「自分はないほうがいい」 みうらじゅんが語る「仕事術」

「自分はないほうがいい」 みうらじゅんが語る「仕事術」

これまでに「ない仕事」を作り出してきたーー。今年60歳になったみうらじゅんさんはそう語ります。「マイブーム」や「ゆるキャラ」など、他の人が思いつかなかったアイデアを形にしてきました。そんな「ない仕事」をするには「自分をなくして仕事をしたほうがいい」というのが持論です。どういうことなのでしょうか? みうらさんの「仕事術」を聞きました。全2回インタビューの後編です。

*前編「俺は趣味がないから、老後が心配だ」はこちら

戦略も営業もやる「一人電通」

――2015年に出版された『「ない仕事」の作り方』(文藝春秋)のなかで、みうらさんは「一人電通」だと言っていますね。企画以外にも、戦略、営業、接待まで全部やるんだと。

みうら:俺はそもそも才能に満ちあふれているわけじゃないから、こっちからいかないといけなかっただけの話で。でも、人付き合いは好きなのでね。たくさんの人たちに気に入ってもらえるにはどうすればいいか考えていた。自分の話ばかりしていても聞いてもらえないから、その人の話をちゃんと聞くようにしてね。そういう営業、わりとうまかったんですよ。雑誌の編集者と飲みに行って、「僕、この雑誌大好きで、こういう企画はどうでしょう? 書けるやついるんですよ」って持ちかける。説得できたら「実は書くの俺なんですけど」って(笑)。

――みうらさんから企画を持ち込むんですね。

みうら:これまでに「ない」仕事だから、向こうはわかんないでしょ。今でも新しい企画は、基本持ち込みですから。ずいぶん前だけど「ゆるキャラ」の連載をやりたいと思って、出版社に持ち込みしたんですが、「持ってきてもらわなくても、こっちから行きますのに」って言ってくれたんだけど、「いや、来る理由ないじゃないか」って(笑)

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たくさんの本や置物が並ぶ事務所で語るみうらじゅんさん(撮影・齋藤大輔

何千何万のものを「倉庫」で寝かせている

――「マイブーム」や「ゆるキャラ」などは、誰でも知っているほど世の中に広まりました。逆にブームにならなかったものは?

みうら:有名になったものなんて、たぶん2、3個くらいですから(笑)。それ以外の何千、何万ってやつは、うちの倉庫で寝ています。ワイン工場みたいなもので、熟成するのを待ってるんだ。いつか誰か、バカなものを見たくなるときがある。そのとき、サッと出せるようにね(笑)。それは世の中の常識が変わったときだね。

――たとえば、どういうものがあるんでしょう?

みうら:まだ、概念がないんですよ。概念がつかないと、そのものだけでは面白いと思ってもらえないから。でも、何かと何かが結びついて、別の概念になることがある。AとBを足したときに、Cになるときがある。「ゆるキャラ」は完璧にCになって世に出回ったんだと思いますよ。

そこに「打ち出の小槌」があるでしょ。興味ないけど買ってるんだ(笑)。正直、いらないけど、「打ち出の小槌」に何か引っかかるんですよ。「打ち出」っていうけどさ、そんな言葉使うの「小槌」くらいしかないとこに。

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みうらじゅんさんの事務所にあった「打ち出の小槌」

――たしかにそうですね(笑)「打ち出の小槌」ブームが来るかもしれない?

みうら:この素材をどう使ったら面白いのかってことですけどね。たとえば、新聞の一面に「打ち出の小槌」の写真があれば面白いのでは、とか? まあ別に、「打ち出の小槌」じゃなくてもいいんだけど、注目が集まってないものほど面白い。毎日そんなことばっかり考えてます。

仕事に「実体」なんかない

――本のなかで「自分がある人」よりも「自分がない人」のほうがいいと書いていますね。どういうことでしょう?

みうら:自分があると面倒臭いでしょ。何かを見せるときも、自分の意見を加えると、人は途端に見なくなるでしょ。でも「こんなものがあるよ。しかもこんなにたくさん」って見せて、相手に感想をゆだねるとね、人は関心を持つんじゃないかと思います。自分の色をなくしたほうが、見るほうからしたら入りやすいから。

――自分の色をなくすんですか。

みうら:その人の意見が入ってないものが溢れた時代は景気がいいもんですよ。今はネットで、自分のメディアを簡単に作れちゃう。人の意見を聞かなくてすむじゃない? どんな企画も通っちゃうのがクセモノでさ。だけど、雑誌や新聞は一度、原稿を編集部の上の人に見せないといけないわけでしょ。一個ハードルがあって「どうすれば通るだろう?」って考える。それが一番大切なことで、読者を増やすことじゃないですか。

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――みうらさんの漫画や小説を読むと、その根底に仏教の色即是空、つまり「この世にある一切の物質的な物は空虚だ」という価値観が流れているように感じられます。仕事についても「実体がない」と思っているのでしょうか?

みうら:仕事も本当は実体がないのに、あるように見えていますよね。定年になると、いきなり仕事がなくなって、心が折れてしまうなんてことも。あると信じていたのに、実はなかったってことでしょ。よく家庭でうざがられるっていうじゃない。まだ会社にいるつもりだから。俺はずっとフリーだから、はじめから立場なんてないんだよ。肩書きなんて通用しなかったし、信用もしていなかったんだ。

――みうらさんの考え方は、どうしてそんなに自由なんでしょう?

みうら:物事をはっきりと断定するのが怖いんだと思います。いま、トランプでも誰でも、断定する人が多いでしょ。「こうだ」とか「こうすべきだ」って。断定って、あることが前提でしょ。『ある前』(笑)。そこが怖くてたまりません。

――『ある前』の怖さですか(笑)

みうら:なんの根拠で断定しているのかわからないのが怖いでしょ。でも逆に、いい加減すぎるのも嫌だし、難しいよね。自分でわかっていながら、いい加減なことを頑張ってしてるのが好きだね。断定する人は「平均」ってやつも信じてる。「みんなはそうだ」「普通はそうだ」って。でも「普通ってなんなんだ?」って思いません? そんなの実体がないんだ。全てに実体はない。って、これも断定ですけどねえ(笑)

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*前編「俺は趣味がないから、老後が心配だ」はこちら

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