タダで古民家を手に入れた!? 44歳からの「自家発電」田舎暮らし

タダで古民家を手に入れた!? 44歳からの「自家発電」田舎暮らし

人はそうそう変わらない。ので、古い友人に久しぶりに会っても「わはは、あんた相変わらずその話するのね」「え?前にも話したっけ」と笑い合うことが多い。だが・・・。

ももせさんは違う。知り合って20年以上、ときどき会って「いま何やってるの?」と聞くと、毎回違う答えが返ってくる。編プロのライター、ダイビングショップの営業マン、フィットネスの店長、ローフード料理の先生、台湾のお菓子屋さん、移動式の八百屋さん・・・。軽やかに変化し続ける人生だ。転がる石に苔はむさず。思えば、ももせさんの話に湿気を感じたことは一度もない。

だからももせさんの転職話には今さら驚かないけれど、今度の話にはひっくり返った。10年ほど住んでいた品川のプール付き高層マンションから、三浦半島の先端の一軒家に引っ越したという。しかも築60年の家をタダで手に入れたとか。なになになに、どういうことよ。わたしは京浜急行に揺られて、ももせさんの新居を訪ねた。

三崎口駅から車で15分、海辺の路地にその家はあった。4畳半と6畳の部屋に台所がついた小さな平屋建て。直近の約20年は空き家だったため、引っ越してきた当初はかなり傷んでいたらしいが、壁の穴を塞ぎ、柱に柿渋を塗り、畳を張り替えて、想像していたよりずっときれい。犬のタローが座布団の上で眠っている。

「自然な暮らしがしたいなーって気持ちが、だんだん強くなってきたんだよね」とももせさん。きっかけは、ローフードを学んだことだった。食に気を使うようになり、麻のふんどしを締めるようになり、無農薬栽培の農家とつきあうようになった。まわりに風変わりなナチュラリストが増えていくにつれ、マンションのローン返済のためにせっせと働く暮らしがアホらしくなった。

 タダでもらった古い一軒家

ももせさんは1年ほど前、友だちと三浦半島のイベントに出かけた。その帰りに三崎口の居酒屋にふらりと寄ったのだという。飲みながら、住む家を探してるんだ、犬もオッケーな物件がよくて、なんて話をしていたら、居酒屋の大将が言った。

「おれ、知ってんよ。古い一軒家だけど、欲しい人がいたらタダでやんよ」

タダでやんよってのは、タダであげるよの意味だった。

「ぜったいやばいと思ったわけ。知り合ったばかりの人がタダで家をくれるって、あり得ないでしょう。それでも、ま、せっかくだから見るだけ見ようかって展開になって・・・」

押入れの壁に穴が開いていて、虫やイモリが入り放題の古い家。床に積み上がった20年分のほこり。長い間だれも使っていない電灯のヒモの先に、カスタネットが結びつけてあった。

 「怖っ!と思ったよ。カスタネットを叩いたら、おばけ出そうじゃん」

わはは。たしかに。そんな家に住むのは勇気がいる。

 「でもなんかさ、この家だったら、ひとりで楽しめる気がして」

 「トイレのくみ取りをしたとき、うれしかった」

家の持ち主は大将の友人で、ほんとに土地ごとタダでくれることになった。タダとは言っても、登記する費用とか贈与税とか諸経費が20万円くらいかかったらしい。それから畳の張り替えに15万円ほど。

 話しながら、ももせさんは手動のコーヒーミルで豆を挽き、カセットコンロで沸かしたお湯でコーヒーをいれてくれた。そう、この家には電気もガスも通っていない。

「最初は炭をおこして七輪で煮炊きしてたんだけど、ついついカセットコンロというものを導入してしまった。えへへ」

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ポータブルのソーラーパネル

電気もガスもないとどうなるんだろうという興味から、ももせさんは外部の送電網に頼らず電力を自給自足する「オフグリッド」生活を始めた。洗濯は手洗い、食材は塩や味噌で漬けるか日干しして保存、風呂は水浴びか銭湯。ポータブルのソーラーパネルを使って発電し、夜間の電灯とスマホの充電に使う。雨天が続くと電気が作れず、近所のカフェや居酒屋に行って充電させてもらうらしい。

 「ガチガチのオフグリッドじゃなくて、ゆるグリッドって感じ。ははは」

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海で拾ってきた電球。「つかないよ。オブジェだよ(笑)」

ぼっとん便所を、排泄物を堆肥(たいひ)に変える「コンポストトイレ」に改造した。半年に一度くらいの頻度で自らくみ取り、臭わないように処理し、太陽熱で発酵させ、堆肥にする計画だとか。

「初めてトイレのくみ取りをやったとき、なんだかうれしかったんだよね。自分が出したものを自分で処理してる!って実感があってさ」という話に、わたしは感じ入った。すごいなぁ。自分のうんちを再利用する。それこそが自然な暮らしの原点だ。水で流しておしまいっていうのは、ほんとは不自然なことなのだ。

ももせさんの目下の仕事は、週に2、3度、自然栽培の野菜を仕入れて販売すること。ときどき野菜料理のフードコーディネーターやローフードのレッスンもする。いずれ“ゆるグリッド”生活の体験講座なんかもやりたいと思っている。

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昼寝はハンモックで。昔ながらのしっかりした造作の家は、ビクともしない

「家賃も光熱費もかからないから、気楽なもんだよ」と言いながら、毎日結構忙しそうだ。畑をして、釣りをして、料理して、洗濯して、発電して、修繕して・・・と、ナチュラルライフは手間暇がかかる。「この家だったら、ひとりで楽しめる気がして」って、そういうことだったのだ。

 日が傾いて、上空でトンビが鳴いている。

「暗くなる前に、海辺を散歩しよっか」

「いいねぇ」

 犬のタローがピョン!と立ち上がる。

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