「丁寧な暮らし」はなぜ退屈なのか、丁寧に考える

「丁寧な暮らし」はなぜ退屈なのか、丁寧に考える
モノトーンを基調にアースカラーが配色される「丁寧な生活」

僕はいま、「エシカル(倫理的)」というコンセプトを掲げるファッションブランドで、地球や社会環境に配慮した服作りをしている。また、「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」という大上段なメッセージを発信する会社で、社会課題の解決のために、企業向けのブランディングやクリエイティブ施策を行ってもいる。こうした仕事柄、「丁寧な暮らし」を送っていると思われがちだ。

「丁寧な暮らし」とはこんな感じだ。朝起きて、好みの豆をフレンチローストしたオーガニックコーヒーをFire-King(ファイヤーキング)のマグに注ぎ、昨日買ったランチョンマットを背景に写真を撮って、Instagramに投稿。知り合いがたくさんいる渋谷のコワーキングスペースで仕事をして、地方在住の友達が久しぶりに東京で行うイベントに顔を出す。週に1回生け変える花を買って帰宅したら、一汁一菜とご飯の夕食。このように、一つ一つの「暮らし」のパーツに心配りし、生活と人生の満足度を上げることが「丁寧な暮らし」のコアだと思う。

僕はこの「丁寧な暮らし」があまり好きになれない。なぜなら、生きていく上で大事だと考えている「欲望と冒険」がごっそりと抜け落ちているように感じるからだ。

人生には欲望が大事

人生には欲望が大事だと思っている。「起業して金を稼ぎ、鬼のようにかわいい芸能人とつきあいたい」。「ある程度の裁量権を持ちながら社会の役に立つ仕事がしたい」。「時給10円で服を作り続けているバングラデシュの労働者を助けたい」。これらは全て欲望で、そこに優劣や善悪はなく全てが等価。そんな欲望が多面体のサイコロのようになっていて、生活の中でコロコロ転がるのが人間で、それが人生の豊かさにつながっているのではないかと思うのだ。

しかし、自分の衣食住を一つのトーンで染め上げることに労力をかける「丁寧な暮らし」は、欲望の振り幅を狭めて制限する鎮静剤のように感じてしまう。心を落ち着け、ピンセットで城のミニチュア模型を作るように、「丁寧に丁寧に丁寧に」日々を過ごすことへの注力は、癒されるどころか逆に神経が磨り減りそうで、僕には絶対に無理だ。

「暮らし」と「冒険」、どちらを選ぶか

人生には冒険が大事だと思っている。作品としては『ドラえもん』や『こち亀』、『ちびまる子ちゃん』のような、日常に始まり日常に終わるものも好きなのだが、自分の人生としては、見ている景色、仲間や敵がどんどん変わっていく冒険のような生活がいい。

人生を「暮らし」と定めるか、「冒険」と定義するかは人それぞれの好みと自由だ。しかし、貧乏でもなく金持ちでもない家庭に生まれ、祖父母や両親から健全な教育と愛情を与えられ、埼玉県の中堅の私立高校から四年制大学に進んでサークル活動に熱中し、社会人になって仕事をそれなりにがんばっているという自分の平凡さを強く感じるからこそ、「暮らし」という言葉からこぼれ落ちてしまうような非日常が魅力的に映る。

経済成長が止まって30年が経ち、「ゆとり世代」「さとり世代」がカルチャーを作る中、成長や勝敗がついてまわる冒険的な人生観は、たぶん少し時代遅れなんだろう。でも、モンスターがいるダンジョンには行かず、ひたすら町の中で一定の動きを繰り返すRPGの町人のような生活を僕は送りたくない。

欲望が溶け込んだソーシャルグッドな世界を追求

布田コラム第一回_1
エシカルファッションブランド「INHEELS」の仲間と

冒頭に話したように、僕は社会課題の解決をコンセプトにした会社で働いている。オーガニック、フェアトレード、地産地消、エシカル消費。「ソーシャルグッド(社会貢献)」という言葉とつながるいくつかのキーワードとともに仕事をしているが、やっぱり「丁寧な暮らし」が好きになれない。こうした自分の価値観は、過去の「暮らし」から始まっていると最近つくづく感じる。

高校生の頃、DJもしないのに大量にレコードを買っていた。聴いていたのは日本のHIPHOP。ちょうど「ZEEBRA」がメジャーデビューしたり、「THA BLUE HERB」という北海道のグループが突如現れてシーンを席巻した頃で、日本のHIPHOPのアドベンチャーが始まることを予感させる、とてもワクワクした時代だった。

その頃の僕は、カラオケに行ったり、塾に行ったり、やっぱり平凡な日々を送っていたけれど、思春期の体験は影響力があって、今でも当時のHIPHOPのリリック(歌詞)を使って思考しているし、その言葉たちが今の日常のリアリティを作り出している。「丁寧な暮らし」が想起させるモノトーンを基調にしてアースカラーやグリーンが配置される世界ではなく、飛び散る絵の具やストリートの匂いがするカラースプレーで彩られた、人間の様々な欲望が溶け込んだソーシャルグッドな世界を追求していきたいと思う。

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