トンネルに近づくと「さあくるぞ!」とドキドキする――マニアが語る「トンネル歩き」の魅力

旧三瓶トンネル(愛媛県)の前で座っている花田欣也さん
旧三瓶トンネル(愛媛県)の前で座っている花田欣也さん

山中などにある、人通りがほとんどない古いトンネルを訪ねて、みんなで歩く。そんな奇特なツアーを旅行会社・朝日旅行が今年の冬に計画しています。題して「トンネル探検隊がゆく!宇津ノ谷明治トンネルと巌井寺トンネル~静岡の産業遺産」。実際にトンネル歩きをしながら、トンネルに関する歴史や雑学の知識を深めます。

このユニークなツアーのガイド役を務めるのは、トンネル探究家の花田欣也さん(57)。会社員として旅行関係の仕事をしながら、日本各地のトンネルを訪ね歩くことを「ライフワーク」にしています。2017年には、著書『旅するトンネル』を出版。東北から九州まで約30カ所のトンネルに赴いた記録をまとめました。

「トンネルへ歩きながら近づいていくとき、『さあ、そろそろくるぞ!』と思わずドキドキするんです」と、熱っぽく話す花田さん。トンネルのどこが、そんなに面白いのでしょうか。暗闇の向こう側にある意外な魅力について語ってもらいました。

旧御坂隧道(山梨県)

トンネルの中で大声を出して歌う

――「トンネル探究家」という名刺を初めて見ました。花田さんはなぜ、トンネル歩きが好きなんでしょう?

花田:しんと静まったトンネルの闇の中をひとりで歩くと意外と落ち着きます。母親の胎内にいるような感覚になります。たとえば、長野県の「夏焼第2トンネル」は1km以上の長さがあって、まず人も車も通りません。座って弁当を広げたい気分になります。

――「恐さ」を感じませんか?

花田:正直、恐いですよ(笑)。僕は心霊的なことは感じないのですが、闇に包まれる恐怖はあります。だから、腹の底から大きな声を出して歌うんです。世良公則&ツイストの「あんたのバラード」など、いくつか持ち歌があるんです。私の下手な歌も、すべて包み込んでくれるのがトンネル。歌っていると、恐さを通り越して、落ち着いてしまいます。汗をかいて発散して、気持ちがいいんです。

トンネル探究家の花田欣也さん

――花田さんがトンネル好きになったきっかけは何だったんですか?

花田:最初にトンネルを強く意識したのは、30年ほど前に仕事で中国地方の小さな城下町に行ったときでした。あるキリシタン墓地の近くの林道を歩いていたら、突如、目の前に「K」という隧道(トンネル)がどかーんと現れたんです。その時、草むらの奥の古びたトンネルの闇を目の前に、衝撃で立ちすくんでしまいました。

――どうしてでしょうか?

花田:まず「恐怖心」がありました。闇が永遠に続いているように見え、「この先はどうなっているんだろう」と思いました。「入ろうか、やめようか」。仕事を完全に忘れて、迷いました。でも、闇の世界から「入ってはいけない」と言われている気がして、結局、入ることができなかったんです。

――最初の「トンネル体験」では、中に入らなかったんですね。

花田:「畏怖心」に近いものを感じました。トンネルを抜けると、どこか別の世界に行ってしまう気がした。そんな錯覚というか、確信というか。それから、トンネルに惹かれるようになりました。もともと鉄道ファンで旅好きだったので、日本各地のトンネルも歩いてまわるようになりました。

靄の吹き出る杉本トンネル(滋賀県)

トンネルを作った人たちの熱い思いを感じる

――山の中にあるトンネルも訪ねるということですが、そこまではどのように行くんですか?

花田:私は車を運転しないので、電車やバスといった公共交通機関と徒歩で向かいます。ほとんど人の通らない林道を歩くと、自然を満喫できます。あるときはトンネルを出た途端、カモシカの親子に出会ってびっくりしたこともありました。ひとりで歩いていると、いろんなことが頭に浮かびますね。自分の人生を振り返ってみたり、仕事の立ち位置を考えてみたり。自分はこれでよかったんだろうか、と。

――トンネルの情報は記録しているんですか?

花田:ノートにトンネルの長さや歴史などをメモしています。歴史のあるトンネルだと、側にある碑に、作られた由縁などが記されていることがあります。また、上部のトンネル名を記したプレート「扁額(へんがく)」やアーチの中心に位置する「要石(かなめいし)」なども確認します。意匠を凝らしたものも多いです。じっくり見ていると、当時の製作者や地元の人たちの熱い思い、心意気が伝わってくる気がするんです。

厳井寺トンネル(静岡県)の「扁額」

――いつの時代のトンネルが好きですか?

花田:特に戦前のトンネルはいいですね。70年以上もの時間が経過したものは味わいが出て、威厳があります。ただ、私は、いまも現役のトンネルだけを歩くようにしています。自治体が通行を禁じた、崩落の可能性もある危険なトンネルで、もしも事故が起こったりすると、地域の方々に迷惑をかけるので。

「インスタ映え」するトンネルがある

――花田さんのベストトンネルはどこなんでしょうか?

花田:今回のツアーでご紹介する「宇津ノ谷明治トンネル」(静岡)でしょうか。明治9年(1876年)建造の日本初の本格的なレンガのトンネルです。開通当時、日本のトンネルとしては初めて、通行料を徴収していた「有料トンネル」だったそうです。ここの最大の魅力は、今風に言えば「インスタ映え」です。天井のオレンジ色の照明がレトロチックでいい雰囲気です。内部を程よく照らしているので、レンガ積みの美しさが伝わってきます。よくこれだけのものが今まで残っているなと感心しますし、明治以来保全されてきた地元の方々に頭が下がります。

宇津ノ谷明治トンネル(静岡県)

――当時の技術が高かったんでしょうか?

花田:そうですね、日本のトンネルの技術は高いんです。地形が険しく火山の多い厳しい条件のなかで、建設技術に改良を重ねてきました。最も象徴的なのは、青函トンネルです。約54kmに及ぶ長い海底トンネルを作る技術を培った。そうした優れた技術は、ヨーロッパの英仏海峡トンネルなどにも輸出されているんです。

――海外に輸出までしているんですね。知りませんでした・・・

花田:私は日本のトンネルは誇るべき産業遺産だと思っています。こんなに素晴らしいものがまだ現役として数多く残っている。その保守は苦労を伴いますが、ぜひそんなトンネルに行って、先人の造った造形美を感じてもらいたいです。トンネルの魅力ができるだけ多くの人に伝わればいいなと思っています。

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