カジノにも「神様」がいる!? ラスベガスで体験した不思議な出来事

ラスベガスのストリップ(大通り)南端にある ホテル「サン・レモ」(2005 Photo by Masanari Matsui)
ラスベガスのストリップ(大通り)南端にある ホテル「サン・レモ」(2005 Photo by Masanari Matsui)

ぼくがカジノを始めた1990年代初めのこと。長い休みを取ってラスベガスに来たが、お金が十分にあるわけではない。とにかく安く済ませようとストリップ(ラスベガス大通り)南端の小さなカジノホテルに宿泊した。

サン・レモ(現在はフーターズ・カジノホテル)という名前でとにかく閑散としていた。ただでさえ少ない宿泊客はここでは遊ばず、別の大きなカジノに遊びに行った。

出掛ける際にこのホテルのカジノを通るが、ディーラーだけがいつもポツンと突っ立っていた。その目はどこか淋しそうだった。彼らと目が合うたび、ここで遊ばないと悪いんじゃないかと思った。

しかしカジノ初心者でかつ田舎者のぼくは、いかにもラスベガスらしいド派手なカジノで遊びたいため、後ろ髪を引かれながらも外に出て行った。

ディーラーが合図をくれた!?

ひっそりとしたサン・レモの玄関 (2000 Photo by Masanari Matsui)

そんなある日のことだった。外のカジノで大負けし、打ちひしがれてサン・レモに帰って来ると、ブラックジャックのディーラーから声をかけられた。

「どうだい? 勝ったかい?」
「とんでもないよ。エライ目に遭ったところだ」
「わっはっは。人生なんてそんなもんだ。ちょっとやっていかないか?」

カーネル・サンダースみたいなディーラーは自分のテーブルを指さした。これも流れだと思って腰を下ろすと、ゲームが始まった。

ブラックジャックとは、配られたカードの数字の合計が21を超えない範囲でより大きな数を作り、ディーラーに勝つことを目指すゲームだ。

最初のうちはヒット(=次のカードを引く)するか、ステイ(=引かない)するかで全く迷わなくていいような、わかりやすい手が配られた。

幸先良く連勝し、やって良かったと思った途端、今度は難しい手になった。ぼくに来るのは弱いカードばかり。判断も裏目に出る一方で、ディーラー相手に四苦八苦。立て続けに難しい手が来て、まさに進退窮まった時だった。

ふと顔を上げると、彼が片目をつぶり、首を小さく左右に振った。

ぼくはハッとした。「引くな(=ステイ)」という合図ではないかと思ったのだ。でも、そんなことを教えてくれるわけがない……。自問自答したが、崖っぷちに立たされた身としては藁をも掴みたい気持ちだ。

彼の仕草を信じてステイすることにした。するとぼくの勝ち。少額だが、お礼のチップを差し出すと、彼はニッコリ微笑んだ。これで流れが変わったとみて、次は賭け金を増やしたところ、やってきたのはまたも難しい手。

ウンウン唸りながら彼を見ると、今度は頬が盛り上がるほど微笑んだ。さっきとは違うリアクションに、もしやと思ってヒットすると大正解。

当人にはそんなつもりがなく、全てぼくの思いこみかもしれないが、白い髭も相まって、彼のことがまるで「神様」のように見えた。ぼくは感謝し、お礼のチップを奮発した。

MGMの打ち上げ花火

緑色の建物がMGMグランド。左手前はサン・レモの看板(2000 Photo by Masanari Matsui)

その時だった。カジノの外で「ドーン」「ドーン」と大きな音がした。道路を隔てたカジノホテル「MGMグランド」で花火が始まったのだ。次々と打ち上げられる大きな花火。その明かりはサン・レモの中にも届いた。

MGMといえば「砂漠に現れた緑のオオトカゲ」と言われる大きなカジノだ。それに比べるとサン・レモは小さく、トカゲの鼻先のアリのようなもの。くしゃみをすれば飛んでいってしまいそうだ。

「花火、きれいだね」

神様のように見えていた彼が、そう言ってカードを配った。しんみりとした言い方だった。
配られたのは難しいカード。ヒットかステイか迷っていると、外ではまた花火が炸裂した。派手な連続花火だ。

「ウチじゃあんなサービスはできないね」

そう言いながら、彼は片目をつぶり、首を小刻みに振った。彼を信じてステイするとぼくの勝ち。

「花火よりこっちのサービスのほうが好きだな」

そういってお礼のチップを渡すと、彼はニヤリとした。

サン・レモの”神様”は健在だった

その後しばらくして、ぼくは連れと一緒に再びサン・レモに泊まった。あのディーラーはまだ働いていた。彼はぼくのことなど覚えていなかったが、連れが判断に迷うと、あの時と同じことをしてくれた。

“神様”は健在だったのだ。合図を送ってくれるたび、ぼくらはチップを弾んだ。

でも、そんなにチップを払っていたら儲からないのでは? と思うかもしれない。そんな人はちょっと思い浮かべてみてほしい。

ぼくたちは神社にお参りする際、お賽銭を払うものだ。お願いをする時は半信半疑だから、せいぜい100円くらいかもしれない。

しかし実際に願いが叶ったとなれば、お礼したい気持ちは自然と沸き上がるものだし、1000円や2000円払ったって惜しくないと思うのではないか?

ディーラーがカジノの神様であるなら、チップはお賽銭のようなもの。カジノで願いを叶える秘訣と思い、ぼくはケチらず払っているのだ。

しかし近年では、サン・レモの”神様”のようなケースは非常に少なくなっている。それはなぜなのか。次回のコラムでお話ししたい。

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松井政就 (まつい・まさなり)

作家。1966年生まれ。著書に『本物のカジノへ行こう!』(文春新書)『大事なことはみんな女が教えてくれた』(PHP文庫)ほか。ラブレター代筆、ソニーのプランナー、貴重品専門の配送、ネットニュース編集、フィギュアスケート記者、国会議員のスピーチライターなどの経歴あり。外国のカジノ巡りは25年を超え、合法化言い出しっぺの一人。夕刊フジでコラム連載中。

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