築地は「片手袋の聖地」だ! 市場に落ちてる手袋に「人生」が刻まれている

築地は「片手袋の聖地」だ! 市場に落ちてる手袋に「人生」が刻まれている

片手袋研究家ーー。私の肩書きです。よく町なかで片方だけの手袋が落ちているのを見かけませんか? 「なぜ片手袋が発生するのか? どんな場所に多いのか? 誰が落としていくのか?」。そんな謎を解明すべく日々ひたすら研究を続けてきました。13年間で撮影した片手袋の写真は、4000枚を超えています。

「何でそんなことをするのか?」

「何か意味があるのか?」。

えっと、誰よりも私自身が私自身に対して強くそう思っておりますので、ひとまずそういった疑問は置いておきましょう。お願いします。

たまに「よく片手袋で飯が食えますね?」と聞かれることがありますが、もちろんそんな夢みたいな話があるはずもなく、普段は飲食関係の仕事をしています。今年2月に、「マツコの知らない世界」(TBS系)に出演した後、私のプロフィールなどを勝手にまとめたサイトができました。そこでは、「片手袋の講演や番組出演などで500万円ほどの収入があるようだ」と書いてありましたが・・・。すみません、その500万円はどこに行けばいただけるのでしょうか?

築地市場は片手袋の「聖地」

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話が脱線してしまいました。片手袋研究の話に戻りましょう。片手袋にとって「聖地」とも言える場所がいくつかあるのですが、東京の築地市場はその一つです。

仕事のために20年近く築地市場に通っていますが、もし私がそういう生活環境になかったら、4000枚もの片手袋と出会うことはなかったと思います。それくらい、築地市場では毎日毎日たくさんの片手袋が生み出されています。なぜでしょう?

まず、築地は手袋を使用している人がとても多い場所です。そして、1分1秒を争うくらい忙しく動き回っている人が多いことも重要です。つまり、手袋をしている人が多く、細かいことを気にしていられないほど忙しければ、必然的に片手袋が発生する確率は高くなるわけです。

現在開催中のW杯では、ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド選手がいきなりハットトリックを決めて話題になりましたが、築地では1カ所でハットトリック(3枚の片手袋に出会うこと)を達成することも珍しくありません。

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1カ所でハットトリックを達成

片手袋から読み取る人間模様

築地で定期的に大量の片手袋と出会えたことは、片手袋研究に大きな変革をもたらしました。落ちている片手袋から、その場所の特異性や、人間の行動パターン、働いている人達の性格など、さまざまな情報を読み取れることに気づいたからです。

これは片手袋に限りません。たばこの吸い殻が多く捨てられてしまう場所、カラスやすずめが密集している場所、ひしゃげたガードレール、一部だけ劣化が進んでいるコンクリート。町で目にする何気ない光景に注意深く観察と思考を巡らせてみると、思いもよらぬ発見がある。これこそ町歩きの醍醐味と言えましょう。

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築地市場に落ちていた片手袋

片方だけ落ちている青いゴム手袋。これを見かけたときは、こんな想像をしました。

「魚をさばいていた人かな。いや、ターレー(運搬車)を豪快に乗り回していた人かもしれない」

「 片方だけなくなっていることに気づいた時はどんな顔をしたのかな。 代わりのゴム手袋はどうするんだろう」

20年近く築地市場に通って、直接言葉を交わし、お金のやり取りがあったからこそ築き上げることができた人間関係もありますが、落ちている片手袋から読み取れる人間模様もそれはそれで豊かなものです。

片手袋的見地から移転問題を語るべき」

ですから、ひとまず大きな道筋は決まったと思われる今だから書くのですが、「豊洲新市場への移転問題」はとてもとても辛かったです。

移転問題はいくつもの論点があり、築地に関係している人達の中でも立場や視点、業態の違いによって様々な意見がある繊細な問題でした。それは急に噴出した問題ではなく、そういった問題を抱えながら市場の歴史を積み重ねてきたのです。移転について意見の違いはあれど、「良い食材を届ける」という点においては、皆が与えられた条件の中で職務を全うしている。私が長年見続けてきた築地市場はそんな場所でした。

しかし移転問題に沸き立つメディアで目にする築地市場は、私が見てきたものとはあまりにもかけ離れていました。時には大量のネズミや汚水など不衛生なイメージが強調され、Twitterで「不衛生な築地市場の魚はもう食べない」という趣旨のツイートを見かけた時には、涙が出てきました。

手袋を片方落としても構っていられないくらい忙しく働く人達。卵焼きを頬張る時に片手袋を落としてしまった観光客。こうした築地の日常の姿がないものとして扱われ、何か別の大きな流れのもとに議論が行われているように感じました。こんなんじゃ駄目だ!

「もっと片手袋的見地から移転問題を語ってほしい!」

一時期、私は声を大にしてそう主張しておりました。でも、家族にすら聞いてもらえなかったのはなぜでしょう?

とにかく現時点では、築地市場は今年10月に豊洲新市場へ移転する予定となっています。それまでに「最後の築地場内を体験しておこう」と思っている人は、すごい速さで運ばれていくマグロに目を丸くするも良し。新鮮なお寿司に舌鼓を打つも良し。ですが、ぜひ落ちている片手袋のシミや汚れの一つ一つも注意深く観察してほしい。

そこには、築地市場とそれを支えてきた人達の歴史が刻み込まれているのです。

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片手袋に刻まれた築地市場の歴史

※なお、築地市場の「場内」の見学には、様々なルールが設けられています。そうした情報をあらかじめ確認した上、仕事をしている人の邪魔にならないよう見学をお楽しみ下さい。

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