店している状態のデパートの外観をじっくりと眺めて、中を想像。次の日は正面玄関から入り、まずは1階のフロアをぐるりと歩きます。1階は百貨店の「顔」ですからね。その後は、エスカレーターで上まで上がって、エレベーターに乗って降りてきます。

エスカレーターで上がった場所って、そのフロアの正面なんですよ。一番気合の入った場所というか。それをじっくり見て上がっていくんです。ちなみに面白いなと思った百貨店は、やはり新宿伊勢丹。各フロアのコンセプトが全然違って、毎回違う世界に連れて行かれる感じです。それからそごう広島店。ここは変わっていて、3階に突然バスセンターがあるんです。いきなり異空間が出現します。あとは熊本の鶴屋百貨店に、ルックインエスカレーターというのがあるんですがこれはすごいですよ。エスカレーターに乗りながらずっと外がみえるんです。

「デパートは文化の発信地」

――いま、大型ショッピングセンターの台頭や生活スタイルの変化などもあり、デパートは急速に姿を消しつつあります。

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寺坂:実は、日本全国47都道府県の県庁所在地には、まだかろうじてデパートがあるんです。デパートって、単なる商業施設じゃないんです。言うなれば、文化の発信地なんです。やっぱりその土地のちょっと特別な日に行く、みたいなところがあって。例えば、お中元、お歳暮をデパートの包み紙でもらう、それ自体がステータス。デパートがなくなると、街が死んでしまいます。どこもかしこもイオンばかりで、金太郎飴みたいになってしまうな、と感じています。

――消えていくデパートと残るデパート、その違いはなんなのでしょうか。

寺坂:やはり地域に根付いているデパートは、今でも活気を感じます。鹿児島の山形屋、熊本の鶴屋、福岡の岩田屋、岡山の天満屋、金沢の大和、仙台の藤崎、水戸の京成百貨店などですね。その中でも鶴屋は、市の中心街にありながら、駐車場も充実。屋上遊園地やラジオのスタジオ、ホールなどもあり、デパートでありながら熊本の文化の発信地になっているんです。子どもを大切にしたり、子育て世代を応援したりなど、次世代のファンをつかむ取り組みもきめ細やかに行っていますね。

鶴屋に限らず、人が集まるしくみや仕掛けをしている百貨店は、これからも応援したくなります。

僕は2009年にデパートに関する本を出版したんですが、その時に取材させてもらったデパートの人たちと今でも交流があったりするんです。やはり、元気があるデパートは、若い社員が勉強しているかどうかで違うなと感じます。僕が行く度に「他の地域はどうなっていますか?」と聞いてくる社員の方がいると、ああ、ここの店舗はまだ大丈夫だなと思います。

――ちなみに、寺坂さんの一番好きなデパートは…

寺坂:いろいろなデパートを見ましたけれど、やはり山形屋ですね。僕の原点です。今でもすごく元気で、地元との結びつきもすごくしっかりしています。

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――ちなみに、デパートめぐりは1人で?

寺坂:まあ、こんなことにつきあってくれる人もいませんから(笑)、基本は1人で・・・あ、でもたまに案内したりもします。そうすると、自分にはなかった視点があったりして面白い。親を連れて行くこともありますよ。東京の大きいデパートなんて、それこそ親にとっては非日常なので、楽しんでもらえます。今後も、全国のデパートを見続けていきたいですね。

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